到着から早くも3つのお湯を愉しみ、あっという間に夕食の時間に。楽龍のある本館から自室のある南館へと戻ると、静かに出迎えてくれる灯りに照らされた雪景色。頬に感じる冷たい夜風とは裏腹に、心の芯にほっと温もりが灯るよう。
同じく南館にあるお食事処は全室個室となっており、誰にも気兼ねせず食事を愉しめるのも嬉しいところ。オリジナルラベルの地酒を注文して待つことしばし、今宵のひとり宴の幕が上がります。
まずは前菜。冬野菜がたっぷりと詰まったキッシュは、日本酒にピッタリ合う素材の味を活かしたおいしさ。このひと口で、これからの食への期待が一気に高まります。鴨スモークは赤身と脂の旨味が凝縮され、蕪のマリネのとろりとした食感と甘味は未体験の旨さ。
小鉢の小松菜のみぞれ和えにはしらすやきのこ、いくらも合わせられ、しゃきっとした食感とさっぱりとした中に広がる素材の味わいが美味。
続いてはお造りを。みなかみ産の姫鱒は、弾力ある身に詰まったしみじみとした旨味と脂が堪らない。群馬といえばの刺身こんにゃくも嫌なクセがなく、酢味噌ではなくしょう油で食べておいしい清らかなみずみずしさ。
そして初めて食べたのが、鯰のたたき。これまで鯉のお造りは食べたことがありますが、鯰は初めて。どんな味なのだろう・・・。ちょっとばかり身構えつつ食べてみると、想像していたのとは真逆の印象。しっかりと歯ごたえがあり、臭みはないながらじんわりと宿る旨味。鯰って、上品な白身だったんだ・・・。
初となる鯰の旨さに唸っていると、熱々の岩魚の塩焼きが運ばれてきます。焼きたてのホクホクの身を頬張れば、すぐさま地酒に手が伸びてしまう。この瞬間、山の宿へと来て良かったという歓びが体中を駆け巡ります。
さらに驚いたのが、添えられた小さな器に入った姫鱒の味噌焼。余分な油分のない凝縮された身に味噌の旨味香りコクが絡みつき、焼いたことによる香ばしさも相まって吞兵衛殺しの堪らない逸品。
これまた揚げたて熱々で出してくれる、季節の天ぷら盛合わせ。食感のみならず噛めば「サクッ」と音が鳴るほどからりと揚げられた天ぷらは、なすに舞茸、さつまいもとどれも素材の味を最大限に活かしたシンプルなおいしさ。
そして嬉しいのが、ちくわの磯辺揚げ。庶民の味方であるちくわも、この技をもって揚げられれば最高のごちそうに。もともと磯辺揚げは大好きですが、こんな本格的な「天ぷら」としての磯辺揚げ、初めて食べました。
続いて運ばれてきたのは、鰤大根。見た目通り薄味の上品な味付けながら、ぶりの嫌な臭みなどは全くなし。ぶりの旨味や風味のみが染み出たおつゆを大根が芯まで吸い、頬張れば口中にじゅわっと幸せが広がります。
そして今夜のメインは、上州牛の陶板焼き。程よく焼けたところを頬張れば、噛むごとに広がる脂の甘味と赤身の旨味。たれも自家製だそうで、牛の味わいを活かす丁度良い塩梅。
最後に地元産コシヒカリのご飯とお吸い物、デザートで〆て味覚もお腹も大満足。どれも丁寧に作られたものばかりで、湯めぐりの規模感もさることながら食事のおいしさに圧倒されてしまいます。
いやぁ、これはまずいことになったぞ。関東にこんないい宿があるなんて、きっとまた来てしまうじゃないか。そんな予感を抱きつつ、お腹を落ち着けたところで川場村は永井酒造の谷川岳超辛純米を開けることに。超辛とは言いつつ嫌味な辛さはなく、しっかりと味わいを感じるおいしいお酒。
お酒をちびりと味わい、気が向いたら湯めぐりへ。次はどの湯屋にしようかと選ぶ楽しさを味わいつつ、木龍へと向かいます。木造の湯屋には深めの檜風呂が設えられ、木の香漂う中での湯浴みを愉しめます。
続いては、庭園風呂の和龍へ。大きめの石造りの湯船から愛でる雪化粧をした坪庭は、この季節ならではの贅沢。ダイナミックな雪見露天とはまた違った居心地の良い空間に、思わず長湯をしてしまう。
掛け流しの源泉を、それぞれ違った趣で味わう愉しい時間。そんな夜をより深めてくれる2本目は、川場村は土田酒造の誉国光白ラベル。群馬県産のお米をほとんど削らず、生酛造りで醸したというこだわりのお酒。旨味や酸味、香りが濃く、全体的にどっしりとした主張のある味わいが印象的。
濃醇な地酒の合間に巡る湯屋。そんな至極の湯あそび、今宵の〆にと選んだのは壺龍。すぐそばには木の根沢が流れ、すだれ越しにきりりと冷えた夜風と心地よい川音を届けてくれる。
程よい大きさの壺に、滔々と掛け流される清らかな源泉。肩まで身を沈めれば、ざばーっと惜しげもなくこぼれてゆく。自分のためだけに溢れる湯を見つめ、こんな贅沢があっていいのだろうかと思えてくる。
肌を優しく包むお湯、それを様々な表情で愉しませてくれる湯屋。それだけでも贅沢なのに、それらを好きなだけ独り占め。その上お料理までおいしいときたら、もう言うことなど何もない。
思い立って計画した、年の瀬のご褒美旅。その舞台がこの宿で良かった。明日も続くこの幸せに胸を膨らませ、ひとり静かに今年一年頑張った自分自身を労うのでした。
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