かわいい柴犬親子に見送られ、山頂からの眺望という次につながる宿題を残しつつ身延山を後にすることに。帰りも『山梨交通』のバスに揺られ、身延駅へと向かいます。
次の列車まで若干の時間があるため、駅前のすぐのところを流れる富士川を見に行くことに。さすがは日本三大急流のひとつに数えらえる富士川。平時の流量とはそぐわない川幅と大量に積もる石が印象的。
そりゃぁ、そうだよな。甲府盆地に降った雨や雪解け水が、すべてこの川を流れてゆくのだから。荒涼としたこの光景が、いかにこの川が暴れ川であるかを物語るよう。
富士川の荒々しさを目の当たりにし、水の力の凄さを実感したところで駅へと向かいます。程なくして、甲府行きの普通列車が入線。ここから先は、のんびりローカル線の旅を愉しみます。
時間調整のためしばらく停車したのち、甲府を目指して列車は出発。車窓にはどんと横たわる身延山が見え、今度は絶対にあの頂上まで登ってやると決意を新たにします。
3扉、クッションの効いた分厚いクロスシート。東京に暮らす僕にとって普段乗る機会のない造りの列車に、改めてJR東海管轄であることを噛みしめる。枯色ののどかさが大きな車窓を染め、ローカル線の旅情というものを演出してくれる。
ぼんやりと流れる車窓を眺めていると、コンクリートの主塔を持つ古そうな吊り橋が。地元の方にとっては日常でも、僕にとっては非日常。こんな光景に出逢えるのも、のんびりとした列車旅ならでは。
大きな窓から差し込む陽射しの温もりに誘われ、気づけばちょっとばかりうたた寝を。ふと目が覚めると、真っ青な空に映える八ヶ岳の独特な山容が。
後に富士川となる笛吹川を渡り、進行方向を北へと変えて盆地の底をのんびり走る身延線。ギザギザとした八ヶ岳からバトンタッチし、今度は山の合間から白い南アルプスがちらりと覗くように。
小春日和を体現したかのような車窓を愛でつつ揺られること1時間23分、善光寺駅で途中下車。ここから歩いて、当初は予定になかった目的地を目指します。
周辺は住宅地でありつつ、その合間にはぶどう畑が点在。赤紫色に染まる大きな葉に甲州の秋の名残りを感じつつ、ぽかぽか陽気のなか気持ちのよい散歩を愉しみます。
駅からのんびり歩くこと10分足らず、道の突き当りに現れる立派な山門。ここ甲斐善光寺は、川中島の合戦により長野の善光寺が焼失することを恐れて建立されたお寺だそう。
朱塗りの山門を抜けると、まず感じるのが空の広さ。盆地の縁を背負い建つ金堂は、この距離から眺めてもその大きさが伝わるよう。
先ほどの山門とともに、230年近く前に建てられたという金堂。その荘厳さに目を奪われますが、立派な枝ぶりの松もまた見事。
快晴の眩い青さと、朱塗りの鮮烈な対比。そこに施された素木の彫刻が渋みを与え、何とも言えぬ迫力をもって見るものを圧倒します。
東日本最大級と言われる、巨大な金堂。長野の善光寺と同じく撞木造が用いられ、内部には独特な音色を奏でる鳴き龍や漆黒の闇を歩くお戒壇巡りも。
御本尊の秘仏は信州へと戻り、その前立仏が今の御本尊として残された甲斐善光寺。大人になって訪れたのは初めてですが、その荘厳な雰囲気に圧倒されるばかり。
昼なお暗い金堂で過ごす、静かな時間。ロープウェーが止まっていなければ、本来は訪れることのできなかった甲斐善光寺。このタイミングでお参りできたことにご縁のようなものを感じ、未知なる甲府旅へと歩みを進めるのでした。
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