枯色、極彩、湯の香り。 ~奥日光 冬支度 4日目 ④~

初冬の日光中禅寺立木観音

美味しいゆばそばにお腹も心も満たされたところで、すぐ近くに位置する中禅寺へお参りすることに。輪王寺の別院として、多くの人々が訪れます。

初冬の日光中禅寺立木観音
湖の名前にも冠される中禅寺ですが、立木観音という呼び名が一般的。その名の通り、この立派なお堂の内部には、桂の立木を彫り上げたという立派な十一面千手観音菩薩像が祀られています。

初めて訪れる立木観音。地下にはその根が今でも残るといわれ、千年以上へて今なお穏やかな表情で参拝者を見守り続けています。僕も思わずその柔和なお顔に見とれてしまう。現代人にも通ずる静かで優しい表情に、自ずと自分の内側の波風が鎮められるよう。

初冬の日光中禅寺立木観音鐘楼越しに望む雄大な男体山
観音堂と五大堂で日光に古くから伝わる信仰に触れ、中禅寺をあとにします。撞けば願いが叶うという諸願成就の鐘が吊るされる鐘楼の先には、この地を太古の昔から守り続ける雄大な男体山。この山をはじめとする日光の自然の力に、古の人々は神や仏を感じたに違いありません。

初冬の日光中禅寺湖立派な朱塗りの大鳥居と勇壮な男体山
人影もまばらな静かな湖畔を、勇壮な男体山を視界に据えつつ歩く午後。どれだけ見ても飽きることのない、この優美かつ雄々しい姿。この山の力を身近に感じられるのも、あと少し。

初冬の日光中禅寺湖弱い日差しに輝く湖面
朱塗りの大鳥居から湖水を見れば、分厚い雲もきれはじめ初冬の弱い陽射しが創る煌めきが。草木も色を失い、黒く染まる山並み。その器を満たす水だけが、黄金色という色彩をもつことを許されたかのよう。

初冬の日光華厳の滝エレベーターから降りた観瀑台から望む華厳の滝
背中に男体山と湖水の煌めきの気配を感じつつ、華厳の滝へと進みます。今回は、久々に『華厳の滝エレベーター』で観瀑台へ行ってみることに。四半世紀ぶりに望む下からの眺めは、僕の記憶に残っていた以上の迫力。

切り立つ断崖を、水しぶきを上げ豪快に落ちる一筋の白い帯。その中ほどからは中禅寺湖の伏流水が染み出し、幾多もの繊細な白糸を垂らしています。木が葉を落としたこの時期だからこそ味わえる、滝の全体像。周囲の枯色が、緑豊かな時期にはない荒涼とした世界を醸します。

初冬の日光華厳の滝観瀑台から見上げる柱状節理
ふと見上げれば、宙をさまようように重なる柱状節理の姿が。男体山から流れ出た溶岩により堰き止められ造られた中禅寺湖。その淵を形成する岩はこの通り崩れやすく、現在でも少しずつ浸食されているそう。

初冬の日光華厳の滝駐車場脇の観瀑台から望む滝の落ち口
エレベーターで上へと戻り、駐車場脇の観瀑台から違う角度で滝を俯瞰します。中禅寺湖から流れ出た大尻川が滝として流れ落ちつつ浸食を続ける落ち口。遠い将来、それが中禅寺湖へと達したとき、湖自体が消滅してしまう可能性も。

初冬の日光夕空に映える赤鳥居と中禅寺湖
太古の昔から不変とも思える雄大な光景を造り上げてしまう、自然の力。そしてそれを時には悠久の時をもって、時には一瞬で変えてしまうのも自然の力。僕は普段あまりパワースポットの類には興味がありませんが、日光を訪れると自然の持つ力を感じずにはいられない。

古くから様々な形で信仰を集めてきた日光という特別な場所。いつしか晴れた夕空は、そんな日光を夜へと静かに導きます。

夜に浮かび上がる東武日光駅舎
3泊を過ごした奥日光に別れを告げ、バスに揺られて駅へと到着。夜闇に浮かぶアルペン風の駅舎が、別れの寂しさを一層強くさせるよう。

東武日光線6050系普通南栗橋行き
もうあとは帰るだけ。帰路は普通列車で、のんびり東京を目指します。もうこれまで何度も乗った、東武鉄道の6050系。車体は更新されているものの、足回りは半世紀以上経たものも。

東武鉄道6050系車内でSL大樹の日本酒ワンカップを
何度乗っても心に染みる、大好きな6050。私鉄らしからぬ重厚な旅の気配と、私鉄だからこそのちょっとした華やかさ。日本第2位の路線長をもつ長大私鉄ならではの、重ねてきた旅情が車内を支配します。

廃車も始まり、残された時間の短さを噛みしめつつ久々に味わう6050との逢瀬。そんな帰路のお供にと選んだのは、SL大樹の描かれたワンカップ。近郊型のボックスシートには、コップ酒がよく似合う。闇に染まる車窓を見つめ、この旅の記憶を反芻するのみ。

訪れるたびに、胸に記憶を刻む日光という場所。小学校の時に初めて出逢った東照宮に二荒山神社、勇壮に落ちる華厳の滝の思い出はそのままに、見るたびごとに新しい感覚をくれる不思議な土地。9年ぶりの日光は、37歳の自分なりの視界を見せてくれました。

灯台下暗し、日光を見ずして結構と言うなかれ。旅への貪欲さは、ある意味距離と比例して増していくもの。そんな癖を持つ僕にとって、ふとした拍子に訪れる関東の名所は、忘れかけていた大切なことを思い出させてくれる、そんな場所。

東京に生まれ、東京で暮らし続ける僕。自分の住む関東地方は身近過ぎて、どうしても未知なる地方を目指してしまう。でもそこは、日本で一番広い平野に広がる巨大な地方。

住んでいるだけで、まだ何も知らない。ふらりと行ける距離に、まだ見ぬ魅力があるはず。自分の知ったかぶりの視界の狭さを感じつつ、どこまでも続くだだっ広い夜の闇に、関東の広さと旅することの奥深さを重ねてみるのでした。