美味しい夕食を終え、部屋へと戻ります。窓の外の高い山々は色を失いつつあり、一軒宿は静かな夜へと包まれてゆきます。
お腹が落ち着いたところで、再びお風呂へ。単純硫黄泉のお湯は、それほど硫黄臭の無い透明なものですが、温まり方はかなりのもの。一度入浴するとポカポカがずっと続きます。
浴感はしっとりと滑らかな、ちょっとだけとろっとした感触。無色透明でさっぱりかと思いきや、お湯の力を感じさせます。
露天風呂の方には、白い湯の花がたくさん見て取れ、硫黄泉であることを実感。このお湯は、以前旧旅館があった梓川沿いの源泉から引いているそう。古から山人達に愛されてきた温泉は、場所が変わってもこうやって楽しまれ続けています。
夕暮れ時、アルプスからの清らかな夜の空気に包まれて入る温泉。お湯の良さもさることながら、そのロケーション自体が、何よりのご馳走。体の芯から、心の底から、溶き解されてゆきます。
すっかり日が暮れ、本とお酒とお湯だけの時間が流れます。今宵のお酒は、松本は善哉酒造の、女鳥羽の泉純米酒。今では松本の市街地に残る唯一の酒蔵だそう。
このお酒の名前にも使われている女鳥羽の泉は、この酒蔵の敷地内に自噴している湧水だそう。実際この後に松本に寄った際に多くの湧水があり、それも飲めるものばかりでビックリしました。
そんな清らかな水から出来ているということが感じられる、すっきりとしつつも甘さや酸味、香りのバランスの良い美味しいお酒。信州の酒も、期待を裏切りません。
そして今夜はもう一つのお供が。僕の好きな長野の七味屋さん、八幡屋礒五郎が作るとうがらしの種。
これがもう美味しくて。大きめの香ばしい柿の種に、香り良く辛味の強い七味が味付けされています。結構な辛さですが、一度食べ始めると止まらない。信州へ行くとついつい買ってしまう、最高の酒の供。
初夏の新緑を渡る夜風と、湯花の浮くしっとりとしたお湯を愉しむ、アルプスでの静かな夜。その清浄さは、肌を通して心まで沁みてゆくのでした。
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