せせらぎの音色に起こされる爽やかな朝。窓から漏れる眩さに外を眺めれば、あまりにも気持ちのよいこの光景。早速とよさわ乃湯へと向かい、清冽な朝の空気と新緑の瑞々しさを胸いっぱいに吸い込みます。
鮮烈な緑に抱かれた湯浴みの余韻に浸っていると、お待ちかねの朝食の時間に。会場に並ぶおいしそうな品々の中から、好みのものを選びます。
こっくり旨いなす味噌、優しい味わいの鶏のクリーム煮。切り干し大根や豚の生姜焼きも穏やかな味付けで、朝風呂で空っぽになった心身にそのおいしさが沁みてゆきます。
そして〆には、やっぱり大好物の納豆ご飯。とろろやじゃきじゃき食感のヤンキーめかぶと混ぜ混ぜし、旅先の朝ならではの贅沢を口いっぱいに頬張ります。
そんな柔らかな朝ごはんの時間を、より一層美味しくしてくれるのがこの眺め。一面にとられた大きな窓には、岩手の初夏がこれでもかと溢れんばかりに輝きます。
あまりの眩さに誘われ、朝食後の散歩へ。宿沿いに流れる豊沢川のほとりに身を置けば、一瞬にして毛細血管の隅々まで緑の豊かさが行き渡る。
山一面を彩る、無限の緑。朝日を受けそれぞれの色に輝く新緑、そこに深みを与える常緑樹。これほどまでの全身全霊の緑を浴びたのは、一体どれくらいぶりだろうか。
溢れんばかりの緑の中に、気品ある色味を添える藤の花。13年前、やはり同じく豊沢川沿いに咲く自生の藤に目を奪われたのがつい昨日のことのよう。あのときは三十代になる直前。四十代になった今でも同じように旅先で新鮮な感動を受け取ることのできる悦びを噛みしめます。
それにしても、本当に気持ちのよい朝だ。網膜に灼きつくほどの鮮烈な新緑、その合間を涼しげにさらさらと流れる豊沢川。この時期にしか出逢えない豊かさに、今はただ無心で染まっていたい。
清涼な空気に満ちた豊沢川沿いを離れ、宿の前に広がる庭園へ。若いもみじに切り取られた新緑や青空は、まるで一幅の絵のよう。
様々な木々の植えられた広い庭園。これから葉を大きく厚く成長させんと輝く若い緑の中、艶やかに咲く大輪のしゃくなげの花。
5月という季節を存分に謳歌するかのように咲き乱れるつつじ。四季のある国に生まれて良かった。弾けるように咲く力強い姿に、そう素直に思えてくる。
萌える新緑に抱かれながら、季節を先取りするように花をつける白いあじさい。手毬のようなその姿は、清楚という言葉がよく似合う。
青空と温んだ空気を一身に浴び、それぞれが万緑に向け一心に成長するこの季節。初夏ならではの瑞々しさに目を細めていると、芝の上に残る桜の花びら。そうか、ここはついこの前まで春だったのか。自分の住む街と異なる季節の進み方に、思わずハッとさせられる。
鮮烈な緑に染まる散歩を終え、自室に戻りベッドにごろり。落ちるでもなく醒めるでもなく、とろとろと揺蕩う微睡みの心地よさ。そんな怠惰に身を委ねていると、あっという間にもう11時。
優香苑には日帰り温泉のなごみの湯が併設されており、宿泊者は無料で利用可能。ランチ営業している食事処もあるため、昼飯前の湯浴みはそちらで楽しむことに。
全体的に和モダンな雰囲気漂うなごみの湯。広々とした内湯と露天には、優香苑と同じくとろんとろんの源泉が掛け流し。宿よりも高台に位置するため、大きな露天では爽快な景色を味わうことができます。
新緑と青空に日々のあれこれがすっかり漂白され、空っぽになったところで昼食をとることに。定食や麺類などいろいろなメニューがあるなか、今回選んだのは天丼。おしゃれな中庭を眺めつつ生を飲み干したころ、できたて熱々が運ばれてきます。
えびにきす、れんこん舞茸かぼちゃなど具沢山。薄色ながらしっかりめの丼つゆは、甘ったるさのない素材を活かす絶妙な塩梅。ふんわりとした衣がその旨い丼つゆを程よく吸い、ご飯と一緒に頬張れば一体感ある口福に満たされます。
露天でとろとろのお湯と新緑を浴び、こうしておいしいご飯を食べ。そして部屋へと戻れば、甘美なベッドが待っている。あぁ、もう溶けてしまいそう。これだから、連泊はやめられない。人間を駄目にする魅惑の怠惰に、抗うこともできずただただ溺れてゆくのでした。
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