馬籠宿から一歩一歩確実に登り続け、ついに馬籠峠に到着。ここは標高790m。馬籠宿から2㎞ちょっとで200m近く登ってきたことに。ちなみに馬籠は以前長野県に属していましたが、平成の大合併により現在は岐阜県に。県境となったこの峠を越え、ここから長野県へと入ります。
行程中の最高点である馬籠峠を越えると、道はすぐさま下り基調に。馬籠から峠までは2.2㎞で標高差190m、峠から妻籠までは5.3㎞で標高差360m。急勾配を一気に登るか、ゆるめの登り坂を長く歩くか。その好みにより、馬籠発か妻籠発を選ぶといいかもしれません。
木漏れ日溢れる旧街道を清々しい心持ちで歩いてゆくと、足元にたくさん落ちる見慣れた葉。あ、これ朴の葉だ。僕の大好物の朴葉味噌。あの香ばしい味が恋しくなる。
馬籠峠を越えてからは土の道に変わり、一気に山道の表情に。出発してから幾度も現れる熊よけの鐘も手伝い、すれ違う人もいないなかでの歩きは少しばかり心細いものに。そんな中、突如現れる人の営みの気配。昔の旅路って、これの連続だったんだよな・・・。
山間に、急に開けるこの平場。ここ一石栃はかつて木曽五木の出荷を取り締まる白木改番所が設置されており、馬籠と妻籠の中間に位置する立場茶屋として栄えていたそう。7軒ほど家があったそうですが、現在はこの1軒のみが残されています。
一石栃にぽつんと残る牧野家住宅は、現在は無料の休憩所として中山道を歩く人々に開放されています。
一歩足を踏み入れれば、途端に遡る時計の針。それもそのはず、この建物は江戸時代後期に建てられたものだそう。囲炉裏の煙に燻された飴色の室内に身を置けば、気分は江戸時代の旅人に。
造られたものではない、本物の時の重みに圧倒されていると、急須でお茶を淹れてくれるおじいちゃん。どうぞのお言葉に甘えて、椅子に腰掛け温かいお茶を一服。経てきた時代が色味となって染みついた建物に抱かれ飲むお茶は、それはそれは味わい深いものに。
留守番のおじいちゃんと会話しつつ、静かに味わうお茶と渋い世界観。いけないいけない、危うく長居してしまうところだった。木曽路の歴史を肌で感じたところで、妻籠目指して再び歩き始めます。
一石栃を過ぎると、道は小さな川に寄り添うように。木立の中、春の陽射しを浴びながら歩く静かな道。険しい部分があり、穏やかな部分もあり。一本の道のもつ様々な表情を味わえるのも、のんびり歩き旅だからこそ。
そばに流れる川に目をやれば、目を見張るほどの透明度。木漏れ日を受け、きらきらと輝く美しい水面。その煌めきと水の音が、一服の清涼をもたらしてくれる。
この後しばらく車道を歩き、男滝女滝の看板が出たところで少々寄り道を。川へと下る道を進んでゆくと、ある地点からふと包まれるひんやりとした空気。道中寄り添ってきた川が、美しい女滝となって落ちています。
その流れの清らかさに、思わず川へと下りて手を浸してみることに。ずっと山道を歩き火照った体に感じる、水の冷たさ。その心地よさは、体のみならず心にまで涼しさを届けてくれるよう。
女滝から少しばかり下流へと進むと、右手の支流から落ちる男滝が。荒々しい岩盤を伝い幅いっぱいに落ちる滝からは、爽やかな冷たさを感じさせる水しぶきが。
かつて、木曽路を歩いた旅人の眼も愉しませた男滝と女滝。ここまで来れば残り半分を切っている。水場に溢れる天然の清涼を全身に浴び、再び元気をチャージし妻籠目指して歩みを進めるのでした。
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