地下に市場の入る青森駅前の大きなビル、アウガ。駅前の大通りとは反対側から、宿の送迎バスに乗車します。路線バスで向かうと1300円以上掛かるので、これが無料になるのはとてもありがたい。
送迎バスは午前と午後の2便あり、今回は10:15発の便に乗車。この時間のバスに余裕をもって乗れるのも、夜行バスだからこそ。
このバスは従業員さんの送迎も兼ねているようで、青森市内でところどころ停車しつつ八甲田の麓を目指します。
最後の経由地を発ち、バスはいよいよ八甲田の懐へ。11月というのに、あたりはこの通りの雪景色。これから向かうは日本でも有数の豪雪地。白く輝く八甲田山が、冬への憧れを煽るよう。
青森駅から白い車窓を楽しむこと約1時間、ついにこの旅を動機付けた宿である『酸ヶ湯温泉旅館』に到着。バスを降りた瞬間に鼻をくすぐる硫黄の香り。2年半ぶりの再会に、僕の幸せはもう約束されたも同然。
時刻はまだ11時過ぎ。チェックインは15時からのため、それまでは日帰り入浴で過ごすつもりでいました。
早速荷物を預かってもらおうとフロントへ。するとなんと、宿泊者は無料で温泉に入れ、休憩室も使えるとのこと。お宿のご厚意に感謝、感謝です。早めのバスに乗って良かった♪
久々に対面する、青森ヒバの千人風呂。扉を開けた瞬間に広がる、白さに包まれる巨大な空間。酸ヶ湯名物の浴場は、漂う湯けむりによって一層荘厳な雰囲気に。
大きなふたつの浴槽に湛えられる、白いにごり湯。それぞれ源泉が違い、手前が温度は低いながらとてもよく温まる熱湯、そして奥が、若干熱めの四分六分の湯。
浴感も違い、熱湯はとろりと肌を包む柔らかさ、四分六分はすっきり、しゃきっとさせてくれるようなさっぱり感。その時々の気分により、自分の好きな方を選べる幸せ。
2年半ぶりに味わう千人風呂。熱湯へと身を沈めれば、八甲田の大地の恵みが肌を穏やかに包み込む。その柔らかさに抱かれつつ視線を上へとやれば、対岸の人の顔すら見えないほど、湯けむりが覆う幻想的な世界。
そうだよ、これだよ。お湯のみならずこの世界感を味わいたいがためにここまで来た。青森ヒバで造られた柱の一本もない巨大な湯屋は、ここでしか見られない夢を見させてくれる。酸ヶ湯が今も昔も人気の宿である所以が、ここにあります。
千人風呂との久々の対面に、体も心も火照る湯上がり。キンキンの銀色の缶をあおり、体の中からクールダウン。程よくお腹もすいたところで、宿に併設される『鬼面庵』でお昼をとることに。
茹でおきが特徴の津軽のそば。注文して間もなく、酸ヶ湯源泉卵そばが運ばれてきました。まずはおだしをひと口。青森らしい焼き干しだしの、すっきりとした甘味のない味わい。飾り気のない潔さが、ひと口、またひと口と誘います。
そば粉だけで打たれた麺は所謂津軽そばとは違うものですが、特筆すべきはその食感。打って寝かせて茹でておく。それにより唯一無二の、そばとは思えないほろほろとした柔らかさが生まれます。
最初このそばを食べたときは、本当にビックリしたことを覚えています。津軽地方のそばは独特だと話には聞いていましたが、これほどコシという概念を捨て、麺の王道の逆を行くとは。
ですが食べ進むうちに、不思議とクセになるのです。箸で持つだけで切れるようなそばは、口へと入れればほろほろとほぐれてゆく。その感触が心地よく、つゆの穏やかさも相まって食べ終わる頃には気持ちまで温かくなるのです。
上に載せられたわらびは、食感や風味を上手く残した保存食ならではの旨さ。酸ヶ湯の源泉で作られた温泉玉子は濃厚で、ねっとりとした黄味がだしに絡まりたまりません。
美味しい酸ヶ湯そばで身も心も熱々になり、食後のデザートで〆ることに。売店で売っていたごへい餅が目に留まったので、それを買ってみました。
僕の知っている五平餅といえば、半殺しのご飯を小判型に成形し、甘めの味噌を塗ったもの。ですがこちらのごへい餅は見た目からして違います。
ひと口食べてみると、よりお餅に近い食感。ご飯はしっかりと潰され、味も味噌っぽくはなく甘みが強いもの。もちもちとした食感と心地よい甘じょっぱさが後を引きます。
時刻はまだ13時過ぎ。チェックイン前からこんなに酸ヶ湯を味わえるなんて。やはり夜行バスは優れもの。といいつつもほんのりと感じる夜行の疲れを、休憩室でうとうとしつつのんびりと癒すのでした。
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