さんふらわあぱーるで上陸し、駆け足ながら半日たっぷりと愉しんだ神戸の街。16年ぶりにその魅力に触れ、やはり今度は時間をかけて来ようと再訪を強く決意。次へとつながる宿題をたっぷりとこの地に残し、三宮バスターミナルから『本四海峡バス』で四国へと渡ります。

今回乗車したのは、JRバス2社と共同運行する阿波エクスプレス神戸号。同じようなルートで神姫、阪神、徳島バスの運行する高速バスもありますが、三宮ののりばが全く異なる場所にあるため要注意。
そしてもうひとつ、僕には心残りが。バスターミナルで待っていたときに目にしてしまったんですよ、白地に赤い数字が書いてあるあの紙袋を持っている人を。発車10分前にして、貴重な551チャンスをみすみす逃していたことに気づき大後悔。できれば、最後まで気づかぬままでいたかった。

高速舞子バスストップを出るとすぐに明石海峡大橋へと差し掛かり、眼下にはうつくしい舞子の浜が。海沿いの国道2号を自転車で駆け抜けた、あの16年前の想い出がよみがえる。

日本最長、そして3年前までは世界最長でもあった全長3,911mを誇る長大なつり橋。たこフェリーで25分かかった距離をあっという間に跨いでしまい、懐かしの岩屋港の姿がもう目の前に。

淡路島へと上陸し、島の内陸部を貫く高速道をひた走るバス。海辺から眺めた島の分厚さに驚いた記憶がありますが、そのなかはこんなに山深い世界が広がっていたのか。

それにしても、淡路島は大きすぎる。2泊3日かけて一周したときにも実感したが、高速バスでもなかなか抜けない。島とは思えぬ山深い車窓に圧倒されていると、ついにこれから渡る大鳴門橋の姿が。

明石海峡大橋の半分以下、全長1,629mで鳴門海峡をひと跨ぎする大鳴門橋。その橋上からは、かの有名な鳴門の渦潮が。

それにしても、淡路と徳島のこの距離感。バスはあっという間に大鳴門橋を走り抜け、まもなく四国は徳島に上陸。

三宮から走ること1時間20分足らず、鳴門公園口バスストップで下車。体感としてはまだ海の上、路肩にぽつんと設けられたバス停に降ろされちょっとばかり心細い。そして来た道を振り返れば、すぐそこには川のような激しい流れが。

バス停脇の通路から高速道を離脱し歩くこと約3分、『大鳴門橋遊歩道渦の道』の入口に到着。鳴門海峡といえば観潮船が有名ですが、僕はここに来てみたかった。

バブル崩壊前の昭和60年、鉄道道路併用橋として完成した大鳴門橋。あのままあの時代がつづいていたならば、この広々とした空間を列車が駆け抜けるはずだった。

線路が通るはずだったスペースを活用して作られた渦の道。頭上に車の走る音を感じつつ歩いてゆくと、通路には海面を見下ろせるガラスの床が。

大きいとはいえ、たくさんの車が往来するつり橋。ほんのりと感じる揺れと高さにちょっとばかり背筋が寒くなりつつ覗いてみれば、岩盤の上を勢いよく流れてゆく海水。もうこれ川だよ、それも下流じゃ見ない勢い。

通路の壁の上半分は金網のみでガラスはなし。ここまで来ると、車の走行音にも負けずに耳へと届く水の音。ザーザーいいつつ流れる潮なんて、この地でしか体験できない。

海流の一番激しい部分には展望台が。絶えず変化する潮の流れを見ていると、大小の渦が現れては消え、現れては消え。自然の神秘をひとつの形として具現化したかのような光景に、言葉もなくし見惚れてしまう。

90mの水深をもつ海峡中央部の南北には、それぞれ160m、200mの海釜とよばれる深みがあるそう。そんな複雑な海底地形から、水平方向にぐるぐると巻く渦のみならず海底から上昇する流れも発生。海面が大きく盛り上がる現象は渦潮の花、湧昇渦と呼ばれるそう。

ガラスの床に立ち眺めていると、きれいにくるくると巻く渦潮が。神戸を半日で我慢したのは、このためだった。渦潮ができやすい干潮の時間に合わせてやってきた甲斐があった。

瀬戸内海の一部である播磨灘と、太平洋に面する紀伊水道の境界をなす鳴門海峡。ふたつの海には最大で1.5mの水位差が生じ、最狭部で1,340mという狭い海峡を大量の海水がとめどなく流れてゆく。その流れは13~15㎞/h、大潮のときには20㎞/hに達することもあるのだそう。

日本一の速さをもち、世界三大潮流のひとつにも数えられるという鳴門海峡。これまで訪れた来島海峡や関門海峡もすごかったが、鳴門海峡の迫力はけた違いだった。

渦の道で高さ45mからの渦潮を満喫し、つづいて鳴門公園を散策することに。海峡に面する千畳敷展望台からは、すらりとのびる大鳴門橋の優美な姿を一望のもとに。

展望台の脇からのびる道があったので、海岸へと下りてみることに。手の届く距離で、激しい流れを見せる海水。ざあざあという音が絶えず耳へと届き、この空色も手伝ってその迫力に気圧されてしまう。

そのまま遊歩道が続いていたので歩いてゆくと、海辺を離れ一気に山のなかへ。あまり人通りも多くないのか、ちょっとばかり心細さを感じさせる道。引き返そうかな。そう思いつつ進んでゆくと、孫崎展望台に到着。ここからは左右に広がる激しい潮流を俯瞰でき、先ほどとはまた違った迫力が。

