山口県で迎える初めての朝。昨日は本当によく見てよく歩き、よく食べてよく呑んだ。
人生半ばにして、ようやく来ることのできた長門の地。今回はその最西端を、ちょっとばかり齧っただけ。これはまた、パンドラの箱を開けてしまった。疑いようもない再訪の予感を胸へと宿し、朝日に輝く小瀬戸を眼にこころに灼きつけます。

今朝もちょっとばかり早めに目が覚めたため、予定より前の電車で九州へと渡ることに。鮮烈な記憶をくれた関門の地への名残惜しさをこらえつつ、通勤通学で賑わう下関駅へと吸い込まれます。

神戸から瀬戸内の都市を結んできた山陽本線も、ここ下関で管轄も車両もJR九州へとバトンタッチ。直流電化の関門トンネルを抜け門司駅構内からは交流となるため、この区間には国鉄型の交直流電車である415系がいまなお現役で走り続けています。

下関から走ること13分、電車は山陽本線から鹿児島本線へと乗り入れ終点の小倉に到着。ちょっと早めに発ったのは、ここで朝ごはんを食べるため。在来線の5・6番ホームには、なんとも珍しい駅そばならぬ駅ラーメンである『のぼれ天まで小倉駅店』が。
下関の立ち食いでふく天うどんもいいし、小倉駅のホームといえばの有名なかしわうどんも捨てがたい。でも、でもだ。九州まで来て、ラーメンを一度も食べないなんてちょっと悔しい。出発直前まで揺れる心に頭を悩ませていましたが、このあともうどんは食べる予定があるため朝ラーを決行することに。

中はカウンターに立ち席のみという、王道の立ち食いスタイル。食券を渡し待つことあっという間、バラ軟骨ラーメンの白が到着。
背脂の浮いたとんこつスープはクセがなく、この時間でも食べやすいほどよいまろやかさ。麺は小麦を感じる九州らしい細麺で、甘辛く煮つけられた豚バラ軟骨がチャーシューとはまた違ったおいしさ。

8時から開いており、乗り換えの合間にも利用できるという旅行者にはうれしい立ち食いとんこつ。ちゃっかり替え玉までして大満足で改札外へと出てみると、吹き抜けのコンコースに停車するモノレール。本やテレビのなかでしか見ることのなかった光景に、思わずテンションが上がってしまう。

そうだよこれだよ、本当に小倉に来たんだな!モノレールの近未来的な姿にそう実感しつつアーケードを抜けて向かうのは、北九州の台所と称される旦過市場。ここもまた、小倉で来てみたかった場所のひとつ。

これまで、ほとんど旅する機会のなかった九州。福岡も博多以外はほぼ未踏の地で、おととしに起きた大規模火災のニュースでこの市場の存在を知った。もっと早くに知っていれば。この趣味を続けていると、ときおり襲われるそんな後悔。だからこそ、行けるときに旅するべきだと今では思えるように。

古い木造建築が密集する構造から、過去にも火災に見舞われた旦過市場。危険な状況を改善するため、現在残る店舗もすぐ横に建築中のビルに移転する予定。神嶽川にせり出すようにして建つ、あまりにも渋すぎる表情。もしかしたら、僕にとってはこれが最初で最後となるのかな。

今日から明日にかけ、下関から大分へと移動する予定。ある程度の距離があるため、通しで乗車券を購入すればこうして途中下車ができるのもうれしいところ。

正味1時間ちょっとと短い滞在ながら、立ち食いラーメンと旦過市場を満喫し小倉を後にすることに。北九州は、僕の日常と海路でつながった。未知なる地から、再訪したい街に。次があることを確信し、博多からやってきた特急ソニックに乗車します。

JR九州初、そして営業用の交流電車としても初の振り子式車両である883系。住宅街を縫うように車体を傾けつつ爆走していると、いつしか車窓には海原が。秋晴れに青く輝く周防灘、その先に横たわるのは本州の島影。この旅は、発ったときからずっと海に寄り添っているんだな。

787系つばめに続き、その後のJR九州をイメージ付ける車両となったソニック。およそ鉄道車両とは思えぬ顔つき、それを彩るメタリック。室内はありえないほどカラフルで、当時中学生だった僕は度肝を抜かれた。

いや、あれ以降もこんな車両が出てくることはなかったな。落ち着いた色調にリニューアルされつつ、いまなお感じられる奇抜さの片鱗。883系のもつ独特の世界観に身をゆだねていると、窓いっぱいにひろがる秋の色。
高さを感じさせる秋空の青、黄金色に染まる豊な田園。この時季に旅することの理由のひとつに、こんな景色に逢いたいというのがあるのかもしれない。いよいよ、12年ぶりとなる大分だ。実りの季節に輝く車窓に、この旅第三の幕開けを予感するのでした。



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