2月上旬、東京駅。これから僕は、雪を求めて北へと旅立つ。それなのに、はやくもこんな冬景色を目にすることになろうとは。
昨日から降りはじめた雪は今朝から勢いを増し、赤レンガ駅舎もすっかり雪化粧。半世紀近く東京で生きてきて、初めて目にしたこの情景。モノクロームのなか佇む、重厚なレンガ色。あらためて、この建築美に恋をしてしまう。

案の定、東京までの道中は危なっかしいものに。遅れつつも動いてくれている電車に感謝しつつ都心に向かい、比較的影響の少ないであろう地下鉄まわりに急遽変更。駅に着いた時には中央線は止まっていたため、予定どおりのルートを選んでいたらと思うとぞっとする。
そうしてようやくたどり着いた東京駅、行先表示を見ると東北新幹線も遅延の文字。予約していた送迎バスには間に合わなそうなので、宿に電話し一本後に変更をお願い。こうして無事岩手入りできる目処がたち、いつもより若干すいている駅弁屋祭でお昼を仕入れます。

やまびこ号は、15分ほど遅れて東京を出発。とにもかくにも、無事に乗れて本当によかった。そう安堵の息を吐きつつ、冷たい金星で旅立ちの祝杯を。流れゆく丸の内のビル群も、並走する中央線も。見慣れたはずの光景が、雪をまとうだけで見知らぬ景色に映るから不思議なもの。

いつもの灰色が雪化粧で隠された街を食い入るように見つめていると、新幹線は荒川を渡り無事東京脱出。いつもは日常からの開放という、心理的な意味で使っているこの言葉。でも今日は、本当に物理的な脱出だった。ここまでの行程立て直しから変更の手配まで、すばやく決断した自分えらいぞ。

黒ラベルをぐいっと飲み干したところで、お待ちかねの駅弁を開けることに。毎度のことながら何にしようかと悩みましたが、今回は以前食べておいしかった一関は斎藤松月堂の金格ハンバーグと牛あぶり焼き弁当を購入。3時半起きの空腹には、この肉感はたまらんのです。

この駅弁は同じく一関の会社、熟成肉を手がける門崎とのコラボ。一関や東京で格之進というお店を運営しているそうで、中央に鎮座するハンバーグはそのお店のブランドのもの。
期待に胸を弾ませつつ、まずはその大きな肉塊をがぶり。うん、やっぱり旨い!畜産王国岩手の誇る白金豚と国産牛を使用しているそうで、凝縮感がありながらじゅんわりと染みだす肉汁がたまらない。
さらに驚くのが、その旨味の濃さ。ソースはかかっていませんが、そのままで十分、いや、そのままがいいと思える肉感。必要十分なシンプルな味付けが、牛や豚の良い部分をたっぷりと引き出してくれている。
まわりに敷かれているのは、門崎の熟成肉を使ったという牛あぶり焼き。ちょうど良い塩梅の甘辛味をお肉がぎゅっとホールドし、ご飯とともに噛みしめれば思わず笑みがこぼれてしまう。
左上に隠れるようにして詰められているのは、ほんのり山椒の薫る特製牛スジ煮込み。ほろほろぷるりとした肉には牛ならではの甘味と旨味が存分に込められ、これまた白いご飯の最良の友。
分厚いハンバーグをがぶりと喰らい、ご飯をいって今度はあぶり焼き。そんな幸せな往復に緩急をつけてくれる、きのこのソテーや野沢菜炒め、塩昆布といった副菜たち。

冷めていてこの旨さだもんな。普段あまり肉弁を食べない僕ですが、期待どおりの味わいにうまいうまいとあっという間に完食。満足なこころもちでやまびこ号に揺られていると、車窓には雪景色の先に姿を滲ませる日光の山並み。

E5系は速度を上げて関東から東北入り。北上するにつれて雪は薄くなり、ついには消えてしまった。季節を遡ったのか、はたまた追い越してしまったのか。そんな不思議な感覚に揺蕩っていると、枯色の田園の先にゆったりと横たわる栗駒山。去年の3月、彼の地で過ごしたあたたかい旅の想い出がよみがえる。

一ノ関を過ぎても車窓には白さが戻らず、帰りに寄る予定の平泉の雪景色はあきらめモードに。まあでも、それもいい。今年の冬の情景を刻もうと眺めていると、北上の手前からふたたび雪景色が復活。

季節を行ったり来たりするかのような車窓の変遷を愉しんでいると、やまびこ号は新花巻に定刻で到着。さすがは320㎞/hをほこる韋駄天E5。いつもならジョギング程度で駆けるやまびこ行路にちょっとばかり本気を出し、15分の遅れなどすっかり取り戻してしまったよ。

遅れをそのまま引きずると思い予約を変更したので、新花巻で思いがけずのんびりお買い物タイム。二晩のお供や明日のお昼をじっくり選び、よき時間になったところでやってきた宿泊者専用の無料送迎シャトルバスに乗車します。

新花巻を出たバスは市街地を抜け、のどかさと比例するかのように雪深さも増してゆく車窓。雲に姿を隠す夕刻の西日、そのか弱い光に照らされシルエットとなる屋敷林。いつ訪れても、岩手を包む独特なうつくしさには言葉をなくす。
だんだんと色味を失いゆく、幻想的な情景。もうまもなくはじまる岩手での穏やかな時間に思いを馳せ、刻一刻と移ろう景色をただただ無心で追いつづけるのでした。


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