窓から差し込むやわらかな陽射しに目覚める朝。今日は一日曇りの予報。空模様を見ようとベランダに出てみれば、むわっと体を包む湿気。2日目からカラッと夏全開が続いていたため、この感覚を味わうのは久しぶり。
そして今朝も、お待ちかねの朝食を。おいしそうなおかずを目にすると一瞬心が揺らいでしまいますが、昨日から食べようと決めていたカレーメインでいくことに。
毎朝提供されている、ココナッツカレー。これがまた本当に旨くて。パプリカや玉ねぎなどたっぷりの野菜とともに、しっかりと煮込まれたチキン。ココナッツの心地よい香りと甘味の後に、しっかりと追いかけてくるスパイシーさ。食べ進めてゆくと汗が滲む辛さはありますが、ご飯にたっぷり掛けたくなる本格的なおいしさ。
〆に自家製のプリンとフルーツを食べ、結局今朝も大満腹。大満足で部屋へと戻り、今日の作戦会議。この天気でコンドイビーチに行ってもなぁ。それじゃ炎天下で歩くにはちょっと辛い小浜島に、散歩にでも出かけよう。
こんな風に、思いつきでその日の行動を決められるのも市街地泊の嬉しいところ。『八重山観光フェリー』のちゅらさん2に揺られていると、遠くには幻の島として有名な浜島がうっすらとその姿を現しています。
幻の島や嘉弥真島の島影を見送り石垣島から駆けること30分足らず、船は小浜港へ。2年ぶり2回目となる上陸を控え、接岸の時が今か今かと待たれます。
エアコンの効いた船外から桟橋へと出てみると、曇ってはいてもやっぱり暑い。肌にまとわりつく湿気を感じつつ歩きはじめると、港の近くではすごい体勢でお食事中の第1ヤギを発見。
体力のある序盤のうちにあの展望台へと行っておこうと、県道から外れ島を横断する直線の道へ。ひたすら続く登り坂をじわりじわりと登ってゆくと、あっという間に噴き出す汗。さんぴん茶で水分補給しつつある程度のところまで進み振り返えれば、海の先には平べったく横たわる竹富の島影が。
長い長いまっすぐな坂道を登りきると、目の前に姿を現すこんもりとした山。あれがこれから挑む小浜島最高峰、標高99mの大岳。展望台への道のりも、結構アレなんだよな。
トイレや自販機のあるちゅらさん広場に到着し、いよいよ大岳の登山開始。距離はそう長くもないが、後半角度がきつくなるんだよなぁ。暑さと前回の記憶に気力を削られぬよう、続く階段を一歩一歩踏んでゆきます。
歩きはじめて5分足らず、大岳頂上に位置する展望台に到着。こうして時間を書くと短いようですが、体感としてはその倍ほど。そしてまず出迎えてくれるのは、涼しい風。ご褒美の清涼に吹かれつつ、嘉弥真島や石垣島の雄大な眺望を胸いっぱいに吸い込みます。
視座を東側に移せば、小浜港や辛うじて海に顔を出す平たい竹富島、さらに先には石垣港の街並みも。
反対側を向けば、すぐ近くに迫る西表島と寄り添うように浮く由布島。こうしてぐるりと眺めると、石西礁湖に浮かぶ島々の密度の濃さが手に取るように伝わってくる。
おととしのあの鮮烈なあおさはなかったけれど、やっぱり大岳からの眺望はすばらしい。頂上に吹く風に汗を落ち着かせたところで下山し、集落方面へと歩いてゆくことに。豊かな緑のなか、ゆっくりと草を食む馬。小浜島には、牧歌的なゆったりとした時間が流れている。
赤瓦やコンクリートの家が並ぶ集落を抜け、朝ドラのロケ地として知られるシュガーロードへ。その入口には、低い石垣に守られた石が。この節さだめ石には方角を示す12の穴が開けられており、そこに竿を立て星との角度を照合して作付けなどの時期(節)を決めていたそう。
以前は道の両側にさとうきび畑が広がっていたことから名付けられたという、シュガーロード。現在は半分以上が牧草地になっていますが、島の起伏に合わせ一直線にのびる光景は雄大そのもの。
まっすぐな道を、風に吹かれて歩く気持ちよさ。右手を見れば、さとうきび畑の先に広がる海とうっすらと横たわる黒島。
左を向けば、石垣や竹富の浮かぶ海を借景にした牧場。島とは思えぬ雄大さに、自分がいまどこにいるのかわからなくなってくる。
牛の休む牧場の横には、繋がれている飼いヤギが。石垣島でも見ないことはないが、さらにその先の離島へと渡ると本当によくヤギがいる。
右手に小浜島の牧歌的な情景を愛でつつ、シュガーロードを外れて県道へ。ここは初めて歩く道。海を見据えカーブを描く下り坂、歩くごとに変化する情景がまた趣深い。
その脇にも、のんびり牛が草を食む放牧場が。おととし、初めて訪れた小浜島。このゆったりとした長閑さに、直感的にこの島が好きだと感じたことが思い出される。
