シルキーな乳白の夢に溶かされ、奥日光で迎える静かな朝。今日からもう12月。山に宿る初冬の気配が、今年がもう残すところ1か月だということを実感させてくれるよう。
硫黄香る白濁の湯で穏やかな朝風呂を味わい、朝食の時間に。食卓にはご飯に合うおかずの数々が並びます。
鯵の開きはパリッと焼かれ、小鍋の湯豆腐は熱々の美味しさ。大根の煮物も熱々の状態で出され、おだしがじゅわっとしっかり染みています。右の陶板は食卓で焼く目玉焼き。それに海苔と納豆と、ごはんをいっぱい食べてしまいました。
満腹になったお腹を落ち着け、部屋とお風呂の往復を。チェックアウト時間も過ぎ、まだ立ち寄り湯のお客さんもいないこの瞬間。宿が静寂に包まれる中での湯浴みは、連泊した者のみに許される贅沢。
昨日とは打って変わって、うす濁りとなった緞子の湯。その浴感を肌にまとい、じんわりと過ごす湯上りの時間。敷きっぱなしの布団に転がり、ただ無心で見上げる初冬の曇天。もうすっかり僕は連泊の虜になってしまったようだ。ここ数年、こんな旅ばかりしている気がする。
ごろ寝で火照りを収め、うたた寝が覚めたら再び湯屋へ。至極の堕落。何もしないを、してしまう。湯宿での昼下がりは、人を駄目にしてしまう成分に満ち溢れているよう。
早くも奥日光の力に骨抜きにされ、ただひたすらに静寂を噛みしめる午後。ふと気が付けば、周囲の山々を水墨の世界へと変えてしまう初冬の雪。僕は寒さを迎えにここまで来た。12月の幕開けにふさわしい侘びの光景に、自分にとっての四季という時間軸の大切さを今一度思い知らされます。
幾度目かの湯浴みを終え、空から舞い落ちる雪を愛でつつ飲むビール。初冬のそれは辛うじて結晶化したというような音色を奏で、初冬の午後をぱらぱらと彩るよう。
無。ただひたすらに、無。僕が連泊に求めるものこそ、そんな時間。気付けば雪は上がり空は暮れはじめ、地面にはほんのりとした雪の記憶が残るばかり。
飽きるほど湯浴みを愉しみ、お腹もすいたところで夕食の時間に。今夜の前菜は、もずく酢にトマトのコンポート、そしてふっくらと炊かれたたらの白子。白子のほっくりとした淡い旨味と、お刺身で供された日光湯波の濃い豆の味わいに、地酒が自ずと進みます。
続いては熱々が嬉しい蒸し物。刻まれた具材と春雨にとろりとした餡が絡み、体の芯から温めてくれます。
続いてはぐつぐつと煮えるたんシチュー。たんはしっかりと柔らかくなり、程よい濃さのデミグラスがよく合います。和食の続きがちな温泉旅の中で、気分を変える嬉しい一品。
こちらも焼き立ての岩魚の塩焼き。山の宿に来たら、やっぱり食べたい川魚。ほっくりとした身に詰まるじんわりとした味わいに、栃木の酒を噛みしめます。
続いて運ばれてきたのは、なめこの載ったおそば。太めながらつるりとした食感で、満腹に近づきつつありながらもつるっと平らげてしまいます。
そして今夜のご飯は、きのこの釜めし。ぷり、つる、しゃきっとした食感のきのこから染み出す旨味が薄味のお米に絡み、派手さはないがしみじみとした美味しさが味わえます。
部屋へと戻り満腹をごろりと落ち着けたところで、今夜のお供を。今日は小山市は杉田酒造のくろかみ純米吟醸を開けることに。くろかみとは男体山の別名なのだそう。その力強い山容にぴったりの、辛口ながらしっかりと感じるお米の味わいが印象的。
日本の背骨、奥羽山脈の南の果て。その火山群が生み出す、地の恵み。奥日光に湧くシルキーなお湯は、僕の好みど真ん中。同じ関東に住みながらこれまで知ることのなかった大地の白き力に溶かされ、今宵も深い安らぎに包まれるのでした。
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