昨日の早朝に敦賀に上陸し、1日半をかけて大満喫した越前の地。初めて自分で旅した福井は、未知なる魅力で迎えてくれた。これはまた、来なければ。そう再訪を強く誓い、この地を去ることに。
まだ真新しいホームに滑り込む、僕を東京へと連れて帰るかがやき号。今年3月に福井県へと延伸し、まさかこんな早くに乗車することになろうとは。乗り慣れたこのE7系も、これから出逢う未知なる車窓を思えば新鮮に映る。
ありがとう、福井。また必ず、戻ってきます。この地で過ごした濃厚な時間を胸に、お別れの瞬間は金星で。喉へと落ちゆく刺激、旅の終わりの感傷にも似たほろ苦さ。
速度を上げ、東京目指し疾走するかがやき号。僕にとって福井の色となった田園の豊かな緑をぼんやり眺め、長くも短かったこの旅路を反芻する。
そんな記憶を想い出へと変換する作業には、地の酒が欠かせない。大野市は宇野酒造場の醸す一乃谷純米酒が満たされた、ICHI-GO-CAN。不思議なコクをもつ印象深い酒を片手に、流れゆく車窓をただ見つめるだけ。
列車は福井県を抜けて石川県へ。さあそろそろ、この旅最後のグルメを味わおう。そう開けるのは、福井の番匠本店が調製する越前朝倉物語。あの有名な越前かにめしを作る駅弁屋さんなので、おのずと期待が膨らみます。
蓋を開ければ、ずらりと並ぶおいしそうな品々。かつて福井北部を治めた朝倉氏。将軍家をもてなす宴席料理の文献を基に作られたという献立が、お重いっぱいに込められています。
左上は、ほっくりと甘いさつまいもやかぼちゃ、ししとうの天ぷら。その下の若鶏の旨煮はほんのりと甘めの味付けで、鶏の旨味を引き立てます。だし巻き玉子はほっとする優しさで、添えられたほうれん草の胡麻和えがまた絶妙な塩梅。
中央の白い丸は小鯛の手毬寿司。甘めのすし飯と、塩〆の小鯛の凝縮感が好相性。右の焼き物は、大和豚西京焼き。漬けられたからこその、濃い赤身の旨味が堪らない。たけのこの土佐煮には木の芽味噌が掛けられ、ふんわりと香る若さがこれまた美味。
具だくさんの煮物も地酒を誘うちょっとばかり甘めの味付けで、甘辛く仕上げられたたらの子旨煮はご飯にもお酒にもピッタリの旨さ。口直しにはさっぱりとした紅白なますと、里芋のごまころ。極ほんのりと塩味の付いたほくほくの里芋がたっぷりの黒ごまをまとい、香ばしさがふわっと鼻へと抜けてゆきます。
おいしいおかずたちに一乃谷も進み、二種のご飯で〆ることに。うなぎ飯はちょうど良い塩梅のたれが鰻とごはんを仲良く繋ぎ、黒米の混ぜられた古代米ご飯はこれだけでも食が進む風味の良さ。
そうか、昨日食べた気比そばもそうだし、物産展で好んで買う里芋煮もそうだし。福井は、もしかしたらちょっと甘めの味付けが好まれているのかもしれない。そんな味の傾向を体感できるのも、こうして実際に旅するからこそ。
福井、石川、富山に新潟。北陸路を疾走するかがやき号の車窓も程なくして闇に溶け、あとはもう旅の余韻に浸るのみ。
あぁっ!船旅に出たい!どうしても、無性にフェリーに乗りたい。数年ぶりに訪れたその衝動に突き動かされ、決行した今回の旅。
僕を長距離フェリーの虜にした想い出の港大洗から出港し、寿司だけ食べて上陸6時間で離道。舞台は日本海へと移り、愛する新日本海フェリーに揺られて過ごした至福の2泊3日。そんな非日常の船旅を経て上陸した地は、未知なる魅力で満ち溢れていた。
今回も、本当に善き旅だった。この旅で出逢えた、幾多もの濃密な想い出たち。そのすべてがあの航跡のように長く長く胸へと余韻を描き、また新たなる航海の夢へと僕を誘うのでした。
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