太宰治の故郷、金木。そこで得たたくさんのものを胸にしまい、この地を離れることに。駅前からは、のびる鉄路の先に聳える、黒々とした岩木山。古くから変わらないであろうその山容を目に焼き付け、列車の時刻を待ちます。
静かな時間に身を任せつつ待つことしばし、渋いホームに列車が入線。車両や駅舎は当時とは変わりましたが、ホームに佇む木の電信柱が古の名残を今に伝えます。
太宰治も通ったであろうこの道を、のんびりと列車に揺られるひととき。車窓には、どこまでも広がる夏の津軽の田園風景と、雄大に裾野を広げる岩木山。悠然と聳えるその姿は、不変の美しさと共に気高さすら感じさせるよう。
つてつの準急に揺られること20分足らず、津軽五所川原駅に到着。古びた跨線橋を渡りJR側へと向かえば、ホームからちらりと垣間見える立佞武多。勇壮なその姿に、まもなくこの地に訪れるであろう熱き祭りの予熱を味わいます。
その熱に共鳴するかのように昂る、今宵のねぷたへの熱い期待。胸に満ちる夏感を反芻していると、見慣れた車両がホームへと入線。初代リゾートしらかみ青池編成であったこの車両は、五能線クルージングトレインとして走り慣れたこの地を今なお元気に駆け抜けています。
久々に乗車する旧青池編成。懐かしさに包まれつつ大きな窓へと目をやれば、青々と力強く伸びる稲とそれを見守る津軽富士。この青すぎるほどの夏景色は、いつまでも見飽きることはありません。
岩木山の裾野を彩る緑は稲からりんごの木へと姿を変え、日本一のりんご王国である弘前が近付いていることを教えてくれるよう。ディーゼルの唸りにも負けず、耳の奥にはねぷたの熱いお囃子が甦ります。
五所川原から夏色の車窓を愛でること約40分、1年ぶりとなる弘前駅に到着。石垣空港が出発点とするならば、この弘前駅で頂点を迎える僕の夏。この地を踏まなければ、夏を越すことなどできないのです。
夏の陽射し以上に焼き付くねぷたの気配を肌に感じつつ、今宵の宿を目指します。今回は2度目の宿泊となる『津軽の宿弘前屋』に2泊お世話になることに。駅やバスターミナルから徒歩3分という好立地が魅力的。
それ以上に魅力的なのが、温かみのある落ち着いた雰囲気。靴を脱いで上がる館内にはふんだんに木が使われ、津軽を感じさせる調度品と共にほっとするような空間を形作ります。
荷物を降ろしてさっとシャワーを浴び、いよいよ1年ぶりとなる弘前の街へと繰り出します。途中スタート地点へと向かうねぷたを目にし、一気に胸へと広がる熱さを愉しみつつ歩きます。
そしてたどり着いた弘前の繁華街、鍛治町。お目当てのけん太居酒屋へと向かってみると、何やら様子がおかしい。看板はあるのにお店が開いていない。臨時休業なのか、はたまた閉店なのか。これはまた来年訪れた際に確かめてみなければなりません。
ということで今回は、そのすぐ近くに位置する『函館あかちょうちん弘前店』にお邪魔してみることに。函館の名は冠していますが、店頭に掲げられたメニューからは青森の幸を味わうことができそう。
まずはこのねぷた旅恒例となったほやの刺身から。大ぶりの殻にはたっぷりとほやの身が盛り付けられ、その見た目からも新鮮なことが伝わります。
ひと口頬張れば、広がる海の恵み。臭くないのに磯の味。東北で食べなければ決して好物にはなり得なかったほやですが、毎度のことながら鮮度が命であるということを思い知らされます。
新鮮なほやの味に夏の到来を噛みしめていると、続いて注文していた十三湖産のしじみバターが到着。大ぶりなしじみの身はぷっくりと詰まっており、噛むと上品ながら濃厚な貝だしがぷりっとはじけます。そして何より旨いのが、このおつゆ。説明不要、これをつまみに四合瓶いけそう。
そして〆は、これまた大好物の嶽きみの天ぷらを。この上なく甘い嶽のとうもろこしは、カリッと揚げられることでその風味がさらに凝縮。夏の津軽に来たら必ず食べたい一品です。
今朝青森駅に到着し、味に景色に文豪にと津軽を満喫した10時間。でもこの旅はこれからが本番。1年ぶりとなるヤーヤドーの響きに思いを馳せ、旨い地酒を傾けるのでした。
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