木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 3日目 ①~ | 旅は未知連れ酔わな酒

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 3日目 ①~

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉で迎える最後の朝 旅の宿

大喜泉で迎える最後の朝。本当に、ここの湯力には脱帽だ。昨日もすとんと眠りに落ち、気づけばいつもの時間にふと目覚める。熟睡とも爆睡とも違う、するりとした心地よい睡眠体験。10年以上眠りに悩みを抱えている僕にとって、この感覚は本当に嬉しい限り。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉2泊目朝食
朝からじっくりゆったり温冷交互浴を味わい、身もこころもすっかり空っぽになったところで迎える朝食の時間。今朝も食卓にはおいしそうな品々が並びます。

滞在中、豊かな変化を魅せてくれたアマゴは今朝は味噌焼きで。ふわほわの開きには甘さを添加しないすっきりとした味噌が塗られ、香ばしさとコク深さを演出。これだけで、ご飯が何杯でもいけてしまう。

地元の蔵元の味噌を使ったお味噌汁やサラダ、開田高原の太きゅうりの浅漬けに郷土料理のおおびらと、朝から体に嬉しいたっぷりの野菜を愉しみます。そして今日のご飯のお供は、辛味噌ズッキーニ卵黄のせ。辛味噌のコクを卵黄がまろやかにし、ご飯にかければ至福の味わいに。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉に別れを告げる
安曇野産のヨーグルトと深煎りのコーヒーで食後の余韻に浸り、自室で満腹を落ち着け最後の一浴へ。

心身を鎮めゆく冷泉の力に抱かれ、それを解放し一気にほぐし溶かしててゆく加温浴槽の心地よさ。ただただ気持ち良いだけではない。そこに目に見える効果が表れるのだから、これまたすごい。

2泊3日で驚くほど身軽になった体、そしてクリアになった頭とこころを引っ提げて、大満足で大喜泉に別れを告げます。良い湯良い味良い時間を、本当にありがとうございました。また必ず、戻ってきます。

10月上旬曇天の木曽福島駅
帰りも事前にお願いしていた送迎車で木曽福島の駅へ。前回の旅では降り立つだけだったこの町、のんびり散策へと繰り出します。

10月上旬旧中山道福島宿へと続く木曽福島の商店街
駅に背を向け、旧中山道を北へと進みます。坂を下ると両側には商店が並び、古くから街道筋として賑わってきたこの街の歴史が感じられるように。

10月上旬旧中山道福島宿に残る上ノ段の江戸時代からの宿場の街並み
渋い情緒の漂う商店街を抜け、橋を渡ると突如現れる古い町並み。木曽路の中間、そして中山道の京都と江戸の中間に位置する宿場として栄えた福島宿。昭和初期の大火により江戸時代の町並みはほとんど失われましたが、この上ノ段地区だけは焼失を免れたそう。

10月上旬旧中山道福島宿江戸時代の町並みが残ろ上ノ段の上空をかすめゆく中央西線特急しなの
宿場の入口を護る桝形を眺めていると、遠くから近づく車輪の音。ほどなくして、長野行きの特急しなのが江戸の町並みの上空をかすめるように通過。

江戸から明治へと時代が変わり44年、中山道を徒歩で越えていた木曽路に鉄道が開通。ここを行き来していた人々は、鉄橋を行く蒸機をどんな気持ちで見上げていたのだろう。

10月上旬旧中山道福島宿上ノ段の桝形に残る古井戸
新旧の交通が絡み合う情景にこころを打たれ、再び歩みを進めます。するとそこには、江戸時代の中期に造られたという井戸が。古くから街道を往来する人の喉を潤し、そして地元の人々の飲料水として昭和の中頃まで使われていたそう。

10月上旬旧中山道福島宿に湧く上ノ段用水
桝形から坂を登ってゆくと、きれいな水の湧く上ノ段用水が。のめますとの表記にすかさず手ですくい、ひと口。冷たさを感じるすっとした口当たりの水が、歩いてきた喉に心地よい。

10月上旬旧中山道福島宿江戸時代の風情を今に伝える上ノ段の古い町並み
坂を登りきると現れる、宿場時代を今へと伝える古い町並み。木と土で造られたモノトーンの建物、表を凛と引き締める千本格子。使い古された表現だけれど、本当にここだけ時が止まったかのよう。

10月上旬旧中山道福島宿なまこ壁が見事な小路
今なお残る江戸時代の情緒に包まれつつ歩いてゆくと、これまた味わい深い表情を魅せる小路が。見事ななまこ壁に誘われ、ふらりと寄り道してみることに。

10月上旬旧中山道福島宿なまこ壁の路地を抜けた先には大通寺の重厚な山門が
漆喰と板壁に挟まれた細い道を進んでゆくと、突き当りには重厚な鐘楼門が。この大通寺の山門は、250年ほど前に建てられたものだそう。江戸から明治大正昭和を経て平成令和まで、宿場の変遷を見守り続けてきた生き証人。

10月上旬旧中山道福島宿上ノ段の高札場
こんもりとした小山に位置する上ノ段。奇跡的に残った江戸の情緒に別れを告げ、旧中山道は木曽川の谷へと向かい下り坂。その途中には、掟などが書かれた御触書が掲げられる高札場が。

