はじめての鳴門で迎える爽やかな朝。旅に出てからもう一週間。出発前は長いと思えた行程も、残すところあと1日ちょっと。窓の外には爽快な青空、今日も一日存分に満喫するぞ!

朝ごはんに食べたい名物があったので、少々早めにチェックアウト。それにしても、本当にきれいな青空だ。朝の空気を吸い込みつつ、見知らぬ街を歩く。そんな旅ならではの情緒をより一層深めてくれる、昔懐かしい木の電信柱。

水路に沿って住宅街を歩いてゆくと、岸辺に係留された小さな舟が。地図を見ると撫養川や小鳴門海峡に通じているようで、ここから漁に出てゆくのだろう。

ホテルから歩くこと約20分、お目当てのお店である『うずしお食堂』に到着。朝6時から営業しており、地元の方や僕のような旅行者に人気のお店。

このお店は魚もおいしいらしく、刺身や焼魚、天ぷらにどんぶりと豊富なメニューの誘惑に負けそうになる。でもそこは初志貫徹、食べると決めていたわかめうどんを注文します。
これぞ食堂といった雰囲気のなか待つことしばし、お待ちかねの丼が運ばれてきます。ちなみに僕が狙っていたのは、鳴門名物という鳴ちゅるうどん。細目で柔らかいのが特徴のようですが、今日は品切れのため讃岐うどんの麺が使われています。
そんなことどうでもよくなるくらい、立ちのぼるだしのいい香り。おつゆをひと口飲んでみると、思わずうわぁと声がもれてしまうふくよかな味わい。優しくもきっちりきいただし、そこに感じる極わずかな甘味。胃へと届く前にすっと体に沁みるような穏やかさで、これはもう飲む点滴だ。
つづいて、鳴門産のわかめを。これがもう、とにかくしゃっきしゃきで。噛めばここちよい食感とともに広がる、海の味。決して磯臭いのではなく、ミネラル豊富な海の良い部分のみを凝縮したかのような旨さ。
太めのもちもちとしたうどんを啜り、わかめを噛みしめ穏やかなおつゆを飲む。この魅惑のループに、ずっとずっと揺蕩っていたい。そんな願いもむなしく、あっという間に大盛りを平らげてしまいます。

いやぁ、旨かった。だしもそうだが、わかめの主役感よ。激しい潮流の鳴門海峡に育まれたあの味は、ここに来たら必食だな。そんな余韻に包まれつつ、駅を目指して歩く道。足元には鯛や渦潮、海峡に梨と鳴門名物の描かれたかわいいマンホール。

はじめて訪れることができて、本当によかった。半日ながら、存分に満喫した鳴門の街。でも観潮船にも乗ってみたいし、鳴ちゅるうどんのリベンジもせねば。そんな再訪の企みを胸へと刻み、名残惜しくも別れを告げることに。

駅舎内で待つことしばし、折り返し乗車予定の列車が接近。久々にキハ40兄弟に乗れるな!そう思いホームへ行くと、ゆっくりと1200形気動車が入線。あれ?昨日結構往復していたように見受けられたんだが。
でもこれはこれで、四国でなければ乗れないオリジナル車両。そもそもそういえば、JR四国の非電化普通列車に乗ること自体はじめてだ。

家と田園の交じる長閑な風景のなか、最高速度85㎞/hとのんびり走る単行列車。もともとは阿波電気軌道、のちの阿波鉄道により開通した鳴門線。このゆったりとした雰囲気が、ローカル線らしくてここち良い。

鳴門から単行気動車に揺られることあっという間の17分、乗換駅である池谷に到着。右は鳴門線左は高徳線と、Y字に合流するふたつの路線に駅舎が挟まれるという独特な構造をしています。

これから目指すは、香川県。本当はのんびり普通列車でと思ったのですが、とにかく県境を越える列車が全然無くて。高松まで直通するのは日に4本という状況のため、特急うずしお号で行くことに。

これまた初乗車となる高徳線。地図では海沿いを走っているイメージがありましたが、実際に乗ってみると想像以上の山深さ。急勾配急曲線を、持ち前の振り子で越えてゆく2700形。振り子ならではの乗り心地を愉しんでいると、視界はぱっと開け穏やかな瀬戸内海が見えるように。

力走を続けるうずしお号の旅も、もうすぐ終わり。車窓には独特な形状をもつ屋島が姿をあらわし、到着がもうすぐであることを教えてくれる。

池谷から2700形の爆走に心酔すること46分、屋島に到着。跨線橋にのぼると、反対側には徳島行きのうずしお号が。そういえば、高徳線のアンパンマン列車ってデビューしたばかりだったはず。阪神電車に続き、僕運良すぎないか?