牧歌的な情景に包まれた道を下りきり、まだ時間があるからとトゥマールビーチへと寄ることに。なかなか入口が見えてきませんが、焼肉屋さんの横を入っていくのが分かりやすいルート。
木々の切れ目を抜ければ、そこに広がるのはあまりにも穏やかな世界。静かに寄せては返す波の音、この天気だからこそのパステルの海。
左手を見れば、すぐ近くに小浜港が。港から道路を歩いてここまで約10分。アクセス抜群ですが、そうとは思えぬ静けさに包まれています。
ほんのり赤みがかった砂と、海のあおさの対比が美しいトゥマールビーチ。この時期訪れる人も少ないのか、足跡すらないきれいな砂浜。波打ち際へと近づけば、これまで経験したことのないようなふわふわとした感触が足の裏を包んでゆく。
聞こえるのは、砂を洗う波と風の音だけ。そんな静の世界に抱かれ味わう、オリオンビール。本当に、八重山のあおさは無限大だ。前回の眼を灼くほどの鮮烈さとは好対照、今日のやさしさもまた胸へと沁みる。
曇天とはいえ、確実に肌を焦がしてゆく八重山の陽射し。外にいられるからこそ、逆に危ない。腕に熱を帯びてきたため、そろそろ港へと戻ることに。行きに見かけたアクロバティックご飯ヤギにまたねと声をかけ、この島への再訪の願いを託します。
文明の利器って、やっぱりありがたい。冷房の効いたターミナルで、さんぴん茶をぐいっとあおりクールダウン。この天気でこれだもんな。ピーカンだったら、きっと歩いていられなかった。
汗も引き落ち着いたところでお昼を食べることに。石垣港離島ターミナルで買った、デイゴ&ハナミズキというお店のミニ弁当をいただきます。
「八重山の味をギュっと詰め込みました。」のシールのとおり、他のものと比べ具沢山なジューシー。だしや具材の旨味がしっかり詰まった、凝縮感のある味わい。優しい表情のジューシーもいいけれど、このあじくーたーも病みつきになりそう。
また新たな表情を魅せてくれた小浜島とも、そろそろお別れの時間。帰りも『八重山観光フェリー』で石垣島へと戻ります。
桟橋を離れ、港外へとゆっくり加速をはじめるにぃぬふぁぶし。今回はやさしいあおさをありがとう。またの再訪を胸に誓い、遠くなりゆく小浜島に別れを告げます。
ホテルに戻ってシャワーを浴び、ベッドでごろごろ。日焼け疲れに誘われ微睡んでいると、あっという間にもう夕方。晴れ間の戻った、幻想的な夕刻の空。その奥行きある色味に圧倒されつつ、国道を真栄里方面へと歩きます。
港から歩くこと10分ちょっと、今宵の宴の場である『どてっぺん』に到着。ユーグレナモール近くのてっぺんには入ったことがありますが、こちらのお店にお邪魔するのは初めて。
まずは冷たいオリオンで喉を潤し、島豆腐の冷やっこを。この旅初となる冷やっこ。凝縮感のある弾力、その質感のとおりの濃い豆の旨味。本当に、島豆腐は旨いよなぁ。
続いて注文したのは、島魚の天ぷら。この日はシイラが使われていました。ほっくりとした食感の天ぷらは、天つゆもいいがおすすめはピパーチ塩。淡白な白身にふわっと島胡椒が香り、より一層泡盛に合うように。
お刺身はホテルの朝食でも食べられるため、ちょっと変わったカツオのねぎまみれを頼むことに。その名の通り、かつおのたたきを覆い隠すほどの青ねぎ。さっぱりとしたぽん酢にマヨと揚げにんにくのコクが加わり、これはまたいいつまみ。
相方さんが好きな厚焼き玉子も追加。ふんわり薄味の優しい玉子は、そのままでもしょう油を垂らしたおろしを載せても。そして意外にも、マヨポンがなじんだねぎまみれだれが好相性。
うまいつまみとともに、請福の古酒をちびりちびり。そして最後は、おつまみに、そしてご飯代わりにとソーメンチャンプルーで〆ることに。にんじんやもやしのシャキシャキ感、油のコクと旨味の絡んだ素麺の味わい深さ。おだやかな味付けがひと口、またひと口と誘い、この味は自分では出せないんだよなぁと改めて実感。
おいしいお料理と古酒を味わい、大満足でお店を後にすることに。時刻はもう19時半。しつこいようだが、この明るさよ。
あっという間に、この旅ももう折り返し地点。今夜で5泊目か。今回の滞在はゆるりとした時間が流れてゆき、そのことが嘘のように思えてしまう。本当に、暮らしているみたいだな。幻想的な色に染まる夕刻の空に、いつかはと願う儚い夢は一層深まってゆくのでした。
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