10月上旬旧中山道福島宿旨い酒を醸す七笑酒造の渋い建物
山肌をくねくねと下る坂を下り切り、旧中山道は木曽川沿いへ。すると現れる、七笑酒造。ここがあの旨い酒のふるさとなのか。今回も、おいしいお酒をありがとう。

10月上旬旧中山道福島宿七笑酒造の脇からのびる伊勢町小路の渋い佇まい
七笑酒造の重厚な木造建築、その隣の渋い表情を魅せるモルタルの建物。その対比にふらりと吸い寄せられ道を渡り近づくと、その間を行く風情に満ちた路地が。この伊勢町小路をはじめ、この町にはたくさんの小路がありそう。これはまた、次へと繋がる宿題だな。

10月上旬旧中山道福島宿八十二銀行旧福島支店の渋い建物
様々な表情を持つ建物が並ぶ街道沿い。四つ角には、銀行らしい重厚感の溢れる建物も。八十二銀行の旧福島支店は老朽化のため移転したそうですが、この建物はどれくらい前に建てられたものなのだろう。

10月上旬旧中山道福島宿豆腐の田中屋
そのまま旧中山道に沿って歩いてゆくと、豆腐の田中屋を発見。昨日食べた絹ごし豆腐、濃くておいしかったな。宿で地のものを出してくれると、こうして訪れた町での深みが増してゆく。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所へと続く池井坂
両側に商店や宿の並んでいた街道筋もついに川端に出て、旧中山道はここ池井坂から山肌へととりつき再び山中を行くように。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所跡
坂を登りきると、そこに広がる福島関所の遺構。背後にすぐ山が迫り、その反対側は木曽川の谷へと落ちる崖。ここに関所を置いたことが頷ける、関所破りのしにくい地形。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所資料館
その隣には、関所の建物を模したという福島関所資料館が。江戸時代、箱根、新居、碓井とともに四大関所のひとつに数えられたという福島関所。ここで往来する人々の取り締まりがなされていました。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所資料館に展示された関所の三つ道具つく棒さすまた袖がらみ
館内には、関所にまつわる様々な展示が。威嚇するように、壁にずらりと並べられた武器。関所の三つ道具だという、つく棒、さすまた、袖がらみ。たった二百年前、国内を自由に往来することすら叶わぬ時代が続いていました。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所資料館に展示された福島宿のジオラマ
関所が設けられ、中山道の中間地点として栄えた福島の宿場町。往時の様子が、緻密なジオラマで再現されています。しつこいようだが、本当にこれが二世紀前の姿とは。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所資料館上番所
入鉄砲に出女。江戸に持ち込まれる武器と、江戸から出る婦女子を特に厳しく監視した関所。この上番所ではそれらを審査し、通行が許可されるまで2時間ほど待つこともあったそう。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所資料館入鉄砲に出女を取り締まった上番所
ただでさえ、庶民は自分の足でしか移動することができなかった時代。そして待ち構える、関所での改め。自由に旅できることが当たり前となった現代を生きる僕にとって、本当にくどいようだけれどこの時代から200年も経っていないことが信じられない。

10月上旬旧中山道福島宿木曽川の谷が一番狭くなったところに設けられた福島関所その谷の狭さが分かる光景
改めて交通、移動できることのありがたさを噛みしめ、関所資料館を後にします。木曽川を渡る橋上からは、ぐっと川幅が狭まり両側に山が迫る光景が。関所がここに置かれるのも思わず納得。

10月上旬旧中山道福島宿木曽川の崖に建つ昭和13年生まれの城山発電所
その切り立った川岸には、歴史を感じさせる建物が。この城山発電所は、昭和13年に運用が開始されたそう。

10月上旬旧中山道福島宿興善寺の苔むした参道
旧中山道を逸れ、木曽川を渡り対岸へ。こちらにも見どころがいくつかありそうですが、思ったよりも時間を掛けてしまいここからはちょっと駆け足に。苔むした参道がうつくしい興善寺には、見事なお庭があるそう。

10月上旬旧中山道福島宿昭和2年築の旧帝室林野局木曽支局庁舎御料館
その隣には、瀟洒な佇まいを魅せる洋風建築が。この御料館は、旧帝室林野局の木曽支局庁舎として昭和2年に建てられたもの。こちらも内部を見学できるそうなので、次への宿題として残しておくことに。

10月上旬旧中山道福島宿木曽馬親子の像
静かな住宅街を歩いてゆくと、かわいい馬の親子の銅像が。ここ木曽谷は、日本の在来馬である木曽馬の産地。本州では唯一の在来馬なのだそう。

10月上旬旧中山道福島宿福島関所を管理した山村代官屋敷
小学校の横を通り、続いての目的地である山村代官屋敷へ。ここには代々福島関所の代官を務めた山村家の屋敷が残されています。

10月上旬旧中山道福島宿山村代官屋敷へと続く敷地内の並木
門をくぐると、立派な木立が出迎える敷地内へ。残されているのは広大な敷地の一部だそうで、御代官様のもつ権力の大きさが感じられるよう。

