旨い肉弁に舌鼓を打ちつつやまびこ号であっという間の30分、仙台駅に到着。何度見ても仙台に来た!と実感させてくれるこの駅舎。久々の対面に、思わず嬉しさがこみ上げます。
これから向かうは、青根温泉。本来なら白石蔵王が最寄り駅となりますが、丁度よいバス便があったので仙台を経由することに。旧さくら野前より、『宮城交通』の遠刈田行き高速バスに乗車します。
バスは高速を下り、村田町を経由して蔵王町へ。町役場を過ぎてからは両側に果樹園や田んぼが広がり、豊かな秋の実りを感じさせる情景が車窓を染めてゆきます。
高速バスに揺られること1時間ちょっとで、終点のアクティブリゾーツ宮城蔵王へ。そこで送迎のタクシーに乗り換え、今宵の宿である『湯元不忘閣』に到着。
木の温もり溢れるロビーでチェックインを済ませ、長い長い道のりを案内され自室へと向かいます。今回宿泊したのは、不忘庵。山の斜面に離れ風の建物が並んでおり、ひとり占めするには申し訳ないほどの余裕のある造りが印象的。
窓の外には竹林が広がり、立ちこめる霧によってその緑を一層艶めかせるかのよう。窓を開ければしっとりとした山の空気が流れ込み、耳へ届く蝉の声がまた心地良い。
早速浴衣気に替え、お風呂へと向かいます。こちらの宿には浴場が点在しており、時間帯によって男女入れ替えのものもあれば貸切で利用するものも。まずはこのとき男湯であった御殿湯へ。
重厚な木の引き戸を開けて中へと入れば、タイル張りの浴槽に滔々と掛け流される清らかな青根の湯。さっぱりとした浴感ながら湯けむりにはほんのりと湯の香が宿り、湯上りにはしばらく汗が引かないほどよく温まります。
かつて伊達政宗公が湯浴みした浴場と同じ場所に位置するという御殿湯で久々の青根の湯を味わい、自室へと戻ります。湯上りの火照りを感じつつ歩く、渋い情緒に包まれる廊下。やっぱり僕は、歴史ある木造の宿が好き。
壁に掲げられるのは、大正時代に制定された浴場取締規則。その字体や仮名遣いから、経てきた時間の長さが伝わるよう。
現在は西別館と不忘庵が客室として使われており、本館や御殿湯のある棟の旧客室は食事会場や湯上りにのんびりできる休憩スペースとして利用されています。連泊して、湯上りにこんなお部屋でのんびりぼんやり。早くもそんないけない妄想が頭をよぎります。
この宿には国の登録有形文化財に指定された建築が7棟もあり、明治時代に建てられたこの本館もそのひとつ。手の込んだ建具や天井、残された調度品。洗面所ひとつとっても、味わい深い。
その本館にあるのが、湯上り処の喫茶去金泉堂。室内には歴史を感じさせる品々が展示され、ここでコーヒーやお茶、さらには無料で地酒まで飲むことができます。
ということで地酒を軽く一杯いただくことに。窓際に腰掛け、湯上りにちびりと味わう宮城の旨い酒。漂う霧に霞む青根御殿を愛でつつ飲めば、その味わいは一層深まるばかり。
古き良き木造建築の佇まいにとっぷりと浸かり、部屋へと戻ることに。まずは西別館の階段を2階へと上り、廊下の奥にある不忘庵の入口へと進みます。
その入口の先に待ち構えるのが、この果てしない階段。ここに写っているのは、不忘閣の下側へと続く部分だけ。僕が泊まっているのは上側の棟のため、この先にも更に階段が続いています。
山の斜面に建っているのでエレベーターはなく、お風呂や食事など滞在中ははこの階段を行き来することに。でもその分、離れのような静かな雰囲気に包まれる不忘庵。翌日しっかりとふくらはぎが筋肉痛になりましたが、この感じ僕は好き。
部屋へと戻り、湯上りの愉しみの続きを味わうことに。広縁に陣取り、ぷしゅっと開ける瓶ビール。久々に味わう瓶の旨さに、思わず喉が鳴ってしまう。
冷たいビールを飲み干し、ごろりと転がるという至極の贅沢。肌に感じる畳の感触、窓から溢れるしっとりとした緑。あぁ、幸せだな。素直にそう思える旅先での時間があるからこそ、いつもの日常を頑張れる。
部屋を包む静寂の中、ぼんやり過ごす湯上りの怠惰。視界を染める豊かな緑に、心の奥深い部分まで解放されゆくのを感じるのでした。
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