犬山城に台湾ラーメン、心を揺さぶる鉄道の歴史。半日間たっぷり満喫した愛知とももうすぐお別れのとき。金城ふ頭駅前から延びる道を北上し、フェリーターミナルを目指します。ちなみにこの橋の手前、ものすごく藪っぽく見えるのですが、徒歩でもきちんと渡れるのでご心配なく。
橋上に立ったときから、遠くに見えていたその雄姿。近付くにつれその巨大さと迫力は増し、見る者を圧倒するような力強さを感じさせます。そう、今回の旅の目的はこれ。去年に引き続き、今年も『太平洋フェリー』の誇る大型フェリーきそで北の大地へと渡ります。
金城ふ頭駅からは距離にして1.5㎞程度、20分ほどの歩きで名古屋フェリー埠頭に到着。意外にも近かったので、大荷物さえ無ければリニア・鉄道館からの乗船もおすすめです。
今年のゴールデンウイークは10連休。事前に騒がれていただけあり、ターミナル内は大混雑。去年の同じ時期とは比べ物になりません。ですが幸い、みんな乗船手続きを終えた後のよう。事前にネット予約と購入、乗船名簿登録まで済ませていた僕は、あっさりと手続きすることができました。
これから旅に出る人々の放つ雑多な高揚感に紛れ、乗船開始時刻を待つひととき。そしていよいよ来た、その瞬間。喜び勇んで長いボーディングブリッジを歩き、1年ぶりの再会となるきそへと乗り込みます。
すると出迎えるこの豪奢な雰囲気。去年僕にパンドラの箱を開けさせた船の優雅さは、二度目となってもその感動は色褪せない。目に飛び込む明るいロビーと、吹き抜けの階段。乗船した瞬間から、非日常への旅は始まるのです。
今年も予約したのはB寝台。2段寝台ですが列車のようなものではなく、カプセルタイプの寝台が上下に積まれたレイアウト。下段は下段同士、上段は上段同士で向き合うという配置です。
そして今回用意されていたのは、窓側の壁に向かった一人区画。部屋の指定はできないので、偶然当たったB寝台の中での一等席に思わず笑みがこぼれてしまいます。これから2泊、僕の城。早速荷物を下ろし、二晩分の準備を整えます。
早朝に名古屋についてから動きっぱなし。早速旅の汗を流すべく、展望大浴場へと向かいます。とその前に、ロビーにある電子式の貴重品ボックスへ財布等を保管。一度登録すれば下船まで使えるので、鍵のかからない部屋を利用する場合は早めに確保するといいかもしれません。
そしてもうひとつ豆知識。寝台列車にはスリッパが用意されていますが、フェリーの場合は下の等級の場合何もありません。デッキや売店、大浴場等、船内では意外と歩くもの。靴では疲れてしまうため、滑らないサンダルを持参すると便利。僕は石垣旅行で履き古した島ぞうりを持っていきました。
また、タオルや歯磨きセット等も下位等級の場合は持参が必要。シャンプーやボディーソープは大浴場に備え付けられているので、自由に使えます。
待ちに待った、1年ぶりの洋上での湯浴み。きその大浴場は日帰り温泉顔負けの風情があり、ジャグジーや寝湯、サウナまで完備。船の揺れに合わせて行ったり来たりするお湯に浸かりつつ海原を眺めれば、非日常の心地よさを味わえること間違いなし。(但し、船酔いしなければ、ですが。)
久々に味わう贅沢に体も心も火照ったところで、大浴場前の自販機コーナーでサッポロクラシックを買い込みデッキへと出てみることに。海風に吹かれながら飲む、湯上りのクラシック。その濃い味わいを喉へと感じつつ見上げる、巨大なファンネル。シンプルながら優美なマークが、これからの船旅への期待を盛り上げます。
それにしても今日は寒い。陸上にいるときはさほど感じませんでしたが、デッキで海風に吹かれているとどんどん体が冷えてゆくのを感じます。去年が半袖でも暑いくらいの気候だったため、デッキでの時間を楽しみにしてきただけにちょっと残念。
寒さと強風に負け、6デッキにあるプロムナードで早めの夕飯をとることに。今回も名駅の地下でちょこちょこ買い込んできました。
瓶のお酒は、知多郡阿久比町の丸一酒造、ほしいずみ純米酒。香り甘味がありつつもすっきりとした味わいは、これまで飲んだ愛知の地酒とはまた違った印象。ワンカップの方は、半田市は中杢酒造の國盛。辛口と大きく書いているだけあり、きりっとガツンとくる力強さが印象的。
そんなお酒に合わせるのは、名古屋ならではの品々。デパ地下で買った串カツには赤味噌がたっぷり塗られ、その甘辛さは絶妙のひと言。しょっぱくないのに、濃い。本当に名古屋は味噌の美味しい土地だなぁ。
手羽先は山ちゃんか風来坊かと最後まで悩みましたが、今回は風来坊を。しっかりと揚げられた手羽に独自のスパイスが馴染み、テイクアウトならではの味わいに変化。出来立てでも、冷めても旨い手羽先。酒が進まないわけがない。
続いては天むすを。去年やはり船上で食べた、生まれて初めての本場の天むす。その旨さに感動してしまい、今年も絶対に買うと決めていました。数あるお店の中から、今回は千寿というお店を選択。5個入りなので食べきれるかなぁと心配になり、去年は見送ったお店です。
包みを開けてみると、丸っこくてかわいい天むすが並んでいます。早速手に取りひと口。うわぁ、旨ぇ・・・。ご飯はしっかりと粒だっていながら硬くはなく、噛めばほろりと心地よくほどけてゆきます。
肝心の天ぷらのえびはしっかりとした食感で、今はやりの無駄にプリプリしたものには出せない米との一体感がたまらない。味付けもシンプルに塩ベースで、だからこそ海老や衣、お米の風味甘味が引き立ちます。
そして何より天むすを天むすたらしめるのが、ご飯と油の相性の良さ。東京で食べていた天むすとは、一体何だったのだろうか。そう思うほど、嫌な油っぽさは感じません。ご飯と海苔が油のコクを華やかに纏い、大袈裟ではなくいくつでも食べられそうなほどの完成された逸品に。
出港前、暮れゆく港湾の灯りをつまみに味わう酒と名古屋めし。そんな甘美な時間に心酔していると、スピーカーからは銅鑼の音が。足元に感じるエンジンの鼓動は一段階強くなり、いよいよ大海原への旅立ちが近付いていることを教えてくれるよう。
今日はこのまま、ここで出港のときを迎えよう。酒と旨いもんに酔う旅立ちも、悪くはない。そう思えるのも、去年に引き続き今年も乗れるから。船旅への高揚感を胸に、プロムナードでひとり幸せな時間を噛みしめるのでした。
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