西日に染まる山名駅。地方私鉄の情緒漂うホームで待つことしばし、シマウマ色をまとった2両編成のかわいい電車が入線。八幡さまの極彩色を胸へと宿し、車上の人となります。
群馬サファリパークのラッピング電車に揺られること14分、高崎駅に到着。夕刻に差し掛かろうとするこの時間帯、やっぱりあの場所へ行かなければ。
駅前からまっすぐのびる道を歩き、高崎一の高さを誇る市役所へ。その足元を彩るのは、艶やかな彩りに染まる早咲きの桜。あと半月もすれば、高崎城のあったこの一帯は桜色に染まることでしょう。
エレベーターで21階へと上がり展望室へ。はじめてきちんと群馬を訪れた前回の旅。その締めにと訪れた際に、すっかりここからの眺望の虜になってしまった。
西に傾く陽射しのもと、パステル色にかすむ連なる山々。ギザギザとした妙義山や、テーブルのような形をした荒船山。本当に群馬は、山の表情がおもしろい。
北側へと向かえば、雄大に横たわる榛名山。人の営みの詰まった平地の先に、立ちはだかるようにして聳える山容。果てしなく続く関東平野の終わりの光景に、何とも言えぬ感慨が湧いてくる。
妙義山や榛名山とともに、上州三山のひとつとして数えられる赤城山。あの山の向こうには、こんな善き旅路が詰まっていたなんて。今回の老神、沼田の旅を経て、群馬にまた新たな想い出が刻まれたことが嬉しくなる。
そして南側へと目を向ければ、見慣れたいつもの関東平野。とめどなく続く、見渡すことすらできぬこの広大さ。この先には、僕のいつもの日常が隠れている。そう考えると、何となく不思議に思えてくる。
僕のくらしと地続きに、まだ見ぬ旅が待っている。そのことを強く実感させてくれる壮大な眺望に抱かれ、旅の終結を感じつつそろそろ駅へと戻る時間に。
唯一残る高崎城の遺構である乾櫓や東門を愛でつつ歩いてゆくと、藁で造られた巨大な牛が。生きているのかと錯覚するような質感溢れる表情に、思わず立ち止まり見つめてしまう。
なんだかじんわり、いい旅だったな。そんなゆるりとした時間も、残すところあとわずか。最後の群馬のグルメを味わうべく、高崎駅ビルのレストラン街にある『水沢うどん水香苑高崎モントレー店』にお邪魔することに。
あとはもう、普通列車に揺られて帰るだけ。真下が駅という安心感もあり、まずはちょい呑みセットから始めることに。選べるお酒1杯にもつ煮が付いて700円。こりゃ吞兵衛には嬉しいお値段。
今日も一日、結構歩いた。その心地よい乾いた感覚を、洪水のように満たしゆく冷たいビール。何度味わっても飽きることのないひと口目の悦びに浸っていると、熱々のもつ煮が運ばれてきます。
立ちのぼるコク深い香りに誘われ、いざひと口。しっかりと煮込まれたもつは柔らかく、ベースを支えるだしの効いたおつゆがまた旨い。味噌やもつの旨味が凝縮されたこっくりとした厚みのある味わいに、すかさずビールを飲み干し群馬の地酒に切り替えます。
続いて頼んだのは、群馬といえばのこんにゃくの味噌田楽。330円だしちょっとしたつまみにと軽く考えていましたが、このボリューム感に思わず驚き。
分厚く切られたこんにゃくを噛めば、ぶりんと弾ける嬉しい食感。甘味噌の塩梅がちょうど良く、添えられた柚子皮がまたいいアクセントに。やっぱり群馬の味噌とこんにゃくは間違いない。
味噌田楽の想定外のボリュームに、おつまみは次が最後と厳選して頼んだ舞茸のかき揚げ。天ぷらはよく見ますが、かき揚げにされた舞茸は初めてかもしれない。
分厚いかき揚げにざくざくっと箸を入れ、塩をつけてひと口。その刹那、口を悦ばせる旨味と食感。
細かく刻まれているからこその、外カリカリ中ジューシー。香ばしく揚げられた舞茸はクリスピーさと香ばしさを演出し、中で蒸された舞茸からは香りや旨さが溢れ出る。ちょっとこれは、控えめに言って衝撃的旨さ。
舞茸の芳醇さに溺れつつ群馬の酒を進めていると、お待ちかねの水沢うどんが運ばれてきます。讃岐、稲庭とともに、日本三大うどんに挙げられる水沢うどん。今回はシンプルに味わうため、しょう油だれのざるにしました。
その艶っつやの見た目に居ても立っても居られず啜れば、おぉ、さすが!と自ずと感嘆の声が漏れてしまう。
太さも食感も讃岐と稲庭の中間、それが僕のまずもっての第一印象。そう書くと何となく中途半端な印象を与えてしまいそうですが、決してそんなことはなく絶妙なバランスなのです。
力強い太さとコシが特長の讃岐うどんに、細身から生まれる滑らかさと弾力あるコシが魅力の稲庭うどん。そんな中この水沢うどんは、滑らかな舌触りやのど越しと、食べ応えや強いコシの両立が印象的。
しょう油だれにちょんとつけ、頬張るつるすべもち肌の滑らかな麺。噛みしめれば小麦の香りや甘味が広がり、上州の粉もの文化に賛辞を贈らずにはいられなくなる旨さ。
角の立った品行方正な麺を頬張り、半分残していた舞茸のかき揚げをおつゆに付けて味わい。そんな幸せな往復をしていたら、あっという間にぺろりと完食。満腹をさすりつつも、大盛にすればよかったかななどといけない欲張りが顔を出します。
今度は水沢や榛名山にも行ってみなければ。おいしいうどんの余韻に浸りつつ、そろそろ群馬を離れる時間に。帰宅ラッシュで混雑する高崎駅へと吸い込まれます。
こうして気軽に群馬へと来られるようになったのも、湘南新宿ラインのおかげだな。いや、その前から物理的な距離は変わっていないはずなんだけど、この直通という功績は計り知れない。東京の西側に住む僕にとって、北関東を一気に身近に感じられるようになったことは間違いのない事実。
静けさに包まれた、グリーン車の2階席。列車はことりとした衝動とともに、夜の高崎駅のホームから滑りだす。あとはもう、駅を刻み自分の住む街へと近づいてゆくだけ。
いやぁ、今回も群馬にはしてやられたな。前回の旅と同様に、今回も未知なる魅力で圧倒されてしまった。何でこれまで、積極的に来なかったんだろう。今までの分を取り返すべく、これはまた来なきゃだな。そんな再訪の願い、いや、確信を胸に抱き、この旅の記憶とともに赤城山をじっくりと味わうのでした。
コメント