湯の小屋で迎える静かな朝。昨夜降った雪はあたり一面を白く染め、窓を開ければ部屋へと一気に流れ込む山の清冽な空気。その冷たさにすっかり目も覚め、冷えた体を温めるべく朝風呂へと向かいます。
白銀に染まる清らかな朝を味わおうと向かったのは、すっかりお気に入りとなった音龍。手の届きそうなところを木の根沢が流れ、その流れを愛で音を聴きながらの湯浴みは格別そのもの。
澄んだ空気の中での雪見露天を味わい、心もお腹もすっきりと空っぽになったところでお待ちかねの朝ごはん。今朝もおいしそうな品々が並びます。
香ばしく焼かれた鯖に、柔らかい食感と上品な味わいが沁みる揚げ出し豆腐。お鍋ではきのこうどんが温められ、朝からバリエーション豊かな味覚で満たされます。
おいしい朝食を味わい、お腹を落ち着けこの旅最後の一浴へ。川龍で木の根沢の流れを眼に焼き付け、名残惜しくも宿を離れる時間に。
お湯良し、味良し、風情良し。関東にこんなところがあったなんて。またひとつ、危険な宿に出逢ってしまった。冬の白さも良いけれど、新緑や紅葉の頃も見てみたい。再訪の予感を強く抱きつつ、2泊を過ごした宿に別れを告げます。
朝日に輝く道を歩き、湯の小屋のバス停へ。ここから『関越交通』のバスに乗車し、水上駅を目指します。
くねくねとした山道を、器用に下る路線バス。車窓には昨夜の雪で一段と白さを増した山並みが流れ、その輝きを目に心に焼き付けます。
利根川に寄り添い走ること約45分、水上駅に到着。次の列車までまだしばらく時間があるため、近くをのんびり歩いてみることに。
僕の子供の頃から、復活したSLが走る上越線。その列車の終点らしく、駅の近くにはD51とC61が描かれたかわいいマンホールが。
笑顔のSLに導かれるように進んでゆくと、重厚感溢れるD51がお出迎え。冬晴れの青空と漆黒のボディとの対比に、機械であるということを忘れさせるような威厳というものを感じてしまう。
1943年に生まれたというD51745号機。もう間もなく80歳になろうかというのに、今にも走り出しそうな美しい姿。SLの中でもひときわ大きな体を持ち、重厚感と存在感を放つデゴイチ。間近で見るとその迫力に圧倒されるばかり。
精密機械と化した現在の鉄道車両にはない、無骨さを感じさせる人間臭さ。火と水だけで列車を牽引するという現代では考えられないアナログさが、半世紀ほど前までは当たり前だったなんて。あと20年生まれるのが早ければ。古き良き鉄道が好きな僕にとって、いつもそう思わせられる。
久しぶりにまたSLに乗りたいな。立派なデゴイチの雄姿の余韻に浸りつつ、上越線へと乗り込みます。この211系も、残り少ない貴重な国鉄型。辛うじてJNR時代の記憶を持つ僕にとって、国鉄型が消えてゆくのは寂しいばかり。
途中新前橋で乗り換え、1時間ちょっとで高崎駅に到着。これまで何度も通ったことはありますが、実はほとんど歩いたことのない街。これから帰るまでの半日、高崎の街を満喫します。
まずはお昼を食べるために百貨店であるスズランを目指します。その途中、雰囲気の良さそうな商店街があったので曲がってみると、ビルの狭間に佇む立派な古民家が。明治生まれのこの建物は、現在はコインランドリーとして現役を続けています。
初となる高崎の街並みを眺めつつ歩くこと10分、お目当てのお店がある高崎スズランに到着。4階へと上り、『ボンジョルノ高崎スズラン店』にお邪魔します。
パスタの街としても知られる高崎。テレビで見ていつもおいしそうだな~と思っていましたが、ようやく待ちに待ったこのときが。旅に出る直前までシャンゴにするかボンジョルノにするか迷っていましたが、やっぱりあのスープスパを食べてみたくこちらのお店を選びました。
白ワインを傾けつつ待つことしばし、待望の魚介のベスビオが到着。その瞬間、鼻をくすぐるにんにくの良い香り。その香ばしさに誘われひと口頬張れば、ぶわっと広がる辛味と旨味。
たっぷりと注がれたトマトベースのスープには魚介の旨味が溶けだし、きっちりと効いたにんにくの風味や黒くなるまで炒められた唐辛子の辛味や香ばしさがまた堪らない。
麺はつるっとプリッとした食感でスープと程よく絡み、ひと口、またひと口とどんどん食べ進めたくなる旨さ。結構パンチのある辛さに大汗を掻きつつも、あっという間に平らげてしまいました。
やっぱりスパゲティはがっつり食べるもの。高崎の味と盛りの良さに嬉しくなり、ホクホクとした気分で街歩きへと繰り出します。まずはスズランのすぐ近くに位置する高崎城址へ。
かつて本丸の西北にあったという乾櫓。明治維新後は払い下げられ農家の納屋として使われていたようですが、1976年に現在の場所に移築されたのだそう。
その隣には、やはり移築された東門が。全部で16もの門があったという、広大な敷地を誇った高崎城。現在は市街地化されていますが、乾櫓とともに往時の姿を感じさせてくれます。
明治維新により廃城となった高崎城。その後陸軍の施設が建てられ、さらに時代は下り市街地へ。その中で、この三の丸付近は土塁やお堀が残るなど、お城があったことを今へと伝える貴重な一画。
雲ひとつない快晴の冬空、その陽射しを受け溢れんばかりの輝きに満ちる城下のお堀。高崎ならではの空っ風に吹かれつつ、冬の煌めきを全身に受け取るのでした。
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