政宗公の時代から続く青根温泉の歴史そのものである不忘閣に別れを告げ、帰りもタクシーで送っていただくことに。ここアクティブリゾーツ宮城蔵王で、『宮城交通』の白石蔵王駅行きバスに乗り換えます。
車窓を彩る果樹園や田んぼの緑を愛でつつ揺られること約45分、白石駅に到着。今宵の宿も白石からバス便で向かうため、それまでの間のんびりと街歩きへと繰り出します。
まずは駅で街歩きの地図を手に入れ、お城の方向目指して適当に歩き始めます。するとすぐに現れる、目を引く立派な門。中では和紙の展示も行っているようなので、ふらりと入ってみることに。
門をくぐると、大正時代築という渋い母屋がお出迎え。ここ壽丸屋敷は白石一といわれた豪商のお屋敷だそうで、敷地内にはこの母屋をはじめ重厚な蔵も建てられています。
靴を脱ぎ中へと入れば、素人目にもわかる贅沢な造り。ぐるりと廻らされた縁側では時を重ねた木材が渋い表情を魅せ、波打つガラス戸からは庭の緑が溢れます。
座敷へと上がると、まず驚くのはその天井の高さ。二重に葺かれた屋根の周囲には明り取りの窓が設けられ、消灯しているとは思えないほどの明るさに満ちています。
広々とした座敷の隣には、雰囲気を全く異にする洋間が。これまた見上げるほどの高さにある天井は、曲線美に彩られる折り上げ格天井。商業のほか不動産や金融、しょう油味噌の醸造まで手掛けたというここの家主。一体どれほどの財を成していたのでしょう。
古の豪商の財力に圧倒されつつ、庭の緑の美しい廊下を先へと進みます。縁側の屋根を支える梁には、美しく艶めく杉の丸太。先ほどの写真からも分かるように、均一の太さをした一本ものが使用されています。
廊下のクランクを曲がった先には、落ち着いた雰囲気に包まれる書院座敷が。飴色の木材を照らす白石和紙の灯りが、この空間の趣を一層深めるかのよう。
先ほどの開放的な座敷とは一変し、こちらは落ち着いた和室ならではの佇まい。暗めの色の壁や鈍く輝く木の色味と、それらを際立たせるかのように差し込む陽射しの対比が美しい。
贅を尽くした母屋の建築美を味わい、重厚感溢れる扉をくぐり店蔵へ。明治時代に建てられたという蔵の歴史が、渋い色味に染まる白漆喰から滲み出てくるよう。
店蔵という名の通り、かつては土間で商いが行われていたというこの空間。この日は白石和紙で造られた温もり溢れる作品が、ところ狭しと展示されていました。
かつての豪商の財力に圧倒されつつ、お屋敷を出て庭へと進みます。店蔵の裏手には、ぎっしりと詰まれた古き良き生活道具たち。陶器の酒瓶や巨大な鉄瓶、立派な火鉢と、かつての暮らしに思いを馳せます。
ぐるりと外を回り、表側から眺める店蔵の正面。明治時代からここに建ち続けるこの蔵は、城下町の目まぐるしい変遷を眺め続けてきたことでしょう。
初めて歩く、白石の街。敢えて下調べをせず、その日気の向くまま足の向くままのんびり散歩。これから一体どんな表情に出逢えるのかと心躍らせ、足取りも軽くお城目指して歩くのでした。
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