初の十勝、帯広で迎える静かな朝。窓辺から外を眺めてみれば、はっと息を呑む清らかな白さ。どうやら寝てる間に、しんしんと降る雪が帯広の街を白銀に染めてしまったよう。
やっぱり北海道の冬はいい。網膜を染める白の眩さにすっかり目覚め、地下の大浴場で自家源泉掛け流しの贅沢な朝風呂を。とぅるんとぅるんのモール泉に身を包み、心身の芯からほぐれたところで朝ごはん。
人生初となる十勝、帯広泊。思いっきり飲んでしまい二日酔いになるリスクがあったため、今回は素泊まりプランで予約。ですが、併設のレストランがおいしいと評判のふく井ホテル。次回滞在時には、朝食もリベンジせねば。
その代わりといってはなんですが、こちらも北海道といえばのセイコーマートで仕入れた朝食をとることに。ホットシェフのシュガーバターパンは生地がしっかりとしており、PBのミルクティーも牛乳感が強く北海道らしさを感じさせる味わい。セコマ、近所に欲しいよなぁ。
ベッドの上でだらだらとし、良き時間になったところで最後の湯浴みを。9時過ぎのチェックアウトが近い時間帯でも、浴場には先客がちらほらと。
今日は月曜日。湯上りにそのままワイシャツに着替え支度をするビジネスマンの姿に、やはりふく井ホテルのお客さんの温泉に対する本気度の高さを感じてしまう。
駅前という最高の立地だし、お部屋も快適で申し訳ないほどの良心的価格。そしてなにより、温泉が最高。また帯広に来るときは、次回もふく井ホテルだな。今回は逃した朝食という宿題を手に入れ、再訪する気満々でホテルを後にします。
今日はとかち帯広空港からの便で帰る予定。19時過ぎの飛行機を予約しているため、それまでの間初めての十勝を満喫することに。まずは駅から20分ほど歩いて帯広競馬場へ。
雪を背負いつつ、凛と立つ雄々しい馬の銅像。今から114年前に、フランスからここ十勝へと渡ってきたイレネー号。生涯に600頭近い産駒を輩出し、十勝の開拓の力となったばん馬の父ともいわれる名馬なのだそう。
競馬場の開門まではまだ時間があるため、イレネー号の銅像の向かいに建つ馬の資料館へ。午前10時に開館し、無料で見学できるのも観光客としては嬉しいところ。
中へと入ると、その名の通り馬に関する資料がたくさん。十勝平野の開拓での活躍やばんえい競馬の歴史など、馬に疎い僕にとっては新鮮なものばかり。恥ずかしながら、ここに来るまでばんえい競馬は道産子が走っているのだと思い込んでいました。
明治以降に欧米から導入され、日本で独自の交配により生まれた輓曳馬。在来馬の道産子やサラブレッドよりも体が大きく、広大な十勝平野の開拓になくてはならない労働力として大切にされてきました。
そんなばんえい馬の活躍した、開拓時代の農家の写真が。羆の恐怖と隣り合わせ、冬には氷点下数十度にもなる北海道。そんな未開の大地に、この茅葺の家。現代に生きる僕にとって、想像を絶するほど心細すぎる。
十勝での馬の歴史と開拓の労苦に触れ、お隣のとかちむらでお土産探し。帰りが飛行機でなければ、いろいろ買って帰りたい。農産物から加工品まで魅力的な品の並ぶ中からいくつか購入し、ちょうど開門の時間になったためいざ場内へ。
お馬さんをやらない僕にとって、これが人生初の競馬場。単なる観光施設には醸せぬ悲喜こもごもが蓄積された空間に目を輝かせていると、ばんえい競馬の特徴であるソリが。ばん馬は450㎏もあるこのソリを曳いて、土の上を走るのです。
この日も午後からレースが行われるため、コースでは入念に整備が行われています。かつて道内の数か所で開催されていたばんえい競馬ですが、現在はここ帯広に残るのみ。北海道唯一、すなわち世界でここだけの勝負がこの直線で繰り広げられます。
パチ屋には馴染みはあるものの、公営ギャンブルの経験は皆無。そんな僕にとって、このスタンドに漂う渋い雰囲気に身を置くだけでも貴重な経験。実際のレース時には、きっと独特な熱気に包まれることでしょう。
競馬をしない僕が、なぜレースの始まる前の競馬場へとやって来たか。それは本物のばん馬に逢えるから。スタンド裏手のふれあい動物園で、かわいいお馬さんと待望のご対面。
厩舎のお馬たちはみんな一生懸命お食事中。一心不乱に草を食み続けていますが、ふと気づいたかのようにときおりその愛くるしい顔を見せてくれます。
穏やかな瞳を隠す長いまつげ、顔つきからにじみ出る温かみ。馬って、なぜこうもかわいいのだろうか。その穏やかな表情に、こころがすっと惹きこまれてしまう。
特にこの子は人懐っこいのか、つぶらな瞳で見つめて頭をぎゅっと近づけてくる。柵からはみ出た藁を口元へと運んでやれば、おいしそうにもぐもぐもぐもぐ。
こうして厩舎から顔を出すと、より一層伝わるばん馬の大きさ。そんな迫力ある馬体なのに、みんなものすごく優しい表情をしている。
こちらの馬さんは、わき目もふらず黙々とご飯中。しなやかそうなたてがみはきれいに編み込まれ、かわいいリボンを付けておめかししています。
明治から十勝の大地に立ち続けてきた逞しさ、人を見つめる優しい瞳。このお馬たちから伝わるぬくもりに触れ、なんだか胸の深い部分がじんわりと温まってくる。
ここまで逢いに来てよかったな。まだまだ眺めていたいけれど、残念ながらもう行く時間。最後にかわいいポニーにご挨拶し、初めての帯広競馬場を後にします。
お馬、かわいかったな。未だ胸に残る余韻を抱きつつ、再び歩いて駅方面へと戻ります。時刻は11時半前。最終日のお昼は絶対ここと決めていた『カレーショップインデアンまちなか店』にお邪魔します。
インデアン、ベーシック、野菜と3種類のルーが選べるこのお店。トッピングも色々あり何にしようかと迷ってしまいますが、ここはお店の名を冠したインデアンを注文。
満席の店内で調理風景を眺めつつ待つことしばし、お待ちかねのカレーが到着。店内に漂う香りで充分に待て状態だったので、すぐさまスプーンを手に取り堪らずひと口。うわぁこれ、溶け込んじゃってるよ・・・。
牛をベースにしたというインデアンルーは、どことなくフルーティーさを感じる甘さとまろやかさ。肉の旨味もしっかりと凝縮され、ほかほかの白いご飯と絶妙な味のバランス。
ひと口、またひと口とスプーンが進むうちに、しっかりと感じられるスパイシーさ。途中で卓上のホットオイルをかければ風味はそのままに辛味だけが追加され、これまた後引く味わいに。
今回はインデアンルーを食べたけれど、これはオリジナルも野菜も試してみなければなるまい。つまり、少なくともあと2回は帯広に来る必要があるということだ。
帯広市民よ、ずるいじゃないか。こんな旨いカレーが、500円ちょっとで食べられるなんて。奇をてらっているわけではないけれど、しっかりと中毒性のあるインデアン。またひとつ帯広での宿題を手に入れ、もうすっかりこの街が好きになっているのでした。
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