10月上旬旧中山道福島宿江戸時代に建てられた山村氏下屋敷の一部が残る山村代官屋敷
現在見学できるのは、下屋敷の一部とそのお庭。先ほどの福島関所資料館とセットで入館券を購入すれば、ちょっとお得に見学できます。

10月上旬旧中山道福島宿山村代官屋敷下屋敷の大広間
江戸時代に建てられたという、この下屋敷。内部には資料や調度品が展示されており、約280年もの間この地の代官を務めてきた歴史に触れることができます。

10月上旬旧中山道福島宿山村代官屋敷に展示された饗応料理
着物や食器といった調度品もさることながら、料理好きの僕が気になるのはこのずらりと並んだお膳。これは福島宿で酒屋を営んでいた有力商人が、御代官様を自宅に招いた際に振る舞った饗応料理だそう。ちょっとこれ、凄すぎやしないか。

10月上旬旧中山道福島宿山村代官屋敷古き良き木のサッシから眺める緑豊かな築山泉水式庭園
お屋敷の前には、築山泉水式の庭園が。木戸にはめられたガラス越しに眺める、雨に打たれる豊かな緑。その艶やかさが、すっとこころに沁みてゆく。

10月上旬旧中山道福島宿日本初のローゼ橋、世界初の鉄筋コンクリートローゼ橋の大手橋
代官屋敷を後にし、そろそろお昼を食べに駅方面へと戻ることに。その途中、木曽川を渡る歴史を感じさせる橋が。この大手橋は日本初のローゼ橋、そして世界初の鉄筋コンクリート造のローゼ橋として昭和11年に架けられたもの。それ以来、90年近くもの長きに渡り現役で交通を支えています。

10月上旬旧中山道福島宿歴史の滲む眞岡薬局の建物
渋い佇まいを魅せる古老を渡り、川に沿って続く商店街へ。この薬局の建物も、ものすごく良い表情をしている。きっと長い歴史を刻んできたことだろう。

10月上旬旧中山道福島宿木曽川に沿って並ぶ崖家造り
木曽川の刻む狭い谷をなんとか活用すべく、川にせり出すようにして建ち並ぶ古い家屋。この崖家造りは、このあたり一帯の古い建築様式。足元を流れる木曽川とともに、独特の景観を作り上げています。

10月上旬旧中山道福島宿小林商店の渋い看板建築
崖家造りの古き良き建物が続く商店街。その一画には、これまた目を引く看板建築。江戸時代の宿場が残り、歴史の滲む和洋の建築が点在し。木曽福島は、歩いていて愉しい町並みだ。

10月上旬旧中山道福島宿創業300年以上を誇る手打ちそばくるまや本店
時刻はちょうどお昼どき。木曽福島を発つ前に昼食をと、道中に目星を付けていた『くるまや本店』へと向かいます。さすがは老舗の人気店、4組ほどの順番待ちが。

10月上旬旧中山道福島宿創業300年以上を誇る老舗手打ちそばくるまや本店とろろざるそば
電車の時間に間に合うかな。若干の心配をしつつ待つことしばし、20分ほどで無事入店。福島宿をぐるりひと回り歩いた喉をビールで癒し、そばかりんとうをつまんでいるとお待ちかねのとろろざるそばが到着。

見るからに旨そうな、太めの艶めくそば。まずはなにもつけず1本つるり。うん、旨い!慣れ親しんだそばよりもっちりとした食感で、噛めばじんわりと甘味が出てくる。続いて、わさびとともにそばつゆで。濃いめのつゆがそばの甘味や香りをより引き立て、これで1枚食べてしまいたい。

いやでも待て、せっかくとろろを頼んだではないか。ということでそばつゆをとろろに加えてよく混ぜ、とっぷりと絡ませてずるり。うわぁ、もう最高以外の言葉なし。濃いつゆや太いそばの食感に負けない、とろろの強さ。芋、卵黄、そばつゆが三位一体となり、そばを至極の味わいへと昇華させる。

濃厚なとろろを味わい、ときおりすっきりとそばつゆを挟み。並盛の2枚は食べごたえのある結構なボリュームでしたが、あれよあれよと手繰り続け、名残惜しくも最後の一本まで平らげとろろもすべて飲み干します。

あぁ旨かった。これは並ぶのも致し方ない。もっちりと満足感あるそばの余韻を濃いそば湯で流し、大満足でお店を後にします。

10時過ぎに駅に着いて、ぐるりと約2時間。思ったよりも見どころが多く、今日は時間が足りなかったな。でもそれがいい、楽しみを取っておけばまた来る口実ができるのだから。前回は浅き春、今回は初秋。次はどの季節に来てやろう。そんな企みを描きつつ、駅を目指して歩くのでした。

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら~
10月上旬あり得ないほどの反応を示す長野信州木曽路釜沼温泉大喜泉効果覿面な冷鉱泉
2024.10 長野
旅行記へ
●1日目(東京⇒釜沼温泉)
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2日目(釜沼温泉滞在)
●3日目(釜沼温泉⇒福島宿⇒奈良井宿⇒塩尻⇒東京)
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