祭りの滾り、地の力。~ヤーヤドーが呼んでいる 2日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

祭りの滾り、地の力。~ヤーヤドーが呼んでいる 2日目 ②~

8月上旬夏の弘前旧第五十九銀行本店本館 旅グルメ

神社にお城と弘前の街歩きを久々に満喫し、そろそろ次なる目的地へと向かうことに。駅を目指す道すがら、旧第五十九銀行本店本館の威厳ある姿にご挨拶。

8月上旬夏の弘前土淵川沿いに飾られた金魚ねぷた
昨夜の熱気を反芻しつつ土手町通りを進み、土淵川へ。岸辺には、ずらりと並ぶかわいい金魚ねぷた。13年前、この愛らしくも可憐な姿に一目で恋に落ちたことが懐かしい。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線渋い佇まいの中央弘前駅
これから向かうは、大鰐温泉。弘前からは奥羽本線でも行けますが、今回は久々に『弘南鉄道』大鰐線に乗ることに。一見駅舎とは思えぬ、地元スーパー然とした佇まい。商店街の裏、川端にひっそりとたたずむ姿は一度目にすると忘れられない。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線中央弘前駅舎内に飾られた津軽びいどろねぶた色のビニール傘
もともとは、昭和27年に弘前電気鉄道として開業した大鰐線。一歩足を踏み入れれば、往時の空気感を色濃く感じさせる駅舎内。そんなモノクロームの世界に彩りを与える、鮮やかに彩られたビニール傘。

なんだろう、見覚えがある。そう思ったのも束の間、はっと気づくその正体。これはいつもうちで愛用しているおちょこだ。青森県の伝統工芸品にも指定されている、津軽びいどろ。夏の火祭りをイメージしたNEBUTAの色味を再現した傘が、ずらりと天井からつるされています。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線中央弘前駅ホームに並ぶこけし灯ろう
開業以来赤字が続き、以前から存廃が議論されてきたこの路線。2013年には廃止の意向が示されましたが、一旦それは回避。その後自治体の支援や増収策により状況の改善を模索していましたが、すすむ設備の老朽化や追い打ちをかけるように訪れたコロナ禍が決定打に。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線中央弘前駅に停車中の旧東急デハ7000系
それでも何とか誘客を図るべく、ホームを彩るこけし灯ろうや金魚ねぷた列車、各種企画きっぷと頑張ってきた大鰐線。ですが残念ながら、2027年度末での運行休止が発表。焼け石に水とは重々承知しつつ、僕も『さっパス』というお得なきっぷで大鰐へと向かうことに。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線デハ7000系津軽のりんごと岩木山型の葉のかわいいつり革
車内へと入れば、一気に甦る幼少期の記憶。東急の現役時代に乗ったことはありませんが、昭和末期から平成初期にかけての私鉄に漂っていた雰囲気が色濃く残されている。

同じ車両メーカー、同じ時期。慣れ親しんだ井の頭線も、こんな車内だった。そんな懐かしく温かい空間を彩る、かわいいつり革。赤い輪と岩木山を象った緑の葉で、この地の名産であるりんごを表しています。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線りんご畑鉄道の名のとおり実をつけ始めたりんごの木々のなかを走るデハ7000系車窓
中央弘前を出発した2両編成の列車は、土淵川に沿ってゆっくりと蛇行。その先に続く大きな学校や住宅地を抜ければ、車窓に流れる夏の果樹。りんご畑鉄道の愛称が付けられた大鰐線。その名のとおり、実をつけはじめた豊かな緑のなかをのんびりと進んでゆきます。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線連結部の窓から覗けば妻部に残された今はなき東京急行電鉄と東急車輌の社名が残る
開け放たれた窓から妻部を覗けば、ダイナミックに刻まれる車輪の音とともに飛び込む懐かしい文字。東京急行電鉄に、東急車輌。今はなき社名の刻まれた銘板に、時代の変遷というものを噛みしめる。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線広幅貫通路を大きく揺らしダイナミックにりんご畑の中を走るデハ7000系
昭和40年に生まれ、東京から弘前へと活躍の場を移したこの車両。ステンレスはメンテナンスが容易く、さびにくいため長寿命。その設計思想を見事に体現するかのように、還暦を迎えてもなおこうして第二の人生を走り続けています。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線のどかさに包まれる地方ローカル私鉄の穏やかな車内
この電車が誕生したのは、首都圏でも非冷房が当たり前の時代。確かに僕の子供のころも、冷房が搭載されていても盛夏を迎えるまでは窓開けでなんとかなっていた。

