窓から滲む、青白い朝の気配。そんな弱々しい今日の始まりに起こされ外を見れば、到着時から一層深さを増した銀世界。その景色の中へと飛び込むべく、早速露天風呂へ。凛とした空気の中、じっくりと朝湯を愉しみます。
冬の湯旅の醍醐味を存分に味わい、それでも持て余す朝の時間。早く目覚めたならば、早く起きてしまえばいい。日常では少しでも長く布団に居たいと思ってしまう、この時間。それなのにこんな贅沢な余白に身を置けるなんて、旅先だからこその心のゆとりに違いない。
湯上りにぼんやりと降る雪を眺めていたら、ちょうどお腹もすいたところで朝食の時間に。焼鮭にきんぴら、すじこにひじきと、ご飯に合うおかずの数々。やっぱり旅先での朝は和食に限る。手作りのおいしさに、ご飯を3杯平らげてしまいました。
初めて訪れた、中ノ沢温泉。安達太良から駆け下りてきた湯は青白く、そしてシルキーな温もりで包んでくれた。次来るときは、連泊だな。新たな滞在先に出会うためにも、こうして初めての場所に訪れることの大切さを改めて思い知らされます。
宿のおばあちゃんに見送られ、手を振りつつ『磐梯東都バス』の猪苗代駅行きに乗車。流れるモノクロームの車窓に、短い滞在ながらも感じる若干の別れの寂しさを重ねます。
雲越しに、ときおり姿を見せる冬の太陽。その穏やかな陽射しを受け、バス通りと並走する酸川の水面もきらきらと輝きます。いつまでも眺めていたい。そう思いつつも柔らかい暖かさに包まれ、気づけばうとうと、うとうと。
そんな緩やかなバス旅を愉しんでいるといつしか勾配も緩くなり、車窓には雄大な山影が。昨日ははっきりとは見えなかった磐梯山が、その姿を見せてくれました。
安達太良と磐梯の麓を縫いつつ山道を下ること40分、猪苗代駅に到着。昨日以上の冬晴れの青さが、渋いロッジ風の駅舎を引き立てるよう。
小さな待合室で待つことしばし、列車の接近を知らせる放送が。ホームへと出ると、足元を埋める積雪。毎度のことながら、レールも車輪も埋もれているのによくも脱線しないものだと感心してしまう。
猪苗代湖の周囲に広がる盆地を快走する、磐越西線。見渡す限りの雪原に、もしこれがSLの牽く旧客だったならと思わず妄想してしまう。絶対に叶わぬ願いと知りつつも、旧客の現役時代に生まれてみたかった。
会津若松からトンネルなしに標高差を越えてきた磐越西線も、ついに隧道がちらほらと。カーブも連続しはじめ山も険しくなったかと思えば、ついに会津に別れを告げて中通りへ。
勾配が上りから下りへと転じ、もう間もなく磐梯熱海。ここまで来ると、あれほど輝きを見せていた積雪もだいぶ少なく。さあこれからが、旅の第二章の舞台、中通りへ。そう思いつつも、やっぱり会津への名残りも惜しい。
これまで何度も訪れつつも、何故かその機会に恵まれることのなかった会津の冬。初めてそこで目にした、そして感じたものは、それは白く清らかで豊かだった。大好きな地の新たな魅力を知り、またひとつ再訪の口実が増えてしまうのでした。
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