窓から差し込む朝日とともに、新幹線の疾走する音で目覚める朝。鉄ちゃん的贅沢を噛みしめつつ外を見てみれば、今朝も広がる秋晴れの空。
大浴場でひとっ風呂浴び、コーヒーを持ち帰り部屋でのんびり一服。良き時間になったところでチェックアウトし、浜松駅前に建つ『遠鉄百貨店』へと向かいます。
9時過ぎに並び、迎えた10時の開店。なんで朝からデパートの開店待ちをしているのか。それは、いつかはと願い続けてきたあのお店に行くため。無事に整理券を入手し、遠くにかすむ富士山を眺めながらそのときを待ちます。
その想い焦がれたというお店が、言わずと知れた静岡県のご当地チェーン『さわやか』。もうだいぶ前にケンミンSHOWで見て以来、ずっとずっと来てみたかったのです。ですがロードサイド店が多いため、免許を持たぬ僕にとってはなかなか厳しい。そんなこんなしているうちにブームが過熱してしまい、ひどいときには5時間待ちなんて惨状になることも。
45分ほど並んだ甲斐もあり、祝日ながら一巡目で無事入店。期待に胸膨らませつつ待っていると、ちらほらと運ばれはじめる先客の注文したハンバーグ。近くを通過するたび、尾を引くように漂う肉の焼ける香り。本当に、こんなんもう待ちきれないよ!
おこちゃまのように首を長くする僕のもとへ、ついにじゅうじゅうと焼ける鉄板が運ばれてきます。今回注文したのは、看板商品だというげんこつハンバーグ。250gある俵型のハンバーグを店員さんが卓上で半分に割り、熱々の鉄板にぎゅ~っと押しつけて最後の仕上げをしてくれます。
ソースはかけますか?と聞いてくれましたが、あまりの肉々しさに素を味わってみたく後から自分でかけることに。卓上の塩コショーを振り、待望のひと口。うわぁ、こりゃぁ肉だよ、肉。本当に、ちょっとこれにはびっくり。
あれだけ押しつけていたので肉汁がすっかり逃げてしまっているのではと思いましたが、意外とそうでもない。でもいわゆるふっくらジューシーなものとは一線を画す、赤身の牛肉をぎゅっと凝縮したかのような明らかな肉感。
もうこれは、ハンバーグの形態をしたステーキだわ。牛100%を謳うだけあり、塩コショーだけでも十分旨いこのハンバーグ。そのままシンプルに食べ進めたい衝動を何とか抑え、続いてオニオンソースをかけてひと口。
しょう油をベースに、玉ねぎの甘味や旨味が込められたソース。これが赤身肉に合わない訳がなく、こうなるともう白いご飯が止まらなくなる。
そしてまた愉しいのが、食べ進めるうちに変化する味わい。食べ始めは赤い部分が残り、炭火で焼けた部分の香ばしさとレアな部分の柔らかさの絶妙な対比を味わえる。そして鉄板の余熱で火が通ってゆくと、牛の質感や風味がよりぎゅっと凝縮。
本当に、旨いよこりゃ。そりゃ並ぶはずだよ。こんなの知ってしまうと、もう二度と忘れられなくなってしまう。なかなか簡単には食べに来ることができないため、減りゆくお肉を寂しく見つめつつ最後のひと口まで心して味わいます。
ハンバーグだと思って挑んだ自分が馬鹿だった。下手な焼肉やステーキより、はるかに手ごたえを感じる肉らしさ。生まれて初めてハンバーグで250gという質量を実感し、大満足でお店を後にします。
げんこつハンバーグと大盛ライスの余韻に浸りつつ、20分ほど歩き浜松城公園へ。かつての天守曲輪には、天守門や天守閣が復元・再建されています。
450年以上前、築城当時から残るという野面積みの石垣。その荒々しい迫力もさることながら、使われた石の色味や質感が印象的。
浜松城の天守閣は早い時期に失われ、その後再建もされなかったそう。往時の姿もよく解っていないそうで、現在は安土桃山時代にあったと想定される天守閣の2/3ほどの大きさの復興天守が建てられています。
昭和33年に建てられたという、現在の天守閣。せっかくなので登ってみようと足元に近づくと、やはり目を奪われる石垣のうつくしさ。端正というより、野性的で個性的。地元産の石材が用いられているそうで、これまで出逢ったことのない豊かな色彩や造形の石が散りばめられています。
城内の展示を眺めつつ最上階へ。天守をぐるりと廻る回廊へと出れば、秋空に青く染まる遠州の山並み。
あまりの清々しい展望に、こころの奥へとすっと涼風が吹き渡るよう。そんな胸のすくような光景を全身に受け止めていると、遠くにはうっすらとその姿を魅せる富士山が。
かつて徳川家康が居城とし、その後も幕府の要職を輩出したことから出世城の異名を持つ浜松城。この地から天下統一に向け動きだし、長きにわたる太平の世をもたらした家康公。城内には、若き姿の銅像が建てられています。
前日夜に、急遽思い立ち訪れることとなった初めての浜松。口にするものみなおいしく、これまで触れることのなかった遠州の雄大な景色に出逢い。きっとこれは、この地がおいでおいでと呼んでくれたに違いない。
思った以上に近かったし、そして何より愉しかった。もっとちゃんと調べれば、行きたいところ食べたいものはもっとたくさん眠っているはず。一夜にしてすっかりファンになった浜松への再訪の誓いを胸に、こだま号で帰京の途に。
静岡って、本当に広いんだな。これまで伊豆には何度も訪れたことがありますが、駿河は沼津や御殿場くらい。そして今回、初めて足を踏み入れた遠江。景色も食も雰囲気が異なり、また新たな箱を開けてしまった気がする。
遠州の青い山並み、車窓を緑に染める静岡らしい茶畑。改めてこうして眺めてみると、ビジネスマンが幅を利かせているこの路線にも旅情は確かに散りばめられている。
これまで名古屋や京都、大阪への足として駆け抜けてきた東海道新幹線。でも考えてみれば、未踏の駅にも行きたいと思う場所はたくさんある。
遠州の新たな想い出を胸に刻み、これまで流れゆくままを眺めていた東海道の車窓が色味を帯びる。今回初めて訪れた浜松がそうであったように、きっとそれらはのぞみで通過するにはもったいない街。そんな出逢いを求め、この沿線もちゃんと旅せねば、だな。
16時台のこだま号に乗っても、自宅に着いたのは19時前。いつもと同じ時間に晩酌をはじめられるという、時間的近さも嬉しいところ。
小学生の頃、先生に決まって言われた「おうちに帰るまでが遠足です」。いやいや、悪い大人は帰ってからも遠足の続きを嗜むもんだよ。ということで、浜松駅のお土産屋さんでちゃっかり晩御飯を購入。
香ばしふわふわのうなぎの白焼き、ほろ苦さと凝縮感が旨い肝の佃煮。常温で旨い焼き餃子や、ちょっとばかり越境して豊橋のヤマサちくわをつまみに飲む出世城。遠州よ、帰った後までその余韻で酔わせてくれるとは。
本当に、今回は大満足の旅だった。たまにはこんな形の旅もいいかもと、濃密だった昨日今日を思い出しつつ贅沢な宴に心酔するのでした。
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