冬の気配に包まれた日光湯元の源泉から歩くこと数分、これから3泊お世話になる『湯守釜屋』に到着。近代的な外観ですが、湯守の文字の輝く古い看板が宿の歴史を物語ります。
今回はお手頃価格で泊まれる別棟のガーデンハウスプランで予約しましたが、お部屋を本館に用意してくれたとのこと。宿のご厚意に感謝しつつ広い和室で早速浴衣に着替え、お待ちかねのお湯へと逢いにゆくことに。
浴室へと一歩入れば、思い切り鼻をくすぐる硫黄の香り。1200年以上前に開湯したという日光湯元温泉。240年ほど前に輪王寺から湯守の命を受け、それ以来この魅惑の白濁の湯を守り続けてきたそう。
見るからに濃厚な濁り湯に期待を寄せつつ、いざ入湯。その瞬間、全身を包む極上の浴感。これ、僕の好きなやつ。湯めぐりにはまって以来十数年、ようやく念願叶い触れることのできたお湯からは、自分との相性の良さがひしひしと伝わってくるかのよう。
細かい湯の花の浮く白い濁り湯は、ナトリウム硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉。中性のため肌への負担も少なく、たっぷりと含んだ成分にによりものすごくシルキーな肌触り。湯上りはとてもすべすべつるつる肌になり、言わば天然のベビーパウダーのよう。
濃厚な内湯でしっかりと温まり、併設された露天風呂の緞子の湯へ。先ほどの白濁とは違い全くの無色透明のため一瞬あれ?と思いましたが、しっかりと硫黄の香りのする熱い湯が掛け流されています。どうやら日光湯元のお湯は、気温天候などの状況で色が変わるようです。
長年の夢が叶い、湯元の湯と戯れる幸せなひととき。これから3泊、こんな至福が続くなんて。憧れのお湯は僕の期待をはるかに超える魅力をもって迎え入れてくれた。湯浴みの余韻を噛みしめつつ飲む冷たいビールは、その旨さもひとしお。
初冬の奥日光の枯色も暮れ始めたところで、もうひとつある大浴場の薬師の湯へと向かいます。こちらには露天風呂はありませんが、青白いお湯がたっぷりと湛えられています。
こちらのほうが浴槽が大きい分掛け流されている湯量が多いのか、先ほどの瑠璃の湯以上に湯元の湯の濃厚さを味わえます。肌を包む穏やかな浴感に、もうすっかり骨抜きに。同じ関東に住んでいながら、なぜ今まで来なかったのだろうか。灯台下暗し。その言葉の意味を心の底から噛みしめます。
すっかり肌に硫黄をまとったところで、夕食の時間に。前菜にはぜんまいやきのこといった山の幸が並び、お刺身には日光名物の生湯波が。とろりとした豆乳の甘さに、地酒が進みます。
続いては熱々の湯波の煮物を。しっかりとした厚みと食感が美味しい日光の湯波。噛めばじゅわっと広がるだしとともに、生湯波とはまた違った豆の風味を味わえます。
お次は豚の陶板焼きと茶碗蒸し。茶碗蒸しにはたっぷりの山菜が入れられ、ぷるんとした食感の中にしゃきっとした歯触りが楽しめます。
こちはら塩鰤の焼き物。塩焼きとは違った凝縮感が地酒に合い、山間の湯宿にいるという実感を一層味わわせてくれるよう。
こちらの夕食のご飯は、卓上で炊き上げる釜めし。この日の具には山菜と鶏が使われ、濃すぎず薄すぎずの塩梅がお米に程よく染みています。
部屋へと戻りいっぱいになったお腹を落ち着け、夜のお供を開けることに。今夜は地元日光市は今市の渡邊佐平商店が造る、きざけ日光誉純米原酒を。原酒というだけあり、ガツンとくるしっかりとした酒の味わい。辛すぎず、でも北関東らしい僕の好きな味。
お酒に飽きたら、湯に煙る大浴場へ。そこに満たされるのは、うっすらと青みがかった白き濁り湯。立ち上る湯気からは、鼻腔を愉しませてくれる硫黄の香り。
あぁ、奥日光。東京に生まれ育ち37年。こんな近くにこんな湯があったなんて、初めて知った。早くも湯元の力に魅了され、更けゆく夜に酔いしれるのでした。
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