街並みに、蔵や歴史を感じさせる建物が溶け込む須坂。進むごとに新たな表情を見せてくれるのが楽しく、もう少し先へ、またその先へとあてもなく歩みを進めます。
すると突然姿を現した、古い洋館。雲ひとつない秋晴れの下佇む薄緑色の可憐な姿に、思わず吸い寄せられるように近づいてゆきます。
大正時代に建てられたというこの建物は、上高井郡の役所として使われていたものだそう。どっしりとした瓦屋根と洒落た板壁の対比は、和洋折衷という言葉を体現するかのような美しさ。
さらに歩みを進めてゆくと、開けた境内に大きな木々の立つ神社が。江戸時代にはここに須坂藩の居館があったようで、今は奥田神社として旧藩主が祀られています。
勇壮な狛犬に守られ、静かに佇む本殿。瓦葺の大屋根には鯱が戴かれ、ここがかつての城跡であったことを伝えるかのよう。
その横には、これまた歴史を感じさせる建物が。この時の鐘は、藩政時代に建てられたものだそう。200年以上もの長きに渡り信州の風雪に耐えてきたという証が、木の渋い色味として刻まれています。
空には西日の気配も強くなり、そろそろ駅を目指さなければならない時間に。その道中、連なる白壁が目を引く立派な蔵が。ここは渓流を造る遠藤酒造場。飲んだことのある酒蔵との偶然の出会いに、その酒の故郷に来たというちょっとした嬉しさを感じます。
夕方の気配が近づく中、のんびり歩く須坂の街。道端には見たことのないデザインの標識が。いい具合に浮いた錆と共に、これが古いものだと物語るよう。忘れられたかのように残される旧標識も、街を彩るひとつのスパイス。
西日を受け、陰影を濃くする立派な土蔵。秋空と、白壁を照らす秋の陽ざし。夕刻前のこの時間帯、この季節でしか味わえない独特な郷愁に満ちています。
下調べもせず、いつも通過するだけだからと降りてみた須坂。そこにこんな歩いて楽しい街があったなんて。
点在する立派な蔵もさることながら、様々な年代の建物が違和感なく共存する姿に、きっと僕はこんな街並みが好きなんだろうと気づかされる。踊るような鯛の鏝絵に、訪れ体感するという旅の醍醐味を今一度強く実感するのでした。
コメント