部屋を染めゆくほの明るさに起こされ目を開ければ、竹林越しに差し込む眩い朝日。今日という良き日の予感を胸に、青根の清らかな湯でさっぱりと頭を覚まします。
今朝は早く目覚めたため、朝食まではまだ時間はたっぷり。青根御殿を眺めながら、湯上りのコーヒーを味わうひととき。朝からゆったりと時間を過ごせるのも、旅という非日常だからこそ。
窓を染める竹林の緑を眺めつつぼんやりと過ごしていると、お待ちかねの朝食の時間に。昨晩と同じ本館の個室でいただきます。
食卓に並ぶ、王道の和の朝食。焼鮭に仙台名物笹かま、上品なおだしの染みたがんもの煮物やお腹を温めてくれる湯豆腐。どれも温泉で空っぽになった心身に届くような穏やかなおいしさで、今朝もおひつのご飯をぺろりと平らげてしまいます。
湯元不忘閣のシンボルともいえる、青根御殿。朝食後には、女将さん自ら案内してくれる見学ツアーが開かれます。この宿を知り、泊まってみたいと思うきっかけとなった渋い建築。もちろん僕も、参加します。
伊達家の逗留先として建てられた青根御殿。現在建つこの御殿は、明治の大火での消失を経て90年前に再建されたものだそう。長年の風雪に耐え経てきた時間が、建物の至るところから滲み出てくるかのよう。
開湯以来490年以上の歴史を持つ青根温泉において、21代に渡り御殿を守り続けてきたこの旅館。欄間に彫られた家紋からも、古くからの伊達家との繋がりが伝わります。
歴代の藩主の湯治場として利用されていた御殿を再現したというだけあり、館内は重厚さを感じさせる贅を凝らした造り。かつては客室として使用されていたそうで、こんな建物に泊まれたらなどと叶わぬ妄想を抱いてしまう。
木の美しさを感じさせる階段を上り2階へ。奥の一段高くなった上段の間が、かつての歴代藩主の居場所。宿がお殿様を迎えるということが、どれほどのことであったかが伝わるよう。
室内は落ち着いた雰囲気ながら建具には繊細な装飾が施され、古の人のもつ美意識に溢れています。仙台から遠く離れた山奥に建つ、贅を尽くした御殿。青根の湯が歴代のお殿様に大切にされてきたその歴史を現代へと伝えます。
上段の間に掲げられた書は、再建時に当時の伊達家当主から贈られたものだそう。伊達政宗公がこの地を訪れた際、その喜びを忘れないようにと不忘と名付けたことがこの宿の名の由来とされています。
藩主の湯治のみならず、密談の場所としても使われたという青根御殿。窓からは青葉城が望めたようで、何かあった際にはのろしを上げて連絡を取っていたのだそう。
再建されてから90年、戦国時代からの時間を繋ぐ青根御殿。館内に漂う歴史と古の美意識に触れ、青根での想い出は一層深く胸へと刻まれるのでした。
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