上松から木曽川に寄り添う車窓を愛でること約40分、南木曽駅に到着。この旅を動機づけたのは、あの鉄の香り漂う冷鉱泉。ですが、もうひとつ理由が。
それは、ずっとずっと行ってみたいと思い続けてきた場所があったから。その玄関口に降り立つことができ、ようやく念願叶う瞬間を目前に感慨もひとしお。
南木曽駅からは、おんたけ交通が運行する『南木曽町地域バス』の馬籠線に乗車。このバスや接続する中央西線も本数が少ないため、お出かけ前にはしっかりと予定を立てることをお勧めします。
駅から山へと入り、急坂を登ってゆくバス。これを歩いて引き返すのか・・・。とちょっとばかり自信を無くしつつ揺られること35分、終点の馬籠バス停に到着。馬籠宿のメインの見どころはバス停から上の部分ですが、あまりの眺望に少しだけ坂を下ってみることに。
いつしか街道沿いに建つ人家も少なくなり、あたり一面に広がる段々畑。枯色の中にも春の息吹を感じさせる畔に、温かな陽射し溢れる青い空。そのうららかさに満ちた田園の先には、雄大に横たわる美しい恵那山が。
文字通り胸のすくような展望を胸いっぱいに吸い込み、元気をチャージしたところでいざ中山道歩きに挑戦。まずは車屋坂と呼ばれる入口のゆるい坂を登ってゆきます。
3月上旬の木曽路。まだ肌寒いかなとパーカーを着てきましたが、この日は季節外れの温かさ。すぐに汗ばみ、リュックの中に上着をしまい込みます。そんな春日和のなか、気持ちよさそうに咲く白い梅。うららかで、穏やかで。今日は気持ちのよい中山道歩きができそうだ。
車屋坂を登ると、二度直角に折れ曲がる街道。これは桝形と言い、宿場町に侵入しようとする敵を阻むためのもの。城郭に用いられている桝形を、宿場にも設置しているとは。街道は通行するための道であるとともに、軍事的役割を担っていたことが分かります。
桝形を抜けると、狭い石畳の両側に延々と並び建つ古い建物。ここを参勤交代の行列が通っていたかと思うと、なんとも不思議な気分になる。
旅館や食堂、お土産屋などが続く馬籠宿。その合間には往時の木曽路を学べる資料館などもあり、じっくり見て歩くには結構な時間がかかりそう。今回は妻籠まで歩く予定のため通過しましたが、いろいろ見どころがありそうです。
宿場の入口からひたすら坂道が続き、早くも息は上がり気味に。春の陽射しの温かさも手伝って、あっという間に汗だくに。そんなとき、街道脇に流される清らかな水を発見。山からの湧水でしょうか、手に触れる冷たさが心地良い。
まだまだ先は長い。オーバーペースにならぬようじっくりじっくり長い坂を登り切り、宿場の出口に到着。心地よい汗をなでる春風に息を整えつつ振り返れば、気のせいか少しだけ空に近づいたように思えてくる。
宿場を抜け車道を渡ると、そこにはいくつもの木札の掲げられた高札場が。300年ほど前の御触書が復元され、当時から幕府の制定した厳しい規則に管理されていたことが伝わるよう。
さらに中山道を登ってゆくと、広々とした展望広場が。ここで小休止し、これから迎える山道へと向け息を整えることに。
広場からは、登ってきたご褒美とも言えるあまりにも壮大なパノラマが。残雪を頂き、春空の青さに染まる雄大な恵那山。その足元には、黒々とした木曽の美林。総天然色の迫力に圧倒され、ただただ息を呑むばかり。
視線を来た道の方角へと向ければ、平地へと抜ける爽快な展望が。美濃から歩いてきた旅人はこの景色に山への挑戦を覚悟し、信濃から歩いてきた人はこの眺望に延々と辿った山深い木曽路の終わりを感じたに違いない。
初めて訪れた馬籠宿。いつかはと思い続けてきた宿場の風情に触れ、青さに輝く眺望に感動し。そしていよいよ始まる、中山道歩き。この先一体、どんな旅路が待っているのだろうか。交通を自分の足に頼るという時代に思いを馳せ、足取り軽く木曽路へと踏み出すのでした。
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