かずら橋で古の交通の苦難に思いを馳せ、そろそろ祖谷の地を離れる時間に。かずら橋夢舞台バス停から『四国交通』の祖谷線に乗車し、大歩危駅へと戻ります。
その存在を知ってから、ずっと来たいと願っていた祖谷。そこは想像以上に山深く、そしてその雰囲気はこれまで訪れた山里とも違っていた。今度はまた、違う季節に来てみたい。眼下に小さくなりゆく集落を見送り、そう再訪の願いを胸へと刻みます。
バスは険しい山を登って下り、30分ほどで大歩危駅に到着。ここでの乗り換え時間は7分。若干の遅れがあったためひやひやしましたが、予定していた特急南風に無事乗車。
今回利用したしこくるり用のフリーきっぷが使えるのは自由席。岡山から高知への大動脈、それも夕刻の帰宅にちょうどいい時間。通路側の席を何とか確保し、うとうとしているうちに人生初の高知県入り。
高知って、もっと開けた地形をしているものだと思っていた。振子車両ならではの身のこなしで、深い山を器用に駆け下りてゆく2700系。山地が終わり平たくなったかと思えば、あっという間に高知のひとつ手前の停車駅である後免駅に到着。
本当に、未知なる鉄路は発見ばかり。実際に辿るからこそ味わえる実体験を噛みしめていると、隣の線路にはかわいい列車が。この9640系は、第三セクターの土佐くろしお鉄道の車両。そのなかでも2両しかない特別なもので、反対側の海側通路はオーブンデッキになっているそう。
今回は食と観光メインで行程を組んだけれど、今度は大海原を望むごめん・なはり線にも乗ってみたい。そんな妄想を抱きつつ、大歩危から疾走する南風に揺られること55分で高知に到着。
いつかはと思いつつ、人生半ばにしてようやく来ることのできた高知。山脈と海に囲まれた高知は心理的な距離を感じていたため、こうして訪れるのが遅くなってしまった。その分、人生初高知という感慨がより一層深く沁みてくる。
よさこいで賑わう駅前を背に、今宵の宿を目指して駅前からのびる大通りへ。南国情緒を感じさせる背の高いヤシの木に目を奪われていると、後ろからごろごろと近づく車輪の音。レトロな路面電車にラッピングされたアンパンマンが、ゆっくりと僕らを追い抜いてゆく。
あくまで僕のなかでの経験則ですが、路面電車の走る街はいい街。きっとここ高知も、そうに違いない。そんな予感に胸を躍らせていると、徒歩3分ほどで『高知グリーンホテルはりまや橋』に到着。
フロントでチェックインを終え、自室へと向かいます。今夜もツインの客室を素泊まりで予約。往復の飛行機とビジホ2泊込みで30,500円。本当に、ANA様様だな。
荷物を下ろし、ひと息着いたところでいざ夕暮れの街へ。高知も郷土の味で飲めるお店がたくさんありますが、相方さんと打ち合わせし絶対ここと決めてきた『ひろめ市場』に入ります。
さすがは高知といえばの超有名スポット、場内に点在する席はどこもいっぱい。何とか相席できる場所を見つけ、さっそく買い出しへ。ちなみにここでもしこくるりのチケットが使えるため、案内所で金券に引き換えます。
まずは、高知に来たら絶対食べたいと願い続けてきた鰹のたたき。藁を使い店頭で豪快に炙るたたきは、鰹の旨味を極上の味へと昇華させるスモーキーさ。粗塩で食べても生臭さはまったくなく、薫香とわさびやにんにくの共演によりすかさず土佐の酒をあおりたくなる。
その隣は、からりと揚げられたくじらの竜田揚げ。ぎゅっと凝縮感ある赤身は旨味も濃く、哺乳類の肉々しさのなかに微かに宿る海の生き物感がまた旨い。
続いては、僕がどうしても食べてみたかったうつぼのたたき。食べてみると、その見た目からは想像できない上品な滋味深さ。身はしっとりとし、何となく胸肉の鶏ハムに近い印象。分厚い皮はコラーゲンをしっかりと感じ、ぷるりとした食感からじんわりとした旨味が染み出てきます。
そしてもうひとつ、たたきのたれで食べるくじらのすじ。白身の部分はふるふると柔らかく、赤身は噛みしめるとじんわりと広がる独特の風味と旨味。臭みやクセはないが、個性がある。そんな2品に、さらに土佐酒が進んでしまう。
ここ1か所でいろいろと愉しめるのが市場のいいところ。高知の有名な餃子屋さんである安兵衛もあり、注文してしばらく待てば焼き立て熱々を席まで運んできてくれます。
こんがりきつね色に焼かれた、小ぶりの餃子をひと口。皮は揚げ餃子のようにさくさく、中にはにんにくや生姜の効いた、それでいて重たくない具が。これは本当に、〆にいけるやつ。餃子の旨さはありつつ軽い食感なので、何個でもぱくぱく食べられそう。
ふらりと偵察に出かけていた相方さんが買ってきた、銘柄鶏の土佐ジローを使った唐揚げ2種。シンプルな塩味は鶏の旨味の濃さをダイレクトに感じられ、甘辛ダレもまた地酒に良し。
そして最後は、鰹おかわりで〆ることに。もっちりとした身には赤身の旨味が詰まり、塩で食べる藁焼きとはまた違ったおいしさ。
鯖寿司や練り物など、他にも魅力的なものがたくさん溢れるひろめ市場。土佐の酒が消えるようになくなってゆくので、さすがにこれはやばいと程よきところで退散します。
あんなとこ、延々飲んでられるよね。そんなことを話しつつ、酔い覚ましに歩く初めての街。ひろめ市場からちょっと歩けば、そこは現存十二天守のひとつである高知城。
とさでんの行き交う大通りを東へと進み、高知といえばの名所であるはりまや橋へ。最初はあれ?どこ?と見つけられませんでしたが、それもそのはず、このときは工事中で仮囲いの中。フェンスの隙間から、赤い欄干を覗きます。
大通りを縦横無尽に走る、無数の軌条。街の灯りを映す煌めきにため息をもらしていると、辺りに響くからくり時計の奏でるよさこい節。そんな夜の街を見守るように、にっこり微笑むアンパンマン。
ほらやっぱり、路面電車の走る街はいい街だ。札幌や函館、広島に熊本。これまで訪れた都市とも雰囲気を異にする、夜に艶めく高知の街。こうして来ることができて、本当によかった。
昨日の徳島に続き、ここ高知も何でこれまで来なかったんだろうかと悔やまれる。いやしかし、人生半ばにして知ることができて良かったと思いたい。
旨い地の味地の酒に酔わされ、さらにホテルでコップを傾ける静かな夜。本当に、いいところだ。遠くに聞こえる路面電車の音をつまみに、高知での夜は穏やかに更けてゆくのでした。
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