税関から旧居留地、メリケン波止場へと歩いてきた神戸の街。見たいところはまだまだたくさん。少々足を速めつつ、南京町方面を目指すことに。

土地勘がないので大通りを歩いたほうが確実かとは思いつつ、この街はそう容易く進ませてはくれない。ポートタワーから横断歩道を渡った先にレトロなビルを見つけたかと思えば、その通り沿いにはいくつもの古き良き建物が。

点々とならぶ渋い佇まいのビル、妙にその密度が濃いこの一画。この記事を書く際に調べたところ乙仲通というそうで、建築好きや雑貨好きの名所ような場所になっている様子。

ただならぬ雰囲気に足を踏み入れてみて正解だった。こんな偶然の出逢いがあるのも、あまり下調べしないでこその旅の醍醐味。大正から戦後にかけての美意識を感じさせる建築を愛でつつ歩き、16年ぶりとなる南京町に到着。

横浜や長崎とともに、日本三大中華街のひとつとして知られる南京町。明治元年に神戸港の開港とともに誕生し、今年で157周年を迎えたそう。

それにしても人、人、人。さすがは日曜日、縦横にのびる街路は歩くのが大変なほどの大賑わい。周囲にはおいしそうな肉まん、いや、豚まんが並んでいたりと、思わずあれもこれもと食べたくなってしまう。

でもここは我慢。このあとには、神戸といえばのあれが待っている。幾多もの誘惑をふりきり、長安門から南京町の外へ。そしていま一度振り返る、この魅惑の通り。やっぱり今度は、泊まりで来なきゃだな。

16年ぶりの神戸、やっぱり半日ではどうやっても足りるはずがない。これまた次へとつながる宿題を残し、旧居留地バス停から『シティーループ』に乗車します。

新神戸や三宮の駅を経て、神戸の主たる観光スポットを一方通行で結ぶ便利なバス。添乗するガイドさんの解説を聞きつつ揺られること20分ちょっと、次なる目的地の最寄りである北野異人館バス停で下車します。

山すそに張りつくようにして広がる、北野異人館街。港を見おろすこの地には、かつて二百から三百ともいわれる数の外国人住居が集まっていたそう。その後さまざまな要因によりその姿を減らしましたが、現在でも30軒ほどがこのエリアに残されています。

大正4年築というラインの館を横目に見つつ石段を登り、洋館の裏手をゆくひっそりとした小径を西へ。すると現れるのが、尖塔に象徴的な風見鶏を頂く洋館。明治42年に建てられた風見鶏の館は、北野地区に残る唯一のレンガ壁の建物だそう。

その斜め下には、その6年前にアメリカ総領事の屋敷として建てられたという萌黄の館。その名のとおりミントグリーンに彩られた下見板と、重厚なレンガ積みの煙突の対比が印象的。

うぅ、しつこいようだが時間が足りない。いずれも外観のみをさらりと眺め、後ろ髪をひかれつつそろそろ三宮へと戻ることに。その道中には、なんともおしゃれなスタバが。この建物も実は本物の異人館で、明治40年に建てられ国の登録有形文化財にも指定されているそう。

8時すぎに上陸し、駆け足になりつつもみっちり満喫してきた街歩き。時刻はもうお昼前、お目当てのお店は混みそうなので足早に駅方面へ。地図ではここら辺のはずだけど。そう思いつつ視線を上げれば、目指していた『ステーキランド神戸館』を発見。
ここは16年前にも訪れた想い出のお店。厳密にいえばすぐそばに位置する系列の神戸店でしたが、席数が多そうだったのでこちらのお店を選択。

一歩足を踏み入れれば、独特な雰囲気の漂う空間が。広いフロアには鉄板を囲むようにしていくつもの島状のカウンターが設けられ、何人ものシェフがそれぞれの鉄板でステーキを焼く姿は圧巻。
お肉のいい匂いの立ち込めるなか待つことしばし、担当してくれるふたりのシェフが登場。手分けしつつ肉と野菜を手早く調理してゆく様子に首を長くして待っていると、ついに僕のお皿にも焼きたてのお肉が。
今回注文したのは、お手頃価格で神戸ビーフを味わえる神戸牛ステーキランチ。焼きながらサイコロ状にカットされた赤身のお肉は、うぉっとうれしくなる柔らかさ。噛めばじゅわっと肉汁が溢れ、もちろんそこにはいい赤身だからこその濃い旨味。
そしてなんともうれしいのが、ご飯のおかわりが自由。肉汁したたるミディアムレアの赤身を噛みしめ、すかさず白いご飯で追いかける。しゃっきりとした焼野菜も香ばしく、案の定おかわりし大満腹大満足でお店を後にします。

いやぁ、今回も旨かった。前回は夜に訪れたため、霜降りの特選だった。もちろん今回ももう少し出せばそんなお肉も選べましたが、もうすっかり赤身がうれしいお年頃になってしまったんだよな。

嗜好の変化でも16年という歳月の重みを噛みしめつつ、雨もあがったので近くの生田神社にお参りすることに。

前回訪れたときは、二十代後半だったのか。あれからいろいろありつつも、あのときには想像することのできなかった自分がいまここに居る。四十半ばにして再訪することのできたお礼を、深く深く伝えます。

朱塗りの荘厳な社殿にお参りを終え奥へと歩いてゆくと、そこにはこんもりと木々の茂る森が。かつては広大な敷地を誇っていたという、生田神社の社叢。現在もその一部が遺され、生田の森として大切に守りつづけられています。

先ほどまでの喧騒はどこへやら、一歩足を踏み入れれば一瞬にして包まれる静寂。神戸の都心、三宮の真っただ中にこんな深い森があるなんて。そしてここも、源平合戦の舞台となった場所なのだそう。

雨あがりのしっとりとした空気を胸いっぱいに吸い込み、森の外へ。すると目に入る、蛯子神社を護る狛犬。筋骨隆々ながっしりとした体、うさぎを思わせるような長い耳。独特な魅力を持つその姿に、思わず目はくぎ付けに。

前回訪れたときは夕方前で、ささっとお参りするだけだった。今回運よく雨もあがり、こうしてきちんと訪れることができて本当によかった。都心に残された豊かな空間に再訪を誓い、そろそろ神戸の街ともお別れする時間。

16年ぶりにあらためてこうして訪れてみると、前回以上に濃さを感じる街だった。阪急とJRの高架に挟まれたこの横丁も、夜にはきっと誘うような妖しい情緒を漂わせることだろう。
これはもう、次は絶対に泊まりがけだな。昼飲みする人々の賑わいにそう固く誓い、次なる目的地へと向けバスターミナルを目指すのでした。



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