12月下旬、またまた僕は丸の内に立っていた。9月に東北、10月に新潟に行ったばかりなのに、こんなに頻繁に旅に出て良いものだろうか。さすがに旅しすぎだろうか。そう思いつつも、行けるときに行っておくべきだとここ数年の経験が言っている。
特殊な勤務サイクルで1ヶ月を繰り返す僕の仕事。連休のあるポストと連休の全くないポストに分かれ、僕の駅員人生の半分以上は後者の方。だからこれまで、年休を取らなければ旅に出ることすら叶わなかった。
でも今は、ありがたいことに休みを取らなくても連休がある。さらに勤務明けから旅立てば、場所によっては連泊もできてしまう。世の中の情勢にも左右されるし、自分の勤務によっても難易度が変わる旅という趣味。だからこそ、やっぱり行きたくなったら行くべきだ。
ということで旅の欲求に突き動かされ、年の瀬も近いというのに決行することにした今回の旅。いつもの東京駅からとき号に乗り込み、一路群馬を目指します。
今日もやっぱり3時半起き。もう空腹は絶好調なので、駅弁屋祭の中でもひときわボリューム感を漂わせるこの駅弁を購入。小淵沢は丸政の調製する、信州名物山賊焼き弁当を早速開けます。
ふたを開けると、思わずうわっと言ってしまいそうなこの迫力。見た目のボリュームもさることながら、山賊焼きならではのにんにくの香りが途端に鼻をくすぐります。
松本で食べた本場のものと同様に、鶏もも一枚をまるっと揚げた立派な山賊焼きをひと口。駅弁だから衣は柔らかくなっているかな?と思いきや、見た目通りサクッとガリっと感の残る食感。
その内側には、にんにくベースのたれに漬け込まれた分厚いもも肉。濃すぎず薄すぎずの塩梅は、ご飯のおかずももちろんですが、これがまたビールにピッタリ。思わず隣の金星をグイっといっちゃいます。
巨大な山賊焼きの半分ほどをビールとともに味わっていると、とき号は荒川を越えて無事東京脱出。何度旅しても、この越境は堪らない。ワクワクというよりも、僕にとってはゾクゾクしてしまう魅惑の瞬間。
温暖化とは言いつつも、やっぱり寒い関東の冬。師走のこの時期、からっ風の吹きすさぶ関東。空気も肌も乾燥し、それにつられて心まで乾ききってしまいそう。緑の気配すらない畑の広がる車窓からも、関東の冬を感じます。
生まれてこの方、僕にとって冬とはからっからの季節。そんな慣れ親しんだ土色の車窓を眺めていると、いつしか遠くには妙義山の独特な山容が。このギザギザを見ると、群馬まで来たと実感が湧く。さらに隣には、白く雪化粧をした美しい浅間山が。高崎から浅間山がこんなにきれいに見えるとは、初めて気づきました。
がっつり山賊焼きを味わいつつ車窓を愛でること1時間ちょっと、あっという間に上毛高原駅に到着。いつもは通過するだけのこの駅、失礼ながら一生に一度も降りることはないだろうと思っていました。
というのも、これから向かうは水上方面。僕にとっては在来線で行く距離感で、大仰にも新幹線を使うような場所ではないと思い込んでいました。が、文明の利器はやっぱり速い。新幹線を使うか否かでは、宿の到着がだいぶ変わるのです。
ということで、今回は奮発して新幹線と路線バスを乗り継いで水上へ。駅前のバス停から、『関越交通』の谷川岳ロープウェイ駅行きバスに乗車します。
高台にある上毛高原駅を出発したバスは、坂を下って利根川沿いへ。あの大河利根川も、ここまで遡るとこの川幅。すぐそばに迫る白い峰との共演に、関東の果てが近いことを感じます。
上越線と利根川の間を縫って走る国道を進むバス。見え隠れする谷川岳の銀嶺の美しさに目を奪われていると、20分ちょっとで水上駅に到着。バスはこの先ロープウェイの駅まで行きますが、乗り換えのためここで下車します。
駅前の酒屋さんで旅の供を仕入れ、『関越交通』の湯の小屋行きバスに乗車。ここから利根川に寄り添って山を登るバス旅が始まります。
湯檜曾の手前で国道から別れ、利根川の源流を目指す県道へ。次第に勾配は険しくなり、最初のダム湖である藤原湖まで来る頃には山肌に白さがちらほらと見られるように。
枯色に覆われた藤原湖が尽きたかと思えば、ふと現れる山里の情景。雪を待つ師走の光景に、何となく郷愁というものを感じてしまう。
さらにバスは登り続け、窓の外はついに白銀の世界に。12月も下旬に入ったばかりのこの日。確かにスキー場が並ぶ奥利根一帯ではありますが、期待していなかっただけに思わぬ雪景色に嬉しさがこみ上げます。
藤原湖、洞元湖とダム湖の脇をすり抜け、ひときわ大きなダムが車窓に迫れば終点はもうすぐ。この奈良俣ダムは、利根川で一番堤体の高いダムなのだそう。
モノクロームの谷を埋める、薄っすら雪化粧を施した巨大なロックフィルダム。その水墨画のような世界観に触れ、これからこの地で過ごす2泊3日への期待は高まるのでした。
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