こころの赴くまま気持ちよく呑み、心地よい眠りへと落ちた昨日の夜。遥かなる道のりだと思えた今回の旅も、気付けばもう最後の朝。いつも通りの時間にすっきり目覚め、朝風呂へと向かいます。
東館に位置する、男性専用露天風呂の隆泉庵。こじんまりとした空間いっぱいに広がる岩風呂には、するりとした柔らかいお湯が満たされています。箱庭のような居心地の良い空間で浸かる、芦原の湯。肌に触れる朝の空気がまた気持ち良い。
部屋へと戻り、昨日コンビニで買ったパンとラテで朝ごはん。久々に食べるランチパックに懐かしさを感じつつ、チェックアウト前にと最後の一浴へ。隆泉庵の向かいに位置する大浴場朝倉門で、芦原の旅を締めくくることに。
明るい雰囲気の大浴場に設えられた、大きな湯船。場所により温度や深さに変化がつけられているため、好みの場所でゆったり湯浴みを楽しめます。陶製の薬草風呂も併設され、これだけ広ければ多少混雑しても窮屈さは感じなさそう。
お手頃価格で快適な和室に泊まれ、さらに館内で湯めぐりまで。素泊まりプランのおかげで夜の芦原温泉の表情にも触れることができたし、今回は大正解な選択だったな。
そんな満足感に包まれつつ、あわら温泉グランドホテルをチェックアウト。あわら湯のまち駅から『京福バス』の東尋坊線に乗車し、15分程で芦原温泉駅へ。
さらにここから、同じく京福バスの芦原丸岡永平寺線に乗り換え。ちなみにこの路線も、『永平寺・丸岡城・東尋坊2日フリーきっぷ』で乗車可能。このエリアの観光地はバスでのアクセスが必須なので、本当に便利でお得なきっぷです。
えちぜん鉄道もバスも、ずっと緑のなかを走っている。福井は本当に米どころなんだな。実際に訪れるからこそ感じることのできる、知識だけでは得られぬ実体験。福井の田園の豊かさを車窓を通して体感していると、連なる北陸新幹線の高架に何やらいかつい建造物が。
現地ではスノーシェルターか何かかと思いましたが、ここにだけぽつんとあるのには違和感がある。帰宅後調べてみると、「あわら除雪基地」という施設。中に除雪車が待機し、出番がきたらここから出動していくのだそう。雪国の通年運行に懸ける想いが伝わります。
バスは青々とした田んぼに別れを告げ、旧丸岡町の中心部へ。それまでの幹線道路沿いの雰囲気から一変、城下町を感じさせる街路を進み、駅から20分足らずで丸岡城に到着。
北陸唯一の現存十二天守、丸岡城。無骨さを滲ませる野面積みの石垣の上に建つ天守は、今から400年ほど前に建てられたものだそう。
二重三階の天守は、2階、3階部分を1階部分で支える構造。その土台ともいえる1階の内部には太い柱や梁が廻らされ、その力強さに圧倒されるばかり。
上までの通し柱がないためか、他のお城ではあまり感じたことのない広々とした空間。これが建築分野に明るければ、もっと面白いんだろうな。そんなことを思いつつ、丸岡城といえばの急階段で上を目指します。
2階へと登れば、そこでも目を奪われるのが重厚な柱や梁。昭和23年の福井大地震で倒壊したというこの天守、その7年後には元の部材を7割使い修復再建されたそう。それが叶ったのも、太く頑丈な木材が使用されていたからなのでしょう。
窓の外には、丸岡の町と緑豊かな山並み。家の形は変われど、あるいは歴代のお殿様も同じような景色を眺めていたのかもしれない。
かつての城下を眺めようと窓辺に立てば、目を引くのが灰色をした独特な質感の瓦。この屋根瓦はなんと石でできており、現存十二天守では唯一のものだそう。そもそも石瓦というもの自体、ここに来るまで知らなかった。
やっぱり旅って面白い。実体験することの醍醐味を噛みしめつつ、この急角度も身をもって体感。ここまでくると、階段を登るというより這いあがる感覚。綱なしでは登ることはできず、下るときには横向きになってカニ歩き。
急階段を這って登りきれば、そこで迎えてくれるのは越前の平野を吹き渡る風。息を切らし天守の頂まで登ってきた者のみに許される涼やかさに、思わず苦しゅうないと呟いてしまう。
大きな箱の1階部分に載った2階、3階は、その面積に対し異様に太い柱や梁がとても印象的。金属や陶器の瓦と比べ、石の瓦というものはどれほど重量が違うのだろうか。もしかしたら、この頑強さはそれを支えるという理由もあるのかもしれない。
福井大地震で、石垣もろとも全壊してしまったという丸岡城。戦後3年のまだ厳しい時代、そんな過酷な状況を乗り越え元通りの姿に再建。それを支えた人々の想いを背負う古老は、北陸新幹線が駆け抜けるようになった丸岡の街を今なお見守り続けています。
戦後の混乱期にもかかわらず、震災からの復興を遂げた丸岡城。それを成し遂げるほど、お城とは城下の人々の拠り所、その地の象徴であるという証。荘厳な佇まいに滲む人々の想いに触れ、江戸ではない東京多摩、武蔵国生まれの僕は、憧れを超え畏怖にも似た感情でこころを震わされるのでした。
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