高速船であっという間の10分ちょっと、竹富島の余韻を胸に石垣港に到着。空は青く澄み、太陽に照らされる具志堅さんはいつも以上に輝いているよう。
ホテルで一旦休憩し、今宵の酒場を探すべくまだ明るい石垣の街へと繰り出します。今日は比較的早い時間だったため、予約はせずお店を見ながらぷらぷら歩きます。
そんな中で目に留まったのが、バスターミナルや港にも程近い『ぶーやー』。豚料理、島料理といった文字に惹かれ、入店してみることに。
まずは地元のハムを使ったというハムカツから。王道とも言える詰まった食感のハムがかりっとした衣に包まれ、派手さはないが郷愁を誘うような間違いのない美味しさ。最初のオリオンをあっさり平らげ、いち早く泡盛に切り替えます。
続いてはまたしても頼んでしまった、かつおのたたきを。あれぇ、結構火が通ってる・・・。僕の好みの加減じゃないなぁ。パッと見そう思いましたが、食べてみれば前言撤回、文句なしの美味しさ。
かつおは下手をすると水っぽかったり身がゆるかったりするので、火を通しすぎると生の部分とのバランスが悪くなりがち。ですがこのかつおはしっかりと身が詰まっており、焼けた部分の食感との違和感は全くありません。それどころかしっかり炙っている分、その香ばしさをより楽しめます。
お次は定番のラフテー。濃すぎず薄すぎず、見た目通りの絶妙な塩梅。しっかりと煮込まれているため、無駄な油は抜け落ち脂身は白身へと変化。甘くてぷるんとした旨さが堪りません。赤身には美味しい煮汁がしっかりと入り込み、凝縮された旨味を味わえます。
さらにやっぱり目を見張るのが、豚の皮の美味しさ。東京のものには皮は付いていませんが、もう角煮には豚皮が必須だと思えてしまうほど。嫌な硬さやゴム感など全くなく、煮込まれた皮はコラーゲンの集合体そのものといった印象。白身以上に旨い部位。それこそが、豚皮。
旨いつまみに、泡盛がどんどんと進みます。その旨い酒を一層進ませるのが、泡盛を入れる独特の形をした徳利、カラカラ。こちらのお店ではシーサーがあしらわれた酒造メーカーのものが使われ、今にも心は南国の空へと舞い上がってしまいそう。
泡盛の酔いとシーサーの優しいまなざしに心が火照ったところで、お気に入りのジーマーミ豆腐でクールダウン。やっぱりこの程度の濃度が丁度いい。みたらしのような甘めのしょう油だれが、ピーナッツの風味によく合います。
カラカラから注がれる泡盛に酔う石垣の夜。そんな宴の〆にと頼んだのは、この旅初のゴーヤーチャンプルー。適度な厚さのゴーヤーにはシャキッとした食感が残り、爽やかな苦みもしっかりと味わえます。
なんで本場のゴーヤーは青臭くないんだろう。苦みもそうですが、あの独特の青臭さが苦手という人も少なからずいるはず。実は僕もそうでした。これはやっぱり調理の仕方なのか、それとも品種や土壌の違いによるものなのか。沖縄に来て初めてゴーヤーの「本当の美味しさ」を知りました。
そのゴーヤーの爽やかな魅力を活かすのが、過不足のない穏やかな味付け。ゴーヤーに玉ねぎ、にんじんといった野菜の旨味と、島豆腐の豆臭さ。そのどれもが淡いものですが、殺さずに活かす心地よい塩梅。自分でもチャレンジしてみますが、どうしても八重山の優しい味は出せません。
八重山ののんびりとした風土があの味を生むのか、それともあの穏やかな味がのんびりとした気質を育むのか。3度目の石垣ですが、何を食べても「過ぎる」ことがないのです。本当に、穏やかで優しい味。自分の料理が最近素材を活かすことから離れてしまっていたことを、強く思い知らされます。
いやぁ、満足満足。ふらりと入ったお店が当たりだった。僕にとって旅の一番の楽しみは、食と酒。そのふたつを、今宵も思い切り満喫できた。そんな充足感に包まれつつ、ホテルに戻り請福をちょっとだけ。窓の外にぼんやりと浮かぶ夜の石垣港を眺めつつ、気付けば深い眠りへと落ちるのでした。
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