木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 1日目 ①~ | 旅は未知連れ酔わな酒

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 1日目 ①~

10月上旬八王子駅に入線するE353系特別急行あずさ号松本行き 旅行記

10月上旬、雨上がりの八王子駅。ここから僕は、旅に出る。向かう先は、去年初めて訪れすっかり魅了された木曽路。僕を日常の先へと連れて行ってくれるあずさ号で、一路信州を目指します。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行きスーパードライで旅立ちの祝杯を
この日は日曜日、秋のレジャーシーズンに入ったこともあり車内は満席。新幹線とは雰囲気を異にする、在来線特別急行ならではの行楽色に包まれる車内。そんな色味ある賑わいに誘われ、僕もひとり旅立ちの祝杯を挙げることに。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き高尾を過ぎ車窓は一気に山深く
いつもは新宿から乗車し、慣れ親しんだ日常を通過する光景から始まるあずさの旅。ですが今回は、八王子からの乗車。冷たいドライな刺激をぐいっと味わっていると、列車は高尾を過ぎあっという間に中央「本」線らしい車窓に。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き列車旅のお供に丸政八ヶ岳高原の鶏めし
桂川の刻む谷に沿い、トンネルと橋梁の連続で標高を上げてゆく中央本線。険しい地形を克服すべく、後を見据えて着々と準備を進める。何度味わっても、この山深さに挑む車窓に胸を躍らせずにはいられない。

そんな絶景のお供に欠かせない駅弁。この日はちょうど、八高線の開業90周年。八王子駅ではそれを記念し、さまざまなイベントが。その一環として販売されていた、八高駅弁。小淵沢は丸政が調製する八ヶ岳高原の鶏めしが、この日のための特別な掛け紙で包まれています。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号車窓のお供に丸政八ヶ岳高原の鶏めし中身
蓋を開けると、まさに鶏めし弁当のお手本。そういえば、昔は駅弁ってこういうものか幕の内だった。昭和末期生まれの僕は、この見た目に郷愁を感じずにはいられない。

ほんのり味付けされたご飯の上には、柔らかく旨さを感じる鶏の照り焼きと、甘辛く味付けされた鶏そぼろ。しゃっきり旨いピリ辛のれんこんきんぴらや甘めのにんじんの煮物、食感を残した山菜と、これまたホッとするような定番のお供たち。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号桂川の刻む谷も狭くなりいよいよ甲府盆地の縁越えへ
そういえばお茶もペットボトルや缶ではなく、もみもみ揉んで抽出するポリ容器だったな。売店や車販で熱いお湯を注いでもらい、ふた兼湯呑をフーフーして飲むとほんのりプラ臭い。そんなことも含め、今ではもう味わえない懐かしい大切な想い出。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号は勝沼ぶどう郷を過ぎ車窓には甲府盆地の大展望が
派手さはないが、しみじみ旨い。古き良き列車旅を想起させる駅弁に舌鼓を打っていると、あずさ号はいよいよ長いトンネルへ。連続する地中の闇を抜け勝沼ぶどう郷を通過すれば、車窓にはあまりにも雄大な甲府盆地の大展望が。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号甲府盆地の縁を器用に滑り降り秋の実りのぶどう畑の中を行く
毎度のことながら、この車窓の変遷には胸を打たれるばかり。

来たる山越えに向け、いくつもの橋梁や隧道で着実に標高を稼いでゆく。相手との距離をじりじりと詰め、意を決して盆地の縁を貫く長大トンネルへ。その先に待つのは、壮大な甲府盆地。すり鉢状の縁を大きな円弧を描いて滑りおり、桃やぶどう畑を器用にかわして盆地の底へ。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き車窓に姿を現す白亜の甲府城稲荷櫓
幼いころ、初めて乗った特別急行あずさ号。あの日僕は、オレンジ色の中央線の先に違う世界が待っていることを知った。あれ以来、中央本線での旅は僕にとっては特別なもの。豊かな変化を魅せる車窓に心酔していると、あずさはあっという間に甲府に到着。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き車窓に広がる秋景色実りの黄金色
これまで車窓から見送るだけだった甲府城の稲荷櫓も、1年前の旅ですっかり想い出の宿る地に。だからこそ、旅することをやめられない。沿線に旅の記憶が蓄積されていく悦びを噛みしめていると、いつしか空には青さが広がり田園を染めるは豊かな実りの黄金色。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き再び甲府盆地の縁へと挑み標高を稼ぐ中央本線
旅なかば、信州へと向け疾走を続けるあずさ号。広い甲府盆地の底を抜け、再びその縁目指して山登り。いくつもの曲線を重ねてじりじりと標高を上げ、車窓は再びかなりの高度感に。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号は甲府盆地から諏訪盆地へ
小淵沢に停車したあずさ号は、いよいよ県境を越えて信州入り。信濃境、富士見と山深さを感じさせる道中を下ってゆくと、爽快な秋晴れの広がる諏訪盆地へ。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号車窓にちらりと覗くきらきらと輝く諏訪湖
列車は茅野、上諏訪と停車し諏訪湖沿いへ。快走する車窓にちらりと覗く、陽射しを映し輝く湖水。黄金の湯に染まるあの冬旅が、2年半も前だということが俄かに信じがたい。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号は大きく回り込み諏訪湖を眺めながら諏訪盆地を越えてゆく
車窓を流れる想い出の地に時の流れの速さを噛みしめていると、中央本線は大きく回り込み諏訪湖を見下ろしつつ盆地の縁へ。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号は塩嶺トンネルを抜け松本平へ
岡谷を過ぎ塩嶺トンネルの長大な闇を抜ければ、そこは松本平の南の端。甲府、諏訪、松本と、3つの盆地を越えてきたあずさ号。その度ごとに、車窓の秋は深まってゆく。

