あまりに荘厳な眉山からの眺望にこころを打たれ、その余韻を抱きつつ一旦ホテルへ。今宵の宴の舞台を選び電話で予約を入れ、よき時間になったところでお店へと向かいます。
この日は日曜日、徳島のお店は定休日が多い模様。そんななか、ここ一軒で色々と愉しめそうな『骨付き阿波尾鶏一鴻徳島駅前店』にお邪魔することに。それにしても、念のため直前とはいえ予約しておいてよかった。人気店のようで店内は満席、多くのお客さんで賑わっています。
まずは冷たいビールで、初めての阿波に乾杯。まずはおつまみにと、練り物2品を注文。まずは源平合戦の頃から歴史をもつという、名産の竹ちくわから。
プリッともっちり、しなやかな弾力をもつすり身には魚の上品な旨味がぎっちり。濃厚なのに、魚介臭くない。炙られた皮がまた香ばしく、これは日本酒に合いすぎるやつ。急いでビールをあおり、阿波の地酒に切り替えます。
そのお隣は、徳島ではなじみのあるというフィッシュカツ。こちらもさっくりと温められ、衣の食感の後に広がるすり身の旨さとふんわりとしたカレーの風味がたまらない。
あれ、徳島、好きかも。着いたときの感覚、眉山での感動。そして快調なすべり出しを魅せる、土地の味。初めて口にする阿波の味覚に早くも手ごたえを感じていると、続いて濃密の出汁巻き卵が運ばれてきます。
見るからに厚みのある、熱々の玉子をひと口。はふはふっと頬張れば、ふんわりと広がる濃い卵の風味と穏やかなだしの味。
あぁ、確かにいま西日本に居るわ。暮らすも旅するも東日本に馴染みのある僕にとって、この優しくもしっかりと味覚に訴える上品なだしはある意味西の味の象徴。そんなだしを濃い卵が抱き込み、食べるごとにほっくりとした温かさがこころに落ちてゆく。
そして現れたのが、このお店の名物である骨付き阿波尾鶏。しっかりとした歯ごたえが魅力のおやも選べますが、今回はスタンダードな阿波尾鶏を注文。カットの有無を選べるので、食べやすいように切ってもらいました。
まず驚いたのが、熱々の鉄板に載せられてきたこの迫力。立ちのぼる湯気に食欲が刺激され、これなら食べ終わるまで温かい状態で味わえます。そして待望のひと口。バリっと、そしてじゅんわり。こりゃぁ、やばいほど旨いぞ。
独自のスパイスに漬け込み、400℃にも達するオーブンで焼き上げたという骨付き鶏。皮はバリバリというほどこんがり焼かれ、しっかりとした肉々しい身に宿る濃い肉汁。
こうして阿波尾鶏を食べたのは初めてだけれど、この鶏はものすごく肉を食べている感じがする。それは決して硬いわけではないが、身の弾力や質感、濃い旨味がそう感じさせるのだろう。途中で添えられたすだちを絞れば、爽やかかつ華やかな表情に変化。こころに残る旨さだ、この骨付き鶏は。
熱々の鶏肉を無心に頬張っていると、続いて阿波尾鶏の肝の炭火焼きが運ばれてきます。塩も選べましたが、今回はたれで。ほくほくとしたレバーにほどよい甘辛さが絡み、阿波の酒が一層進んでしまう。
ちょっと徳島、すげぇじゃねぇか!肉肉しい旨味たっぷりの阿波尾鶏、甘味と酒感のバランスのよい阿波の地酒。気になるつまみもたくさんありもっと飲んでいたかったのですが、程よいところでお店を後にします。
ホテルも今のお店も駅前のエリアですが、徳島の繁華街は川を渡った先に広がっているそう。せっかく初めて訪れた街、お酒はほどほどにして夜のさんぽへと繰り出します。
幾筋かの川が流れる徳島は、整備された遊歩道や遊覧船のりばといったうつくしい水辺の風景が印象的。夜の新町川は、その漆黒の水面に街の灯りをきらきらと映しています。
繁華街へと続く両国橋の親柱には、男踊りと女踊りの等身大ブロンズ像が。やっとさー!あ、やっとやっと!躍動感あふれるその姿に、物心ついたころから好きだったあの掛け声が甦る。
生まれも育ちも三鷹の僕は、学校に上がる前から阿波おどりを見るのが大好きだった。夏が近くなると練習する音が聞こえだし、祭り当日の駅前商店街は歩けないほどの人で埋め尽くされていた。今より夜風が涼しかったあの頃の多摩の夏、阿波おどりこそが僕にとっての祭りの原風景。
そんな想い出をもつ僕にとって、阿波おどりは特別なもの。いつかは本場で見てみたい。ずっとそう思い続けてきたけれど、こうして初めてこの街を訪れその想いが一層強さを増してゆく。
なんだかんだいって、やっぱり僕は三鷹っ子なんだな。今はもうあの頃の面影はないが、あの街で育ったという想い出は決して消えることはない。そんな温かい記憶を手繰りつつ歩いてゆくと、情緒あふれる路地裏が縦横にのびていることに気付きます。
妖しい横丁に誘われ、足の向くまま気の向くまま歩く夜の繫華街。大通りの賑やかさ、裏路地の濃密な空気感。想像以上の情感に、これは1泊ではもったいない街だと気圧される。
進むごとに、深く豊かな表情を魅せる幾多もの小径。43年間、本当に僕は何ひとつ徳島を知らずに生きてきたんだな。そのことがもったいなくもあり、人生半ばで出逢えてよかったとも思えたり。
濃厚な空気感の詰まった徳島の繁華街散策を愉しみ、お腹に若干の余裕ができたところで『中華そば専門店阿波屋』にお邪魔することに。この悪巧みがあったから、名残惜しくも一鴻では控えめにしたのです。
初となる、本場の徳島ラーメン。今回はお店の名を冠した阿波屋そばを注文。基本の中華そばとの違いは、浮かべられた背脂と添えられたすだちだそう。
まずはスープから。しっかりと感じるしょう油の味わいに、奥行きを与えるほどよい甘さ。こちらのお店は徳島ラーメンのなかではあっさり目に分類されるようで、確かに見た目ほど濃くは感じない。
続いて、中細のストレート麺を。懐かしさを感じさせる麺はほどよい小麦感があり、しっかり目のスープと好相性。徳島ラーメンといえばの甘辛い豚バラを挟めば、これはご飯のおかずにしたいと思わず納得。途中ですだちを絞れば、酸味と香りによりまた新たな味覚へと変化。
到着後数時間で、はやくも阿波に満たされてゆく。もうこれだけで、この旅を決行してよかったというもの。満腹を抱えつつ歩く夜の川辺、いま胸を満たす至福は言葉にできない。
初徳島、大満喫。そんな夜を一層深める、ホテルの部屋での宴の続き。鳴門市の本家松浦酒造の醸す、鳴門鯛。ここのお酒は好きで飲んでいたのですが、近所で手に入らなくなってしまったのが残念。
今夜悟った、阿波の酒との相性の良さ。フルーティーさを感じさせる飲みやすい味わいが、こころの奥へと広がってゆく。
やっぱり、実際に訪れてみないと分からぬことばかり。見て、感じて、味わって。その実体験に勝るものなし。何でこれまで、来なかったのだろう。そう思わせる徳島の魅力に触れ、初めての街での夜は深まってゆくのでした。
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