木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 2日目~ | 旅は未知連れ酔わな酒

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 2日目~

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉で迎えるすっきりとした目覚めの朝 旅の宿

木曽路で迎える静かな朝。いつもの時間に目覚め、そのまま布団で揺蕩う寝起きの余韻。あれ、なんだかよく眠れた気がする。深い眠りや長い眠りとも違う、ふっと落ちてすっと目覚めたというすっきり感。こんな素直な寝起きを味わうのは、一体いつぐらいぶりだろう。

去年訪れた棧温泉や下部温泉と同じく、もしかしたらここのお湯は僕の体にてきめんに効くのかもしれない。早くも感じはじめた体調の変化に驚きつつ、静かな湯屋で力ある冷泉とじっくり向き合います。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目朝食
朝からゆったりと温冷交互浴を愉しみ、部屋に戻りのんびりごろごろ。いつもなら少しばかりの眠気が戻るところ、今日はその気配もない。湯上りの身体を巡る爽快感に感嘆していると、8時を迎え朝食の時間に。

食卓につきご飯とお味噌汁の準備をしていると、焼きたてのアマゴの一夜干しが運ばれ朝餉の始まり。

まずはサラダから。ドレッシングは、地元木曽福島のお味噌屋さんのものだそう。味噌のコクと旨味が広がり、それでいてしつこくない。生野菜をわしわし食べたくなる味わいに、思わず一気に平らげてしまいます。

続いては、熱いうちにとアマゴの一夜干しを。昆布じめにしてひと晩置いたというアマゴは、適度に水分が抜けほわほわの食感に。ふっくらとした身にはじんわりと沁み入るような滋味が宿り、本当に上品な旨さをもつ魚だと改めて感動。

開田高原産の太いきゅうりの浅漬けは、みずみずしく味わいも濃い。奥の小鉢はおおびらという郷土料理で、刻んだ根菜や鶏肉、ちくわなどの具沢山な煮物。薄味のだしに具材の風味が染み出し、素朴でほっと落ち着く優しい味わい。

左の小鉢は、麹納豆。にんじんや昆布、ごまとともに納豆と麹が漬け込まれ、大粒の納豆はよりふっくらとした食感に。発酵食品同士が合わされば旨味の爆発が起きない訳がなく、もうこれだけでご飯がいくらでも食べられてしまう。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目朝食温泉水で作っただし巻き玉子
これまた焼き立て熱々を運ばれてきたのは、温泉水で作ったというだし巻き玉子。ふるふると揺れる箸触りに期待しつつ頬張れば、ふわっと広がる上品な味わい。本当に、飲泉したときに感じた鉄と土はどこへ行ったのやら。これはポリタンクで買って帰るのも頷ける。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目朝食食後に安曇野産ヨーグルトとりんごジャム、コーヒー
食後には、安曇野産のヨーグルトとコーヒーが。りんごジャムの優しい甘味とヨーグルトのまろやかな酸味を、ゆったり流す濃い苦み。朝からそんな贅沢な時間を過ごし、大満足で朝食を終えます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉午前中の静かな湯屋でのんびり湯浴み
おいしい品々に白いご飯も進んでしまい、案の定満腹に。敷きっぱなしの布団でごろりとお腹を落ち着け、午前最後の湯浴みへと向かいます。

加温の浴槽でさっと体を温め、じんわりと緩んだところで冷たい源泉槽へ。ゆっくりと体を沈めて肩まで浸かり、冷たさを噛みしめること30秒。ほら、やっぱり来た。皮膚が何かしらの境を成し、自身の熱の循環により冷たくなくなる不思議な瞬間。

棧温泉や亀山温泉は、体の内側へと涼風が吹き込むような感覚があった。でもこの釜沼温泉は、それとはまったく異なる浴感。入れば入るほど、不思議に思えてくる。

すごいなぁ、すごいお湯だなぁ。そう首をひねりつつお湯と向き合い、再び冷たさが勝ってきたところで温かい浴槽へ。その刹那、体中を駆けめぐる心地よさ。収縮していた血管が拡張し、一気に解放されてゆく。この解けるような体感は、一度味わってしまうと忘れられない。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉昼食代わりに丸正醸造の味噌ドーナツ
午前中の入浴は9時半で終了するため、湯上りは何をするでもなく布団の上でのんべんだらり。日頃の睡眠負債を解消してやろうと企んでいましたが、そんな負債ありましたっけ?というほど眠気や疲労感はなかったことに。

こうして温泉が好きで旅していると、稀に自分に明らかな反応を起こすお湯と出逢うことがある。この大喜泉も、まさにそう。連泊にして正解だったとひとり頷き、渓流の音の満ちる部屋で静かに過ごします。

そんな連泊の怠惰という甘美に揺蕩っていると、もうお昼どき。宿の方から送迎など確認のお電話をいただいた際、昼食がないということだったので木曽福島の駅前でお菓子を買っておきました。

