6月下旬、毎年僕は空へ翔ぶ。今年もこうして、八重山へと帰る日がやって来た。そのことが、ただただ嬉しくて。誇らしげに掲げられた優美な鶴丸を眺めるだけで、胸の深い部分が熱くなる。
飛びたつ前の恒例の儀式、展望デッキで眺める幾多もの飛行機。いつもなら陰鬱に映る激しい雨も、これから出逢うであろう鮮烈な日々への粋な幕開けとすら思えてくるのだから不思議なもの。
リムジンバスの車内でアプリをチェックした際は、12番のゲートから搭乗予定。ですが空港について再確認すると、搭乗口が88番に変更とのこと。これってもしや?と期待に胸を躍らせていると、やはりたどり着いたのはバスラウンジ。
そういえば、今の羽田空港になってからランプバスで搭乗するのは初めて。公道を走るものとは寸法に微妙な違和感を覚える平べったいバスに揺られていると、ついに僕らを南国へと連れてゆくうちなーの翼のもとへ。
雨に濡れぬようぴったりと横付けされたタラップから搭乗し、浮足立った気持ちで広い構内を右往左往。複雑な羽田空港の最果てまでたどり着いたうちなーの翼は、エンジン音を高鳴らせ軽やかに滑走し大空へ。
ここ最近、乗る機会が多いB737。小型機ならではの身軽さで雨雲をぐいぐいと突き破り、あっという間にその姿を眼下に収めるまでに。もくもくとした分厚い白さは、まさに自然の生み出す造形美。
相変わらず雲はあるはずの本州を覆っていますが、機窓からはきらきらと差し込む太陽のまばゆさが。そんな午後、大空を飛翔中に味わうおいしいスープ。やっぱりJALのビーフコンソメは、旨いよなぁ。
今回は勤務明けでの出発だったため、時間の都合上直行便での移動。そういえば、石垣までノンストップで飛ぶのは一番最初に訪れたとき以来。3時間オーバーの空の旅に身を委ねていると、いつしか陰鬱な雲の波は途切れ太平洋の青さが垣間見えるように。
これから向かう石垣島は、東京から遥か西へと2000キロ。傾く太陽を追いかけるように、ひたすら大空を飛ぶ小さな飛行機。西日の眩しさ、それを映し黄金に煌めく海の顔。機窓を染める幻想的な光景は、高度1万メートルでしか出逢えぬ特別なもの。
8年前はあれほど長く感じられた3時間も、もうすっかりあっという間と思えるように。小型機に漂うまったりと落ち着いた空気感に揺蕩っていると、ついにベルトサインが点灯し程なくして愛する石垣島の姿が。
最北端の平久保崎を過ぎ、石垣島に沿うようにして高度を下げてゆくB737。西日を背負い海に浮かぶ黒々とした島影は、天へと昇る龍の如き荘厳さすら感じさせる。
ある一点を見据え、ためらうことなく降下を続けるうちなーの翼。夕刻の陽射しに照らされた海のあまりの輝きと、1年ぶりの再会という事実が胸の深い部分を焦がしゆく。
また今年も、こうして無事に帰ってくることができた。抱えきれぬほどの感慨が溢れる僕を乗せ、ついに飛行機は着陸を決意。ちりめんのように煌めく海が小さくなり、反対にぐんぐんと存在感を増す緑の力強さ。
轟音とともに足に背に感じる衝動が、愛する地へと繋がったことを知らせてくれる。
35歳のあの夏がなければ、今頃僕は一体どんなことを想いどんな風に暮らしていただろう。ベタだけれど、あっさりと人生観を変えてしまった八重山。その地で過ごす年に一度の全力の夏を目前に、ベルトサインが消えるのを今か今かと待ちわびるのでした。
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