すぐそばには、ぽつんと建つ孫崎灯台。幅が狭く、激しい潮流をもつ鳴門海峡。そこを航行する船の安全を、ひっそりと見守りつづけています。

大毛島の北端部分からの眺めを堪能し、そろそろバス停へ。その途中、ちょっとばかり足をのばしてお茶園展望台へ。ここはかつて、徳島藩主が茶屋を建てて渦潮を眺めた場所だそう。

眼前には淡路国、振り返れば阿波国。自身の治めていたふたつの国を、こうして眺めていたのだろうか。

はじめての鳴門の渦潮と海峡の絶景を眼にこころに灼きつけ、そろそろ今宵の宿へと向かうことに。鳴門公園バス停から『徳島バス』の鳴門郵便局前行きに乗車します。

曇天の夕刻、海沿いをゆったり走る路線バス。この情景に、今日という一日を反芻してみる。そしてふと思う。旅も残すところ、あと少しだと。

あさっての朝には、旅は終わりを迎える。そんなちょっとばかりの感傷に浸りつつ車窓をぼんやり眺めていると、20分足らずで宿の最寄りとなる鳴門駅に到着。

駅の反対側へと回る通路を歩いてゆくと、鉄ちゃんにはなんとも堪らぬ光景が。ローカル線の終着駅というもの体現したかのような、行き止まりの線路。小さなホームに佇むのは、ガラガラとエンジン音を響かせる国鉄型のキハ47。夕暮れ前のこの情景に、胸がきゅっと締め付けられる。

駅から歩くこと3分、今宵の宿である『NEXELα鳴門』に到着。ちなみに少し離れたところにNEXEL鳴門という似た名前のホテルがあるため、どちらを予約したかしっかり覚えておく必要が。

チェックインを済ませ、さっそく自室へ。リニューアルされ快適な、大きなベッドの置かれたシングルルーム。男性専用の大浴場もありながら、なんともうれしいお手頃価格。本当に今回の旅、宿の価格には助けられている。

今日は神戸鳴門とよく歩いた。下船後から食事と移動以外はずっと歩きっぱなしだった体を大浴場でさっぱりさせ、今宵の宴へと繰り出すことに。いくつか気になるお店のなかから、今回は『炉端居酒屋鱻(せん)』にお邪魔してみることに。

冷たいビール片手にメニューとにらめっこしつつ、まず頼んだのはお造りの盛り合わせ。
鯛にひらめ、かんぱちはいずれももっちもっちとした筋肉質。弾力のある歯応えの後に広がる、ものすごく濃い旨味。これまで食べた瀬戸内産ともまた違う、何ともいえぬ旨さにはやくも脱帽。いかもこりこり甘旨で、さっそく地酒が進んでしまう。

今回の旅ではだいぶ魚を食べてきたので、肉もいいかと徳島名物阿波尾鶏ももの炭焼きを注文。皮目はばりっと香ばしく、身はふっくらしっとりジューシーな焼きあがり。塩コショーのシンプルな味付けに、阿波尾鶏ってこんなに旨いのかと驚いてしまう。

つづいては、おすすめメニューに書かれていたタイチリを追加。食べる前からそんなの旨いに決まってんじゃん。そう期待しつつ待つことしばし、おいしそうな香りを放つ湯気とともに運ばれてきます。
衣をまとい揚げられた鯛は、ふんわりほっくほくの食感に。それでいてほろほろと崩れてしまうわけではなく、この地の鯛の筋肉質さを感じさせる魅惑の食べごたえ。
そんな上品な旨味たっぷりの白身を彩るのが、このチリソース。トマトの酸味や旨味が効いており、甘すぎないのもうれしいところ。ぴりっと華やぐ辛味も手伝い、ひと口もうひと口と鳴門鯛が欲しくなる。

そしてこちらの名物だというのが、炭火の周りでじっくりと火を通す原始焼き。今回は、やはり鳴門といえばの小鯛を注文。
ぱりっと焼けた皮に箸を入れれば、じゅわっとあふれる鯛のエキス。繊細な身はふっくらと瑞々しく、凝縮された旨味の洪水に圧倒されっぱなし。ちょっとこれは、感動ものだわ。地酒片手に、目玉やほほの肉まで旨い旨いとしっかり残さず平らげます。

どれも旨いものばかりで、すっかり呑まされてしまったよ。そんな宴の〆にと頼んだのは、これまた徳島名物の半田素麵。もちろんスーパーなどでも見たことはあるが、太いそうめんといった程度の認識で食す機会がなく今まできてしまった。
どれどれ、初半田素麺の味はいかに。そう期待しつつひと口すすれば、思わず感嘆の声がもれそうになるほどのなめらかさ。見た目のとおり艶肌の麺は口当たりがよく、そして驚くほどコシが強い。同じく名物のすだちをきゅっと絞れば、もうすする手が止まらなくなってしまう。

いやぁ、旨かった。徳島県を訪れるのは、今回が二度目。前回に続き徳島に泊まろうかと迷っていたけれど、鳴門泊にして大正解。鳴門の味にお腹もこころもたっぷり満たされ、ほくほく顔で宿へと戻ります。

ホテルへの帰り道、ドラッグストアでちゃっかりお酒を購入。上板町は日新酒類のすだち酎。水割りにすれば、すだちのさわやかな香りや酸味でいくらでも飲めてしまいそう。
神奈川にはじまり、福岡山口大分兵庫とめぐり徳島へ。我ながら、ずいぶんと壮大な行程だ。そんな旅も、残すところ明日の香川一県に。本当に、濃く豊かな旅路をたどってきたものだ。この旅で出逢った、さまざまな感動。そのめくるめくような記憶を噛みしめ、鳴門での夜は静かに更けてゆくのでした。



コメント