二年味噌と地元産の卵にこだわり、小麦粉に玄米の全粒粉を混ぜて作ったという丸正醸造の味噌ドーナツ。ほろりしっとりとした食感と、甘すぎずでも食べごたえのある満足感。味噌はそれほど主張せず、ほのかな塩分と旨味が油菓子をより深みのある味わいに。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉湯上りに昼食代わりのいけない昼ビールTHE軽井沢ビールクリア
午後の入浴再開は13時。おいしいドーナツでエネルギーを補給し、ふたたびお湯三昧の贅沢な時間に突入。温冷交互浴をこころゆくまで堪能し、満を持して開ける昼ビール。飲みやすさのなかにも華やかさを感じる軽井沢の味が、川辺を渡ってきた風とともに体の中へとすっと落ちてゆく。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉電気も点けずぼんやりと過ごす谷底の一軒宿での夕暮れ時
なんとも、贅沢すぎやしないか。いや、いつも、どの旅でもこころを潤す贅沢を感じることができている。でも今日は、なんだかそれが一層素直に腑に落ちる。きっとそれは、力に満ちたお湯が心身に積もり積もった澱みをきれいさっぱりリセットしてくれたからに違いない。

愉しい時間とは、恐ろしいほどにあっという間に過ぎゆくもの。電気も点けず谷底の一軒宿での夕暮れに身を委ねていると、いつしか翳りが部屋を支配しはじめ夜の入口を感じさせるように。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食前菜
暮れゆく仄暗い湯屋で冷泉と対峙し、心地よい空腹感も訪れ準備万端。待ちわびていた18時半を迎え、足取り軽く夕食会場へと向かいます。

今宵も並ぶ、おいしそうな前菜たち。つるむらさきは、今夜はお浸しで。しゃっきりとした歯触りとつるりとしたぬめりを、鰹としょう油の旨味が引き立てます。

木曽産ゴーヤの梅肉和えは、ゴーヤの苦みと梅肉の爽やかな酸味の見事な調和。組み合わせの妙に唸りつつ、注文した中乗りさんをクイっといきます。

おそらく今回初めて食する、隼人瓜。どんな感じかと食べてみれば、瓜とは思えぬクセのないしゃきしゃき感。ごまクルミ和えにされているためコクや香ばしさが愉しく、まだまだ知らない食材ばかりだと改めて思い知らされます。

地元木曽福島の有名店だという田中屋のお豆腐は、ピリ辛の野沢菜が載せられた冷奴で。しっかりと豆を感じる旨味の濃さと、舌へととろけるクリーミーさが堪らない。

そして驚いたのが、木曽産鹿のロースト。厚めに切られた赤い肉をひと口。柔らかくしっとりとした身はクセがなく、肉汁とともに広がるしみじみとした赤身の旨さ。合わせられた甘味噌がコクや旨味を添え、淡白な鹿をより深い味わいに。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食ジャンボシメジの焼き物
おいしいものをちょっとずつつまみ中乗りさんを味わっていると、熱々のジャンボシメジの焼き物が運ばれてきます。

生の状態を見せてもらいましたが、その大きさはかなりのもの。期待しつつ湯気のあがる焼きたてを頬張れば、口中に迸る香りたつきのこのエキス。うわぁ、すごっ。思わずそう声が漏れてしまうほど、豊かにあふれる香りと旨味。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食木曽産老茸入りのお吸い物
続いては、温泉水で作ったお吸い物。今夜の椀種は、木曽産の老茸というきのこ。沁みる味わいのおだしを味わい、初めての老茸を。

ぶりっとした食感ののち、ぶわっと広がる独特な苦味。なんだろう、これまで口にしたことのない苦さ。それは決して嫌なものではなく、厚みある旨味を湛えたおだしにまたぴったり合う。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食信州豚と信州茸の甘味噌焼き
普通に東京で暮らしていれば、きっと出逢うことのなかったであろう新たな味覚。旅することで広がる味の記憶に悦びを嚙みしめていると、信州豚と信州茸の甘味噌焼きが食べごろに。

厚めに切られた信州豚は柔らかく、肉汁とともに広がる白身の甘さと味噌だれの共演が堪らない。豚の脂の染み出た味噌をきのこに絡めれば、中乗りさんを傾ける速度が自ずと上がってしまう。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食地アマゴの塩焼き
昨日はお造り、今朝は一夜干しと味わった地アマゴは、今宵は塩焼きで。強火で手早く仕上げるという塩焼きは、ものすごくふっくらジューシー。ほくほくとした身を頬張れば、豊かな肉汁とともに上品な脂と滋味が溢れます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食さつまいも饅頭
アマゴの三変化に驚いていると、続いて熱々のさつまいも饅頭が。余計なものは加えない、お芋そのものの味わいを感じられる素朴な饅頭。そこに上品なだし餡がかけられ、とろりほっくりと口の中に秋が咲いてゆく。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食季節の天ぷら五種
地のものを活かした多彩なお皿に心酔し、ちびり噛みしめ味わう地酒。そんな至福に揺蕩っていると、揚げたての季節の天ぷら五種が運ばれてきます。