いまの東京の気温では、到底無理だろうな。記憶を残すこの40年間で、僕の住む地は一気に灼熱地獄になってしまった。扇風機の回る車内の情景が、忘れかけていたあのころの夏の記憶を呼び覚ます。

8月上旬夏の弘前弘南鉄道大鰐線りんごの装飾が施されたデハ7000系は終点大鰐駅に到着
自然風とともに車輪の刻むリズムが吹き込む電車に揺られること34分。ノスタルジーを噛みしめる鉄路の旅は終わりを告げ、終点大鰐に到着。60年分の歴史をまとったいぶし銀と、あまりに渋い跨線橋の共演が胸にくる。

8月上旬夏の津軽大鰐温泉日帰り温泉鰐comeワニカム
弘南鉄道の管理する北口で乗車券を渡し、跨線橋を渡りJR大鰐温泉駅に併設された南口へ。そこからあっという間の徒歩1分で、『大鰐町地域交流センター鰐come(ワニカム)』に到着。

今回購入したさっパスは、中央弘前~大鰐の往復乗車券にここの日帰り温泉がセットになったもの。フロントで入浴券を渡し、さらに付いてくる200円のお買物券で貸しタオルも借り大浴場へと向かいます。

じつはここ、同じきっぷを使い10年前にも訪れた場所。開湯800年の歴史をもつという大鰐の湯は無色透明でさっぱりとしており、その熱めの温度も相まって汗をかいたあとにはすっきりとした湯上りを愉しめます。

8月上旬夏の津軽大鰐町地域交流センター鰐comeワニカム併設のお食事処花りんごで味わう湯上りのビールとお通しの大鰐温泉もやしのお浸し
暑い夏に熱い湯も良いものだ。気持ちのよい汗を流した後は、併設されたお食事処花りんごへ。何はともあれ、まずは冷たいビールで味わう湯上りの至福。お通しには、地元名産の大鰐温泉もやしを使ったお浸し。もうこれだけで、大鰐までやってきた甲斐がある。

8月上旬夏の津軽大鰐町地域交流センター鰐comeワニカムお食事処花りんご本日のおすすめ大鰐温泉もやし入り温玉肉みそラーメン
温泉熱を利用し、驚くほど長くそして細く成長する大鰐温泉もやし。その見た目からは想像できないじゃっきじゃきの食感と濃い豆の風味を噛みしめていると、注文した温玉肉みそラーメンが運ばれてきます。

まずはおいしそうな香りを漂わせるスープから。こちらのお店では地元の味噌を使用しているそうで、それも温泉熱を利用して醸造されたもの。コクと旨味の詰まった味噌は奥深く、そこに香る生姜がまた青森らしくて心地いい。

麺は、みそラーメンにしては珍しい細めの縮れ麺。濃すぎないスープとの相性もよく、するすると啜れば麺とおつゆがちょうど良いバランスで口へとすべり込む。

具には脂の甘味がおいしい豚バラと、わかめにメンマ。そしてやっぱりそこでも存在感を放つ、大鰐温泉もやし。途中で温泉卵を割ればまろやかさが全体に広がり、旨い旨いとあっという間に一滴残さず平らげてしまいます。

そしてふと思い出す、あの夏のこと。そういえば、前回ももやしみそラーメンを食べた気がする。

十年ひと昔、僕の嗜好は変わってないのか。悪く言えば、冒険しない。だが良く言えば、一貫している。我ながらなんだかなぁと苦笑しつつ、冷房の効いた大広間で食後の微睡へと落ちてゆくのでした。

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