八幡平頂上からバスに揺られること小一時間、玉川温泉に到着。宿のチェックイン開始まではまだ時間があったので、すぐそばに位置する玉川温泉自然探求路を歩いてみることに。
宿へとお湯を運ぶ樋を横目に歩いていくと、もうもうと立ちこめる蒸気の中ものすごい勢いで湧く温泉が。こちらが日本一の強酸性、pH1.2を誇る玉川温泉の源泉。湧出量も毎分9000ℓと想像すらつかない数字で、単体の泉源としては日本一なのだそう。
あたりを包む蒸気と硫黄の香りに気圧されつつ歩くと、遠くにはかの有名なオンドル小屋が。全国でも唯一無二のこの地を求めて、玉川温泉やその周辺の宿には多くの人々が湯治をしに集まります。
ござを抱えた人々が行きかう、独特の雰囲気に包まれたこの自然探求路。通常の国立公園に設置された散策路とは性格を異にするこの遊歩道を、一層印象付けるのがこの景色。
荒涼たる山肌の至るところから蒸気が勢いよく噴出し、その周辺の岩肌は硫黄成分により妖しい鮮やかさをもつ黄色に染まっています。
自然の力を具現化したかのような光景に圧倒されたところで、これから3泊滞在する『玉川温泉』にチェックイン。家族連れから長期滞在の方まで、様々な人々が手続きを待っています。
玉川温泉には旅館部と自炊部があり、自分に合ったスタイルで滞在することができます。今回僕が予約したのは、自炊部夕食付のプラン。壁に設えられた大きな荷物棚が、長期滞在向けであることを物語ります。
浴衣に着替え、早速浴場へ。こちらの浴室は撮影禁止のため、今回写真はありません。
扉を開けると、奥へと長く続く木造の湯屋。その両側には大小様々な浴槽が並び、それぞれ異なるかたちで玉川のお湯を楽しむことができます。まずは掛け湯をし、源泉50%の浴槽へ。強酸性泉を水で薄めているので、それほど刺激は感じません。
程よく体が慣れたところで、いよいよ源泉100%の浴槽へ。玉川の湯の主成分は、様々なものを溶かしてしまう塩酸。その源泉がそのまま注がれているということは、つまり胃液の中に浸かってしまうのと同じようなもの。
いざ入ってみると意外と大丈夫。ですがしばらくすると、皮膚の弱い部分がピリピリ、ざわざわしてきます。きっとこれ、皮膚に傷があったら入れないやつ。そしてチェックイン時にも説明されますが、目に入ると大変なことになるのでお湯を顔に掛けることは厳禁です。
薄い皮膚を通してビシビシと伝わる危険な心地よさ。これが僕の素直な感想。これから3泊滞在するのだから、初日から負けてしまってはもったいない。程よく危険な甘美を味わったところで、掛け湯をして弱酸性の湯へと移ります。
その他にもミストサウナのような蒸気湯や、頭だけ出して蒸気を浴びる箱蒸しなど、玉川の大地の恵みの浴び方は様々。そして意外にも気持ちよかったのが、ぬるく浅い浴槽に寝ころび頭をお湯へと浸す浸頭浴。これをするとものすごく頭がすっきりし、日々のもやもやが晴れてゆくような感覚が。
薬湯、その言葉を具現化したかのような玉川の湯。伝わる力があまりにも強烈なので、長湯は厳禁。自分の体と相談しつつ、濃度や温度を調整し湯あたりする前に上がります。その際は必ず、絶対、上がり湯を。これをしないと湯上り後も肌は酸にさらされ、ボロボロになってしまいます。
入浴時間はそれほど長くはなかったものの、ものすごく心身に変化をもたらす不思議な温泉。この時の僕はとても合ったようですが、もしかすると人それぞれ、もしくは自分の体調等により相性がはっきりと分かれてしまうかもしれません。
そんな大地の力を堪能し、お腹もすいたところで夕食の時間に。こちらの夕食はカフェテリアスタイルで、自分の体調や好み、気分により選ぶことができます。メインはお肉と魚があり、主食も白ご飯やお粥、おそばなどから選べます。
全国から岩盤浴と温泉を求め人々の集まる玉川温泉。食事内容も通常の温泉宿とは違い、野菜を中心とした体に優しいものが多く並びます。それぞれ味付けも控えめで、体の内側からも日常の疲れを癒してくれそう。
ヘルシーな食事を楽しみ、丁度よく満腹になったところで部屋へと戻ります。その前に、夕暮れ時の山並みを。谷底に佇む一軒宿を隠すように連なる山にかかる靄が、これからやってくる雨を知らせてくれるよう。
あとはもう、お湯とお酒という静かな時間が流れるのみ。そんな夜のお供にと選んだのは、玉川温泉の売店で仕入れた雪の茅舎、山廃純米酒。いつ飲んでも旨い、飲み飽きしない大好きなお酒です。
山間の宿を包む静かな夜。何度目かの湯浴みを終えて部屋へと戻ったとき、中庭から聞こえてくる音頭。数日後に控えた盆踊り大会の練習をしているようで、曲の中に人々の笑い声も混じります。
初めて訪れた玉川温泉。色々な面においてこれまで泊まった秘湯の宿との違いを噛みしめ、更けゆく夜にたゆたうのでした。
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