生まれて初めての競馬場でお馬と触れ合い、クセになる味わいのカレーに舌鼓を打ち。午前中からそんな帯広の魅力を満喫し、午後はちょっとばかり足を延ばしてみることに。
ホームごとに改札口が分かれているという、おもしろい構造をした帯広駅。乗る列車の改札開始が告げられ1番線へと向かうと、そこには見たことのあるような車両が。
そうだ、JR東日本の車両をベースにした新型をJR北海道が導入しているんだった。去年初めて五能線で乗った、電気式気動車GV-E400系。それを北海道向けにアレンジしたH100形により、古い気動車の置き換えを進めています。
僕にとって、北海道といえばのデッキ付き二重窓のキハ40。引退まであと1年、もうきっと再会を果たす機会はないだろう。酷寒地ならではの愛着ある車輌との記憶を辿っていると、新型気動車は川幅の広い十勝川を軽快に渡ってゆく。
DECMOの愛称が与えられたH100形。これからは、この車両が北の大地を駆ける鉄路の顔となってゆく。五能線で乗ったときも感じたことですが、電気式になってもディーゼルカーはディーゼルカー。気動車の情緒を残した新型に、僕の新たな旅路を刻みたい。
軽快な走りをみせるデクモに揺られること30分ちょっと、この旅最後の目的地である池田に到着。ここで降りるということは、目指すはもちろんあの場所。
駅前には、この地らしくワインオープナーの巨大なモニュメント。冬空に鈍く輝くステンレスの奥には、すでにその姿を見せている池田ワイン城。
駅から線路沿いを進み跨線橋を渡れば、10分程で『池田ワイン城』に到着。モノクロームの冬景色のなか、ずっしりと佇むコンクリート造り。この重厚感溢れる無機質さは、この時期ならではの光景。
雪のうっすら積もった階段と坂道を、滑らぬよう一歩一歩慎重に登り振り返る。眼前に広がるのは、冬という季節に覆われた十勝の雄大な大地の展望。凛とした空気のなかこの荘厳さを感じられただけでも、ここまで来た甲斐があった。
西洋の城郭のような見た目から、池田ワイン城と呼ばれるこの施設。正式名称は池田町ブドウ・ブドウ酒研究所といい、日本初の自治体経営によるワイナリーなのだそう。
築50年を迎えるコンクリート建築からにじみ出る迫力に圧倒されつつ、階段下の入口から中へ。地下1階にはワインの製造に関する資料や、様々なサイズのワインボトルが展示されています。
館内に漂うぶどうの薫りに鼻をくすぐられつつ、展示で学ぶ池田でのワイン造りの歴史。昭和20年代に地震や凶作に見舞われ、財政再建団体に指定されてしまったという池田町。そこからの脱却を図るため、ぶどうの栽培からワインの醸造へと研究が進められたのだそう。
これまでに何度も飲んだことのある、トカップをはじめとする十勝ワイン。ここに来るまで、そんな歴史から生まれたものだとは全く知らなかった。北海道の厳しい自然との戦いの末に、今では数々のおいしいワインが醸されています。
元来ぶどうの栽培には向かないという池田町。ブドウ・ブドウ酒研究所というだけあり、地下熟成室には研究用として保管された古いワインがたくさん。壁面にずらりと並ぶボトルには、昭和38年から始まったこの地でのワイン造りの歴史が詰まっています。
これまで気軽に飲んでいたワインの重たい歴史に触れ、1階の販売スペースへ。その一画には有料で試飲できるカウンターがあり、池田町の誇る独自品種で造られた赤ワインを飲み比べてみることに。
フランスから渡ってきたぶどうから生まれたという清見。それにもともとこの地に自生する寒さに強い山ぶどうを交配して生まれた清舞と山幸。極寒の地に負けない生命力ある味わいに、お土産として自宅に送ったのは言うまでもありません。
この地ならではの個性豊かなワインを味わい、ワイン城の奥に位置するC倉庫へ。ここではスパークリングワインが製造されているそうで、入口には滓を瓶の口に集めるための貯蔵方法が再現されています。
倉庫内には、ずらりと並んだ巨大なタンクが。この1個で、一体どれほど飲めるんだろう。吞兵衛の僕は、学ぶことよりそんな妄想に耽ってしまう。
さらに隣の建物では、瓶詰から製品完成までのラインの見学も。この日は稼働していませんでしたが、おいしいワインの満たされたボトルが流れてゆく様子も見てみたい。
工場の見学を終え外へと出れば、裏手に広がるぶどう畑。池田町の厳しい寒さや乾燥から木を守るため、一般的な品種のぶどうは土に埋められて冬を越すのだそう。冬に土を盛り、春に取り除く。その莫大な労力を軽減するために交配を繰り返し、今ではここでしか味わえない特別なぶどうが生み出されました。
冷たい雪に埋もれつつ、じっと耐え冬を越すぶどうの木。その先には、どこまでも続く広大な雪原。視界のほぼすべてが白に占められ、それを見つめる自分の中まで空っぽになってゆく。
潔い冷たさを頬に感じつつ、じっと眺める見渡す限りの大平原。広大、壮大、雄大。この一画からの展望だけでも、そのスケール感の大きさが伝わってくる。
今回の旅で、偶然訪れることのできた十勝。初めて来たけれど、なんだかいいところだな。今度は緑豊かな時期にも来てみたい。十勝平野の雄大さとともに、凛とした冬の冷気を胸いっぱいに深く深く吸い込むのでした。
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