和洋の旧館が並ぶ元町地区を後にし、日が落ち始めた海沿いを駅を目指して歩きます。時刻はまだ4時前。ですが冬の夜はもうすぐやってきます。金森の赤レンガも、心なしか少しだけ寂しそう。
夜が更けるまで現地を存分に楽しめるのが、夜行列車の旅のいいところ。まだまだ最後の宴を始めるには早い時間なので、赤レンガの中にある『函館ビヤホール』を覗いてみることに。
地ビール館に来たらまずはやっぱりビールを。函館赤レンガビールを注文。苦味、甘味、コク、香りのバランスがとても良く、僕好みの美味しい地ビール。地ビールにありがちな変なクセも感じず、この後がなければいくらでも飲んでしまいそう。
ビールのお供に注文したのが、道産チューリンガーというソーセージ。中には歯ごたえ感じる粗挽きのお肉と共にジューシーな肉汁が詰まっています。
本当はここもお昼ご飯の候補に挙がっていた一箇所。今回は3時のおやつ(おビール!?)だったのでこれで抑えましたが、重厚なレンガ造りの内装の中、美味しい地ビールと共にいろいろと楽しんでみたい、そんなお店でした。
ソーセージをつまみにビールを2杯飲み、ほんの少しだけ良い気分で外に出ると、辺りは夕景へと変わりつつありました。
明かりが目立ち始めたレンガ造りと岸壁、後ろには函館山の姿。今度はいつ来ることができるのだろうか。そんな思いを抱きつつ、この函館の詰まった景色を目に焼き付けます。
金森倉庫群から駅方面へ歩くと、倉庫とはまた違う目を引く建物が。はこだて明治館というショッピングモールとして使われているこの建物は、旧函館郵便局のもの。
これが建てられたのは丁度100年前、1911年だそうで、以来明治、大正、昭和、平成と4時代を見つめ続けてきた歴史の生き証人。レトロ風建築では絶対に出せない、重厚で渋い本物の表情が滲み出ています。
北の港町独特の雰囲気を持つベイエリアを後にし、いよいよこの旅最後の宴へ。今回お邪魔したのは、朝市近くにある『海光房』。カニと魚卸の直営店だそうです。
このお店は当日までまったくのノーマークで、朝市をブラブラしているときに偶然見つけたお店。駅からも近いので、北斗星の時間まで安心して飲めるのもあり、入ってみることにしました。
まずはお通しの3品。かにのほぐし身はお通しとは思えないほど入っており、ジューシーさと旨味もしっかりあり、充分満足。くじらベーコンはネギとごまで和えてあり、日本酒と抜群の相性。
魚のモツ(種類は忘れちゃいました)は歯ごたえが良く、添えられたしょうがと一緒に爽やかあっさりいただけます。
奥に写るのはお店からのサービス、アラ煮。くどい甘さがなくシンプルに煮付けられたアラは、魚の旨さがダイレクトに伝わります
これ、もう一度言いますが、お通しです。僕はこれだけで日本酒四合瓶1本はいく自信があります。
日本酒党としてすぐ目が行ってしまった、山わさびガゴメ昆布しょう油漬け。
北海道ではポピュラーな食べ物山わさびは、西洋わさびやホースラディッシュと呼ばれ、ローストビーフに添えられているものといえば、すぐ分かるでしょうか。
僕は小さい頃からこの山わさびが大好きで、おろした山わさびを熱々のご飯に載せ、しょう油をちょろっと垂らせば天国にも上るかのような美味しさ。
そんな僕の大好物の山わさびを刻んだものに、函館名産のネバネバなガゴメ昆布を合わせてしょう油漬けにする。もう日本酒に合わないわけがありません。悩殺物です。
続いてこちらも小さい頃からの好物、にしん漬け。大ぶりに切られた大根とキャベツと一緒に身欠き鰊を麹で漬けたもので、なんとも言えない程よい酸味と、鰊から滲み出す深い旨味が絶妙な郷土料理。
東京ではあまりなじみの無い魚の漬物ですが、北海道ではこのにしん漬けの他にも、鮭など様々な食材を使ったはさみ漬けもよく食べられており、どれも僕の大好物。魚から出た旨味を野菜がしっかり吸い込み、唯一無二の旨さを醸しています。
このにしん漬けも例外でなく、シャキッとした大根やきゃべつの隅々までにしんの香りと旨味、麹の風味が行き渡り、噛めばそれぞれの持つ旨さが融合したエキスが溢れ出てきます。
魚の苦手な方にはお勧めしませんが、魚好きには本当にお勧め。飯寿司のような馴れ寿司でもないので、魚の麹漬け初心者でも食べやすいのではないでしょうか。北海道へ行かれる際には、一度お試しあれ。
続いては北海道と言えば、の蟹。一杯を頼もうかとも思っていたのですが、剥くのも面倒だし、昨晩も美味しい蟹を食べたのでまぁいいかな、ということで注文したのが、毛がに甲羅。
毛がにの身を丁寧にほぐしたものを、味噌がたっぷり詰まった毛がにの甲羅に載せ、炭火で温めたもの。このボリュームで1000円切っちゃっています。
毛がには剥くのが難しいので、自分で剥く際のロスを考えると、とってもお得。手を汚さず旨いとこ取りです。
ほぐし身なので寄せ集めかなぁ、なんて心配していたのですが、しっかりした身がたっぷり載っています。毛がに特有の甘いエキスを持った身は想像以上にジューシーで、本当に剥きたての感覚。
毛がにの身上ともいえる濃厚で甘味の強い味噌も、何の臭みもなく新鮮そのもの。身と味噌を絡めて頬張れば、説明不要、最強の旨さ。
さすがはカニ問屋直営。このカニをこのお値段で出せるのは、函館ならではなのでしょうか。2人してお世辞抜きに仰天しました。
こちらはホタテ貝焼き。見ての通りのシンプルなホタテ焼きです。ホタテはMとLがありましたが、これでMサイズ。
新鮮だからできるミディアムレアーの大ぶりな身を噛めば、ブリッ!とした食感と共に磯の香り旨味が広がります。
シンプルイズザベスト、なんだかんだ言って、ホタテはこの食べ方が一番好きかも。ひもも卵も、ぜーんぶまとめて美味しくいただける、シンプルかつ最高な調理法だと思います。だからこそ、鮮度の良さが光る逸品。
これ以外にも数品おつまみを頼み、純米冷酒も何本か覚えていないほど飲み、飲んで食っての大満足な時間を過ごしました。
そして驚いたのがお会計。最初レジに表示されたのが9千幾らでした。それでも飲んだお酒の量を考えたらえっ?と思う安さだったのですが、クーポン利用で最初のビールが無料になったので、なんとお会計は8千円台。
これを高いか安いか、どう思うかは価値観それぞれでしょうが、少なくとも東京、いや、札幌でもこんな値段で納まるはずの無い内容でした。この旅で思い残すことなし。本当に大満足。
お昼のまるかつ水産といい、こちらのお店といい、函館は「本当に」安くて美味しいものが食べられる街なのだと、なんだか底力を見たような気がします。できることならばもっと函館に通い、函館を食べつくしたい!そう強く思いました。
旨い魚と旨い酒ですっかり上機嫌になった僕。刻一刻と近付く北海道との別れの瞬間を振り切るかのように、冷たい風の中夜道を歩くのでした。
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