焼豚玉子飯の魅惑の味わいに、日本三大水城の今治城。初めて訪れた今治の街を満喫し、この旅最後の目的地を目指すことに。
当初はのんびり普通列車に乗るつもりでしたが、駅に着くとちょうど良い時間に特急があったので予定変更。初乗車となる8600系のしおかぜ・いしづち号で一路松山へと向かいます。
今治を出てしばらくは、内陸を進む予讃線。車体傾斜装置付きのダイナミックな走りを堪能していると、ついに車窓に姿を現す瀬戸内海。
この先しばらくは、海に沿って国道196号線と並走する区間。伯方島からしまなみ海道を渡りきり、その日の宿のある奥道後へと向け一生懸命漕ぐペダル。右手に見える青い海原、ふと迫りくる音に視線を上げれば初めて目にする8000系。17年前、列車と並走したあの記憶が懐かしい。
さすがはJR四国の誇る俊足列車、今治から想い出の道のりを駆けることあっという間の34分でこの旅の終着地である松山に到着。
昨年9月に高架化したばかり、まだ真新しさを感じさせる松山駅。市街地のある東側へ向かおうと進んでゆくと、そこには取り壊し中の旧ホームが。あと数年で、ここが松山の正面玄関になるはず。
長きにわたる役目を終えた者の漂わせる哀愁に触れ、東口の駅前ロータリーへ。振り返れば、見覚えのあるこの駅舎。道後に松山城と生まれて初めてこの街を巡った僕は、この駅舎に再訪を誓い海路で広島へと渡ったんだった。
あのときは古き良き路面電車が往来していた松山の街も、今ではスマートな超低床電車が大多数を占めるように。時代の流れと伊予鉄の頑張りを感じつつ、念願の松山市内線に初乗車。
JR松山駅前電停から5系統の道後温泉行きに揺られること13分、大街道電停で下車。あのときもこの規模には圧倒されましたが、日曜日の今日も長いアーケードは行き交う人々で賑わっています。
電停から大街道商店街を歩くこと約3分、今宵の宿である『ホテルチェックイン松山』に到着。アーケードの一本東寄りの道に位置するため、雨でもあまり濡れずに移動できるのも嬉しいところ。
松山一の繫華街大街道という好立地でありながら、一泊素泊まりで驚きの3千円台。そして嬉しいことに、奥道後から引いた温泉大浴場まで完備。さっそく荷物を下ろし、さらりとした優しいお湯で旅の疲れをほぐします。
湯上りに部屋で小休止し、大街道や銀天街をのんびりぶらぶら散策へ。17年ぶりの街並みに当時の記憶を手繰りつつ、良き時間になったところで今宵の宴の会場へ。大街道アーケードに面する『一進丸』にお邪魔します。
さっそく冷たいビールで乾杯し、まずは揚げ物2品から。愛媛名物のじゃこ天のタネに、パン粉の衣をまとわせ揚げたじゃこカツ。さっくりとした食感とともに広がる、小魚の滋味。ソースとの相性も良く、もしかしたらじゃこ天以上に好みかも。
そのお隣のタコ天ぷらは、さくっと軽い衣とほどよい弾力が好相性。噛めばじんわりたこの旨味が溢れ、本当に瀬戸内ってたこだよな!と感心してしまう。
こちらのお店の名物はわら焼きだそう。実際僕らもそれにつられて予約したので、さっそくカツオのわら焼きを注文。
運ばれると同時に、鼻をくすぐる魅惑の芳香。厚く切られた身を塩とにんにくとともに頬張れば、口中を満たす香ばしさと強い旨味。見ての通り新鮮で、分厚いのにまったく臭みなし。噛むごとに赤身ならではの旨味が溢れ、この肉々しい旨さには圧倒されるばかり。
続いて注文したのは、刺身5種の2・3人盛。赤身のまぐろは瑞々しく、普段あまり食べないサーモンも脂はのっているのにクセがない。オーナーの実家が鮮魚店だそうで、そこから仕入れているというから間違いないのだろう。
そして瀬戸内といえばの、この3種。見るからに新鮮なしまあじは、締まった食感と上品な脂が美味。かんぱちもこれまたこりっと歯ごたえよく、広がる甘味が堪らない。そしてやっぱり、瀬戸内の王者である鯛。しっかりと引き締まった身に宿る、上品かつ濃い旨味。本当に、この海では何が起こっているんだろう。
ここまで魚が続いたので、箸休めにと厚焼き卵を追加。ほくほくの玉子は酒に合うしっかり目の味付けで、添えられたマヨをちょんと付ければ伊予の酒がぐいっと進んでしまう。
こちらのお店は、魚だけでなく愛媛のお肉が味わえるのも嬉しいところ。甘とろ豚や伊予牛にも惹かれましたが、媛っこ地鶏のたたきを頼みます。
表面は香ばしく、中はほんのりピンクのレア。しょう油ベースのたれをつけて噛みしめれば、しっかりとした歯ごたえとともに広がる深い滋味。食感はあるのに、硬くはない。皮の脂の旨さもありつつ、瑞々しい身には甘味も宿る。愛媛よ、お主は魚のみならず畜産までも旨いのか。
この日は相方さんの誕生日。めでたいということで、普段は頼まないであろう鯛めしも注文。愛媛で鯛めしといえば、刺身を生卵で食す南予のものと、東予・中予で食べられる炊き込みの2種。前回は宇和島鯛めしを食べたので、本場松山の鯛めしはこれが初めて。
結論から言いましょう。鯛の炊き込みご飯だと侮ってしまい、大変申し訳ございませんでした。ひれや骨を取り除き、兜からも身を外してしゃもじで混ぜ混ぜ。ほぐれた鯛の身が行きわたったところで、お茶碗に盛りつけます。
どれどれ、そう思いつつひと口。その刹那、これまでの魚の炊き込みご飯の概念は霧散する。鯛の上品な香りや味わいがしっかりお米に染みわたっているのに、魚介臭さが全然ない。淡白な身はほぐれていても個性は失わず、ご飯との一体感は至福としか言いようがない。
ちょっとこれ、おかずなしで延々食べられるやつだ。土鍋で炊きたて熱々もいいが、おむすびにしてしばらく置いても絶対に旨いやつ。こんな鯛めしを食べてしまうと、これからは松山か宇和島かで激しく悩んでしまうこと間違いなしだな。
食べるもの飲むものみなおいしく、伊予の恵みに満たされる松山の夜。大満足でお店を後にし、腹ごなしにと夜の街をちょっとばかり散策。降る雨に身体も冷えたところでホテルに戻り、奥道後の湯で温まったあとは自室でゆっくり宴の続きを。
食べて呑んで歩いて。こうしてひと晩を過ごしてこそ、その街に行ったと言える気がする。初めて泊まるこの街の魅力にすっかり満たされ、旅の最後の夜はしずかに更けてゆくのでした。
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