木曽路にゆらめく若き春 ~まだ見ぬいつもの、その先へ。1日目 ③~ | 旅は未知連れ酔わな酒

木曽路にゆらめく若き春 ~まだ見ぬいつもの、その先へ。1日目 ③~

3月上旬晴天の木曾福島駅 旅の宿

中央線沿線に生まれて育ち41年、ついに初乗車の叶った中央西線。ひたすら狭い谷にへばりつくようにして走るその鉄路は、僕の知っている中央東線の表情とは全く違う。

なじみの路線のまた新たな顔に触れ、新鮮な車窓を眼で追うことあっという間の約1時間。塩尻を発った普通列車は終点の木曽福島駅に到着。木曽路、そして中央西線はこれからまだ先まで続きますが、まずはここで一旦下車し特徴的な湯に逢いに行くことに。

3月上旬晴天の木曾福島駅おんたけ交通運行の上松町コミュニティバスひのき号倉本線
駅前のお土産屋さんで夜のお供を仕入れつつ待つことしばし、今宵の宿への足である上松町のコミュニティバス『ひのき号』倉本線倉本方面ゆきが到着。中央西線もこのバスも本数が少ないため、お出かけの際は事前にしっかりと行程を組むことをおすすめします。

3月上旬晴天の棧温泉への道のり板敷野バス停を下車し新道のかけはし大橋と旧道の分岐点を旧道側へ
市街地を抜け国道19号線を走ること10分、板敷野バス停に到着。幹線国道の道端に降ろされ少しばかりの心細さを感じつつ歩いてゆくと、すぐに新道と旧道の分岐点が。車はみな右のバイパスへと流れてゆきますが、宿へは左側の旧国道を進みます。

桟
旧道へと入ると雰囲気は一変、現道の喧騒はどこへやら。15年ほど前は、ここが長野と愛知を結ぶ大動脈だった。そのことが俄かに信じがたいほど、今はひっそりと静まり返っています。

3月上旬棧温泉かけはし橋上から望む木曽川の上流側
バス停から7分ほど歩けば、先ほどの写真にも写る赤い橋が見えてきます。そうすれば宿はもうすぐそこ。その名もかけはしというアーチ橋からは、独特な形に浸食された岩の連なる木曽川の印象的な姿が。

3月上旬棧温泉中山道三大難所のひとつ木曾の桟
そこから視線を左岸へと移すと、先ほど歩いてきた旧国道の下に何やら古そうな石垣が。これこそが、江戸時代から残る旧中山道の遺構。

碓氷峠や太田の渡しとともに、中山道の三大難所のひとつとして数えられた木曽の桟。あまりの険しさに進む道もなく、岩盤に丸太を打ち込み板を掛けて桟道を通したというこの場所。江戸時代には一部に石垣が造り始められ、明治の終わりにしてようやく木橋を廃止するに至ったそう。

その後国道19号線の足元を支えてきた石垣ですが、その国道も1997年に発生した落石がきっかけとなりバイパス化され現在は旧道に。この地に道ができたときから、難所として人を阻み続けてきた木曽の桟。そんな場所には、もうひとつの遺構も。

石垣の上、山腹にへばりつくようにして建つコンクリートの建造物。年代を感じさせる姿にこれは!と後ほど調べれば、やはり中央西線の旧線跡。要塞然とした苔むすシェッドからは、難所に挑み続けてきた交通の番人としての気迫のようなものすら感じられる。

3月上旬木曽川ほとりの棧温泉
街道、国道、鉄道。古くから人々が避けて通ることのできない、この一点しか交通を許さなかった難所木曽の桟。その対岸に位置するのが、これから2泊お世話になる『棧温泉』。ちなみにこの旅館の裏手には、昭和50年まで運行を続けていた王滝森林鉄道の廃線跡も隠されているそう。

3月上旬木曽川のほとりの棧温泉客室
なんだかすっかり旧道や旧線レポートのような冒頭になってしまいましたが、このお宿を選んだ目的はもちろん温泉。逸る気持ちを抑えつつ、優しい女将さんに案内され落ち着いた雰囲気の和室へと向かいます。

3月上旬木曾川のほとりの棧温泉客室から望む木曽川の雄大な流れ
早く温泉に浸かりたい。そう思いつつも、やはりこのロケーションで気になってしまうのが窓からの眺め。左を向けば木曽の桟と中央西線廃線跡、右を向けば滔々と流れる木曽川。この景色だけでも、ここまで来た甲斐があるというもの。

3月上旬木曾川のほとりの棧温泉薬水と呼ばれた赤茶の湯加温循環と13℃の冷泉源泉かけ流し
部屋に居ながらにして、木曽の絶景を独り占め。まずは木曽川の雄大な眺めを胸いっぱいに吸い込み、ようやくお待ちかねのお風呂へ。こちらの源泉は、なんと水温13℃。手前の浴槽はその源泉を加温・循環、奥の浴槽は冷泉をそのまま掛け流しで使用しています。

まずは加温の浴槽へ。赤茶色をしたお湯は見た目の通り鉄分豊富で、鼻をくすぐる鉄の香りが堪らない。肌にきゅっとぴとっと吸い付くような浴感がまたおもしろく、この浴槽だけでも十分。

ですが、やっぱりここまで来たら入ってみたい源泉かけ流し。中央の仕切りを越えて加温浴槽のお湯が流れてくるため実際は13℃よりも高いとは思いますが、それでもやはり強烈に冷たい。

恐る恐るつま先から入り、縁に腰掛け手を浸ける。頃合いをみてじわりじわりと慎重に入ってゆけば、不思議といつしか浸かれてしまう。そっと目を閉じ、深呼吸。体内の空洞に冷気がふわっと流れ込むような感覚がありつつも、次第にそれほど冷たさは感じなくなる。

無理をせず、しばし浸かったら再び加温へ。そしてまた冷泉へ。そんなことを幾度か繰り返すうちに、心身を走るこれまでにない感覚が。これがいわゆる、整うってやつなのか?流行りとサウナが苦手な僕ですが、この感覚はこう表現するほか無さそう。

3月上旬木曾川のほとりの棧温泉木曾の桟と中央西線廃線跡を眺めながら飲む湯上りの冷たいビール
心身の芯から、何かがすっと抜けたような独特な湯上り。そんな空っぽになった自分に、最大限のご褒美を。中山道の難所をつまみに喉へと流す、冷たい刺激。これから2泊、こんな時間が流れるなんて。

赤茶に染まる冷鉱泉に誘われ、初めて訪れることとなった木曽路。きっとこの先も、未知なる旅路が待っている。目の前の山の中を走る鉄路が、自分の街と繋がっている。そのことが幻であるかのように、初めての土地での新鮮な体験に胸を震わせるのでした。

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木曽路にゆらめく若き春 ~まだ見ぬいつもの、その先へ。~
3月上旬春の気配漂う妻籠宿
2023.3 長野/岐阜/愛知
旅行記へ
●1日目(東京⇒棧温泉)
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2日目(棧温泉滞在)
●3日目(棧温泉⇒馬籠宿⇒旧中山道⇒妻籠宿⇒名古屋⇒東京)
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