そして正面には、なんとも特徴的な山容をもつ屋島の雄姿が。もともとは火山活動による溶岩の塊で、長い年月をかけ浸食され硬質な部分だけが残りこのような形になったのだそう。

これから行く地の威容に圧倒されつつ、改札口へ。ちなみに乗車券は、鳴門から東京都区内までの通しで購入。こうして道中の気になる場所に途中下車できるのがありがたい。

これから向かう屋島は、見てのとおり小高い山。かつてはケーブルカーが運行されていたようですが、現在は『ことでんバス』の運行する屋島山上シャトルバスが唯一の交通手段。JRとことでんの駅から四国村を経由し山上エリアを結んでいます。

平日というのに立ち席が出るほど観光客で賑わうバスに揺られ、20分足らずで終点の屋島山上に到着。一見平らな屋島ですが、南嶺と北嶺ふたつのピークが。北嶺の先端にはすばらしい眺望を誇る展望台があるそうなので、まずはそこを目指すことに。

南嶺と北嶺を結ぶ尾根上をゆく遊歩道。左右には鬱蒼とした森が広がりますが、ときおり視界が開けこんな絶景が。瀬戸内に来るのは4度目になりますが、これほどまでに鮮烈な青さに染まる姿ははじめて。

台地状の屋島の向かいには、ギザギザとした独特な山容をもつ五剣山が。5つの峰をもつことからその名が付いたそうで、山麓では国会議事堂にも使われたという庵治石が採石されています。

谷状の地形に溶岩が溜まって塊となり、周囲の山が浸食で消滅するなかここだけがサヌカイトと呼ばれる硬質の安山岩のため残り生まれたという屋島。遊歩道脇の岩肌には、その成り立ちが感じられるような板状節理が顔を出しています。

しばらく歩いてゆくと、魚見台という展望台へ。そこからは、高松の街や讃岐平野を一望のもとに。裾野を広げる屋島の下に広がる平地は、かつての塩田。その名のとおり昔は海上に浮かぶ島だったそうですが、塩田開発により現在のような陸続きになったそう。

駐車場から約2.5㎞、途中絶景を愉しみつつ歩くこと30分ちょっとで屋島山上の最北端である遊鶴亭に到着。すでにこの位置からでも、その先に広がる展望が感じられる。

北嶺の先端に建っているため、周囲はぐるり320°の大パノラマ。この胸のすくような光景に、汗をかきつつここまで歩いてきてよかったと掛け値なしにそう思える。

あたたかな青さに染まる秋の空、その色味を映すどこまでも穏やかな瀬戸内海。そんな青い世界にぽかりと浮かぶ無数の島々、それらを結び人々の足として行き交ういくつもの船。

多島美。いつ訪れてもこの情景には息を呑むが、今日のこの青さは別格としか言いようがない。この瞬間ここで浴びたあまりの鮮烈さを、僕は一生忘れることはないだろう。

文字通りの絶景を愛でつつ北嶺一周を終え、1時間ほどで山上駐車場に無事帰還。つづいて、すぐ近くに位置する屋島寺にお参りすることに。

四国八十八箇所の第八十四番札所であり、境内には観光客に加えお遍路さんの姿も。4度目の高松にして、こうして初めて屋島を訪れることのできたお礼を伝えます。

荘厳さにあふれる本堂は、なんと鎌倉時代に建てられたものだそう。周囲には見事な彫刻が施され、これが800年ほども前の物だとは俄かに信じがたい。

屋島寺へのお参りを終えさらに先へと進むと、獅子の霊巌と呼ばれる展望台へ。北側を望めば、先ほど歩いてきた北嶺が。こうやってあらためて見ると、本当に不思議な形をしている。

人々で賑わうやしまーるという施設を抜け、南側へ。高松の街を間近に望むことから、夜景スポットとしても人気だそう。多くの人が、源氏の勝鬨に由来するという瓦投げを楽しんでいました。

帰りのバスまでまだもう少し時間があったため、南側に位置する城門跡へ。屋島には奈良時代に築かれたという古代山城があったそうで、その石垣が復元されています。
はじめて訪れることのできた屋島。その特徴的な形をした山には、絶景をはじめたくさんの見どころが詰まっていた。ここで出逢えた鮮烈な青をこころに刻み、次なる目的地を目指すのでした。



コメント