10月上旬秋晴れの中央本線塩尻駅
すっかり刈り取られ、稲が干される田んぼ。駆けてきた距離に比例し移ろう季節を感じていると、あずさ号は塩尻に到着。列車はこの先松本まで向かいますが、乗り換えのためここで途中下車。

10月上旬秋晴れの塩尻駅ロータリーのぶどう棚に枝もたわわに実るぶどう
さすがは長野屈指のワインの名産地である塩尻、駅前広場には枝もたわわに実をつけるぶどう棚が。その姿に触発され、米も良いがやっぱりこれもと売店で夜のお供をあれこれ買い込みます。

10月上旬塩尻駅ここから日常の先の非日常へと繋がる中央西線へ
乗り継ぎ時間でお米とぶどうのジュースを仕入れ、いざホームへ。ここから先が、僕にとっての日常の先に繋がる非日常。去年初めて知った、中央西線の世界感。あの旅が忘れられず、再びこうしてここに立っている。

10月上旬秋晴れの塩尻駅に入線するJR東海313系中央西線普通列車木曽福島行き
それまで僕にとっての中央本線とは、この先篠ノ井線を経て松本までの旅だった。その馴染みある中央東線とは違い、人生二度目の旅となる中央西線。さて今回は、一体どんな出逢いが待っているのだろう。新鮮な期待に胸を膨らませつつ、僕の生活圏外へと来たことを実感させる313系に乗車します。

10月上旬秋晴れの塩尻駅を出発しぶどう畑の横をゆくJR東海313系普通列車木曽福島行き
この先はJR東海の管轄。背もたれの高い転換クロスシート、カバーの付いた蛍光灯。中吊り広告も遠い地域のものばかり、そんな早くも非日常を感じる僕を乗せぶどう畑を行く列車。

10月上旬E353系中央本線特別急行あずさ号松本行き再び甲府盆地の縁へと挑み標高を稼ぐ中央本線
ほどなくして、深い山へと分け入る2両編成。奈良井川や旧中山道、国道19号と絡みつつ、狭い谷を分け合うように登ってゆきます。

10月上旬JR東海中央西線313系普通列車木曽福島行きは鳥居トンネルを抜け分水嶺を越え木曽川沿いへ
奈良井を過ぎ、列車は鳥居トンネルの長い闇へ。先ほどまで寄り添っていた奈良井川は、千曲川を経て日本海へと下る川。そしてこの木曽谷に降った雨は、木曽川を下り太平洋へ。

10月上旬JR東海313系普通列車木曽福島行き車窓に煌めく木曽川
分水嶺を越え、この谷を刻んできた木曽川に沿って進む中央西線。ときおり車窓に現れる流れの細さが、まだここが上流部であることを感じさせるよう。

10月上旬JR東海313系普通列車木曽福島行き車窓に広がる木曽谷の秋景色
狭い谷を、辛うじて分け合う人の営みと交通。山裾を洗いつつ流れる木曽川、勾配を計算しつつ山腹を行く鉄路。その間に残された平地を秋の実りが彩り、それらが連続して絡み合う姿にこの地の険しさを感じずにはいられない。

10月上旬JR東海313系普通列車木曽福島行きはまもなく終点に到着
二度目となる、中央東線から西線へと続く旅。明治時代の土木技術を駆使し、山や谷を串刺しにするように地形に挑み越えてゆく中央東線。そこから車窓は一変し、進む道はここしかないという狭い谷を近代、現代の中山道とともに分けて進む中央西線。

やっぱり、同じ路線とは思えない。塩尻を境にしてまったく異なる世界感に、やはり自分の日常と地続きの場所にいるとは信じがたい。いつもの先の、非日常へ。そんな旅の醍醐味に心酔し、改めて列車旅の善さというものを噛みしめるのでした。

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら~
10月上旬あり得ないほどの反応を示す長野信州木曽路釜沼温泉大喜泉効果覿面な冷鉱泉
2024.10 長野
旅行記へ
●1日目(東京⇒釜沼温泉)
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2日目(釜沼温泉滞在)
●3日目(釜沼温泉⇒福島宿⇒奈良井宿⇒塩尻⇒東京)
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