瑞々しさを残したモロッコいんげんやししとう、ほっくり旨いれんこんにパリッと風味を封じ込めた山茶茸。そして印象的だったのが、梅干しの天ぷら。カリッとサクッとの薄衣から、とろりと溢れる熱々の梅肉。加熱されることにより濃度を増し、油のコクと酸味がこれまた好相性。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食とろろ信州そば
2合あったはずの中乗りさんに名残惜しくも別れを告げ、喉にほどよい火照りを感じたところで冷たいとろろ信州そばが。黒い太めのそばはつるつるとこしがあり、とろろの山の滋養とともに啜れば言うことなし。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食香茸と人参のまぜご飯
いやぁ、今宵も本当に旨いものばかり。ここまででも結構な満腹ですが、「今あるだけですよ」の声に誘われ香茸と人参のまぜご飯を。

希少価値の高いという香茸、これも初めてのご対面。一体どんな味なのだろう。そうわくわくしつつ頬張れば、なんとも形容しがたい芳しさ。これまで出逢ったきのことはまた違う独特の芳香に、これまた未知との遭遇を歓んでしまう。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食甘くてもちもちの白いご飯とみょうがの紫蘇漬け
我ながら食べすぎとは思いつつ、冷泉効果でまだお腹に余裕があったため白いご飯もいただくことに。合わせるのは、みょうがの紫蘇漬け。みょうがの香りに華を添える酸味と紫蘇の香が、もっちり甘いご飯を進めてくれます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目夕食デザートに大村屋の栗子餅
久々に感じる健やかな空腹感につい嬉しくなってしまい、結局食べすぎ満腹に。そんな豊かな宴を〆るのは、地元木曽福島の和菓子屋さん、大村屋の栗子餅。

木曽地方の名物だという栗子餅。この旅で何度目かという初対面に期待しつつフォークを入れると、しっかりと感じるもっちり感。ひと口頬張れば、ふわっと広がる栗本来の風味。素材の味わいを活かした栗餡が弾力あるお餅を包み、この季節に来てよかったと素朴な感慨がこころに灯る。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉に残る古いホーロー看板
ものすごい力を持った冷泉が湧き、部屋に居ながらにして渓流の気配に抱かれ。そして何より、これほど食べる愉しさを実感させてくれるなんて。またひとつ、危ない宿を見つけてしまった。そんな満足感に包まれつつ、部屋へと戻ります。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夜のお供に七笑辛口純米酒
木曽路で過ごす最後の夜。じっくりと噛みしめたい静かな時間のお供に開けるのは、福島宿の七笑酒造が醸す七笑辛口純米酒。しっかりとお米を感じる飲みごたえがあり、それでいてすっと落ちてゆくおいしいお酒。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夜のお供にアルプスワイン信州ワイン白
続いては、駅前のぶどう棚に触発されて購入した塩尻のアルプスワイン。まずは信州ワインの白から。ぶどうのフレッシュな香りと酸味を感じ、さらりとしながら果実味ある味わいを楽しめます。

10月上旬あり得ないほどの反応を示す長野信州木曽路釜沼温泉大喜泉効果覿面な冷鉱泉
お腹も落ち着いたところで、誰もいないひっそりとした湯屋へ。

冷泉に肩まで沈み、眼を閉じ響く川音に耳を傾ける。熱い湯で上がった心拍数は落ち着き、自分の内外に対峙する熱と冷たさに感覚を集中させる。そして冷たさが勝ったときが、お湯への戻りどき。全身を駆けめぐる血流の開放感、それと同時に心身が解きほぐれる愉悦の体験。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉21時過ぎにロビーに用意される夜食のおにぎりとお味噌汁
このお湯には、消化酵素でも含まれているのではなかろうか。そう思えるほど、健全に腹が減る。満腹だったお腹も落ち着いた風呂上り、ロビーには嬉しい夜食のサービスが。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夜のお供にアルプスワイン信州ワイン赤
白を片手に枝豆と塩昆布のおにぎりを頬張り、今度は信州ワインの赤を開けることに。酸味と甘みを感じる味わいに、木曽路での夜が深まってゆく。

湯疲れ食べ疲れ飲み疲れ、そして日頃の溜まったものが解き放たれて眠くなる。いつもの連泊旅はそうなりがちですが、不思議と今日は驚くほどすっきり元気。

温泉って、本当に不思議なもんだ。慢性的な寝不足や疲れ、そんなものそもそもありましたっけ?そうケロッとした表情で言い放ちそうな、何もかもをなかったことにしてくれる力を持つ釜沼の冷泉。きっと今の僕の状態にドンピシャだったのだろう。自分の身に起こる変化を、どこか他人事のように不思議に見つめるのでした。

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木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら~
10月上旬あり得ないほどの反応を示す長野信州木曽路釜沼温泉大喜泉効果覿面な冷鉱泉
2024.10 長野
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