そろそろ陽も西に傾いてきた頃、中禅寺湖を離れなければならない時間になりました。
いろは坂を通るバスは、ご覧のような観光バスのような形。急カーブの連続なので、全員着席しなければなりません。なので、定員をオーバーしてしまうと、いくら乗りたくても乗れません。中禅寺湖より手前から乗車してくる人も多いので、帰りの電車には余裕を持ってバスを待ったほうが無難です。
帰りは東武日光駅までは乗車せず、途中の神橋バス停で下車。電車までまだ時間があるので、日光の大通りをのんびり歩いてみることにします。
神橋バス停の目の前に立つ、お土産屋兼食堂。いかにここが古くからの観光地であるかが窺えます。こんな建物がさりげなく建っているのもすばらしい。
すぐ隣にあるのが、日本三大奇橋のひとつ、神橋。二荒山神社への参道として奈良時代に掛けられ、江戸時代以降変わらない伝統的な工法で架けられた木橋です。現在のものは明治時代に架けられたものだそう。
この渓谷に、この大きさで木の橋が掛かっているということも驚きですが、やはり目を引くのがその美しさ。欄干の朱塗りと、下の黒漆の対比がとてもいい。渓谷の緑と川の青に、いい締りを与えています。
別の角度から眺めると、ちょうど西に傾いた夕日が後光のように輝いています。二荒山神社へ通ずる、特別な橋。神橋はその名の通り、日光の神々の通り道のような、美しい姿を見せてくれました。
日光杉並木から続く、古くからの参道であったであろう大通りを、駅へと向かいます。沿道には古い商店が軒を連ねており、蔵風から洋館風まで様々。ここがこのように舗装されるよりもずっと前から、今と同じように東照宮や中禅寺湖へと人々を通していたのでしょう。
名残を惜しみつつも、日光を離れなければなりません。下今市で、浅草行きのスペーシアきぬ号に乗り換えです。
この車内に乗り込めば、あとは帰るだけ。何度旅をしても、この東京へ向かう列車に乗る瞬間は、躊躇してしまうものです。それだけその旅が充実したいいものだった、という証拠です。
暮れ行く下野の地を、着実に現実の世界へと僕を運ぶ列車。その中で最後の夢のひと時をと思い、日光の酒屋さんで仕入れた地酒ワンカップを握ります。
栃木は佐野で造られた、特別純米原酒開華みがき。飲み口はずっしりと重く、コクと味わいの濃いタイプのお酒。クイッといくのではなく、繰り返される鉄路の響きと共に、少しずつ、ちびりちびりとやりたい、そんなお酒。
ちょうどお腹が減ったところなので、東武日光駅で駅弁を仕入れました。栃木牛めし弁当、950円。立派な箱に詰められています。
蓋を開けると、まず目に飛び込むのが大きなお肉。牛めしと書いていたので、よくある細切れのようなお肉が載ったものを想像していました。
すき焼き肉のような大きなお肉に覆われたご飯には、しっかりとタレと肉汁が染み込んでいます。味付けはお弁当にしては薄め。硬くて甘辛い牛めしが好きではない僕にとっては、かなりの嬉しい誤算。
一緒に付いている温泉卵を割り、柔らかい大きなお肉に絡めてご飯を包めば、もう言うことありません。丁度良い味付けなので、最後まで飽きずに食べることができます。
この内容で1000円を切る、牛めし弁当の類では優等生ではないでしょうか。ワンカップも忘れて、一気に食べてしまいました。
東照宮の極彩色に始まり、華厳の滝、紅葉に彩られた中禅寺湖、神橋と、日光の美しい色彩を辿った旅。長い時間を掛け、自然と人が作った色彩が溶け合うこの場所は、目だけではなく、心も刺激してくれます。
同じ関東と言えど、まだまだ知らない場所、知らない景色がたくさんある、そう再認識させてくれる、そんな旅。近場でも敢えて一泊、時間を掛けてこそ味わえる贅沢さが、そこにはありました。
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