加仁湯で迎える最後の朝。昨晩から降り始めた雨は止んだものの、天気予報はあまりよくない模様。今日は龍王峡を歩いてみるつもりだったので、朝風呂に浸かりつつ予定を考え直すことに。
目覚めのひと風呂で体も頭もすっきりと起きたところで、お待ちかねの朝食の時間に。岩魚の一夜干しや平家納豆、海苔にオムレツといった王道のおかずに、今朝も白いご飯がどんどん進みます。
食後にもう一度だけ美しき白濁の湯に浸かり、この旅最後の一浴を終えチェックアウト。いつかまた来たいと願いつつ、あっという間の15年。ようやく再訪が叶った想い出の宿は、当時の記憶を裏切ることなく、良い湯良い味で迎えてくれた。
あぁ、良い宿だった。同じ関東、栃木県。されどここは奥鬼怒、なかなか気軽に来られる場所ではない。改めてその遠さを実感し、別れが一層切なくなる。でもきっと、またここへ戻って来られるだろう。そんな再訪の願いを託し、この年最後になるであろう雪景色に別れを告げます。
未舗装のスーパー林道を宿の送迎バスで下ること30分足らず、乗り換え地点である女夫渕駐車場に到着。鬼怒川に架かる橋上から下流を見れば、不自然な平場が目につきます。
以前はここに、女夫渕温泉ホテルという宿がありました。地震の影響で閉館してしまったようですが、ずらりと並んだ露天風呂の数々を見て、いつかは泊りに来たいと思ったことを思い出します。
上流側へと振り向けば、荒々しい岩場を流れる鬼怒川の姿。つい先ほどまで露天風呂から眺めていたあの川が、こんな大きな川になるなんて。山の貯える水の豊富さ、そして谷を刻む水の力に改めて驚きます。
山峡の風情を眼に焼きつけたところで、『日光市営バス』に乗車します。来るときは僕一人だった乗客も、帰りは何人かいてちょっとばかり安心。免許を持たない僕にとって、この路線がないと奥鬼怒へ来ることは叶わなくなってしまいます。
バスはいくつものダムを越え、鬼怒川温泉駅目指して延々と走り続けます。川治ダムを越えて標高をぐっと下げ、靄のかかった山には山桜の姿がちらほらと。やっぱり季節が違う。先ほどまでの雪景色が、なんだか幻の様に思えてしまう。
新藤原を過ぎ、国道は線路と仲良く並走。ふと横を見てみると、試運転中のリバティがゆっくりとバスを追い抜いてゆきます。あの特急に乗って会津へ向かったのも、もう2か月前か。なんだかんだ言って、今年に入ってからは旅できている。そのことが嬉しくて、思わず笑みが零れそう。
加仁湯からずっと寄り添ってきた鬼怒川も、ここまでくるとこの大きさに。同じ川とは思えぬ姿の違いに川の成長を見ているようで、何となく不思議な気分になります。
延々とバスに揺られること約1時間半、ようやく鬼怒川温泉駅に到着。SL運行のために新設された転車台に、東武のSL復活にかける本気が伝わってくるよう。
今日はずっと雨予報。龍王峡散策から予定を変更し、日光を目指すことに。入線してきたのは、日比谷線でよく乗っていた20000系のワンマン改造車。僕の大好きだった6050系はこの区間からは姿を消し、時の流れとは言え切なさを覚えてしまう。
これから向かうは、雨の東照宮。久しぶりの対面を控え、心は早くも極彩色に染まるのでした。
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