加仁湯からバスと電車を乗り継ぐこと3時間半、雨に煙る東武日光駅に到着。平成の大合併で生まれた巨大な日光市とはいえ、加仁湯もここも同じ市内。市内移動に3時間半とは、やはり奥鬼怒の山深さを実感せずにはいられません。
駅前広場には、前回訪れたときにはいなかった車両が。この小さな路面電車は、昭和43年まで国鉄日光駅前からいろは坂の入口である馬返までを結んでいた東武日光軌道線の100系電車。70年近く前に生まれた車両ながら、日光の山々の若草色と神橋の朱色を纏った姿はモダンのひと言。
降り続く雨の中、東照宮までバスで行くか迷いましたが、日光軌道も辿った参道をゆっくり歩いてゆくことに。両側に続くレトロな街並みを愛でつつ進んでゆくと、特徴的な和洋折衷の建物が。前回訪れたときは役目を終えたばかりの旧日光市庁舎も最近になって修繕され、白亜の美しい姿で日光の歴史を伝え続けています。
時刻はもう13時過ぎ。お腹もすっかり減ったので、以前から気になっていた『日光物産商会』にあるそば処神橋庵でお昼を食べることに。明治時代後期築という建物は、その外観もさることながら内部もまた重厚。先ほどの旧日光市庁舎と同じく、国の登録有形文化財に指定されています。
まずはキリンラガーで乾杯。お通しの湯波の甘辛煮は湯波の食感や豆感をしっかりと感じ、濃すぎず薄すぎずの味付けも相まってビールが自ずと進みます。
続いて、注文していたゆばそばが到着。甘めの薄味に煮られた、大ぶりの揚げ巻き湯波が載せられています。おつゆはこれまた甘めの薄味で、少々柔らかめのおそばも相まって全体的に穏やかといった印象。雨で冷えた体を芯から温めてくれます。
お腹も満たされたところで、いよいよ東照宮へ。日光物産商会のすぐ隣には、大谷川を一跨ぎする神橋が。その名の通り、二荒山神社へと続く神聖な橋。山に垂れこめる霞と雨に濡れる漆の艶めきは、この天候だからこその美しさ。
神橋の先からのびる石段を登り、東照宮を目指します。その道中、目を悦ばせてくれる桜の花。東京ではまもなく初夏、奥鬼怒ではようやく雪どけ、そして日光は春爛漫。ここ数日で、季節を何度も行ったり来たり。
雨の中、ひっそりと佇む輪王寺三仏堂。そのまわりを彩るかのように大きな桜が咲き乱れ、このしっとりとした情緒は雨ならではのもの。
そう言えば、この季節に日光を訪れるのは初めてかもしれない。これまで夏や秋には来たことはあるけれど、初めて目にする桜の季節。今回は訪れる予定のなかった春の日光に、もしかすると雨が誘ってくれたのかもしれない。しっとりと濡れた春色に、これから出逢うであろう光景に思いを馳せるのでした。
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