羽田空港を発ち、途中空港や駅でお土産を見たりしながら3時間。気づけばあっという間に、北の都札幌に到着。飛行機の速さを改めて実感しつつ駅の外に出てみれば、すぐさま甦るあの感覚。
そう、北海道は冷たいんだよな。寒いというよりも、冷凍庫の中にいるような感覚。それは頬を刺すようなものだけれど、体の芯から冷えるような感じではない。温かい服装をしていることも理由のひとつかもしれないが、僕はからっ風吹きすさぶ東京の、底冷えする寒さの方がほんとに苦手。
そしてもうひとつ思い出すのが、つるんつるんの雪道の歩き方。重心を前に置き、ベタ足で。多分いま僕は、他人から見たらペンギンのようだろう。ぎこちない歩き方で札幌駅前の道をまっすぐ西へと進むこと20分足らず、今宵の宿である『ホテルルートイン札幌北四条』に到着。
早速チェックインしお部屋へ。ここは駅や繁華街から少々遠い分、このときはかなりありがたいお値打ち価格。無料の朝食も付いており、地下には大きな湯船の大浴場も。本当にこのお値段でいいのかと、ちょっと申し訳なくなってくる。
荷物をおろし身軽になったところで、札幌の街へと繰り出すことに。ホテルの横の道を南下してゆくと、歴史を感じさせる重厚な建物が。この札幌市資料館は、かつて控訴院として建てられたもの。建材には札幌軟石が使われているそうで、100年近く重ねてきた時の厚みがその佇まいから滲むよう。
石材の渋い色味と、純白の雪。札幌らしい情感を噛みしめていると、足元からガサガサ、ゴソゴソと音が。何かとかがんで見てみれば、冬に渡ってくるかわいいつぐみが。
延々と続く大通り公園の西端に位置する札幌市資料館。遠くに見えるテレビ塔の煌めきもさることながら、誰も足を踏み入れない公園に積もった雪の分厚さに圧倒される。
ここからは針路を東へと変え、大通公園沿いに歩いてゆくことに。道路を挟んで反対、街側の歩道を歩けば雪も少なく歩きやすい。でも久々に冬の北の大地を訪れることのできた僕は、このもっさりとした雪道が嬉しくて仕方がない。
そんな悠長なことを言っていられるのも、僕が観光客だから。北の都の冬の厳しさに思いを馳せつつ歩いてゆくと、公園内のあちらこちらで雪まつりに向け準備を進める様子が目に入ります。
雪が積もって歩きやすいかと思えば、ときおりその下に踏み固められた氷が隠れている。滑ってこけないように慎重に歩き、すすきの近くまで到達。正面にはイルミネーションが散りばめられたテレビ塔が聳え、凛とした空気の中の瞬きは北都に輝く宝石のよう。
久々の雪道歩きを満喫すること30分、少々早めながら今宵の宴を始めることに。札幌での夜は、絶対にお寿司と決めていた今回の旅。行ってみたい回転寿司がいくつかある中で、せっかくなら東京に店舗がないお店をと『回転寿司活一鮮』にお邪魔してみることに。
すすきののど真ん中、観覧車のあるビルの地下1階に位置するという好立地。土曜日のため少し待つかなと覚悟しましたが、17時という早めの時間が功を奏してかすぐに席に通されます。
まずは冷たいクラシックで祝杯を。どれを食べようかとタッチパネルとにらめっこしつつ、早速いくつか注文。ちなみに北海道の生寿司はしゃりが大きいことが多いようですが、こちらではしゃり小さめを選べるのが呑兵衛には嬉しいところ。満腹では、酒の旨さが半減してしまうのです。
まずは北海道とまりカブトサーモンを。日本海で養殖されたというトラウトサーモンは、2年前に初めて水揚げされたという新しいブランドだそう。
見るからにしっとりとした身はきめ細かな舌触りで、ふんだんに込められた旨味の濃さに驚き。脂ではなく、サーモンの味わいで勝負。そんな上品ながら濃ゆい旨さに、しょっぱなから北海道にKO負け。
続いては、冬の北海道へとやってきたら絶対に食べたい白身。天然活〆寒ぞいはこりっともちっとした食感で、噛めばじんわりとした滋味深さが広がります。
こちらのお店では、北海道の地酒が選べるのも嬉しいところ。もうすっかり本調子、きりりと旨い北国の酒片手に今度は宗谷産の活たこを味わいます。プリッとした吸盤、歯ごたえがありつつもとろりと海の旨味が詰まった半透明の身。やっぱりたこは、北海道が一番だと思う。
そしてついに歓喜の瞬間が。貝類のなかで、僕が一番好きなつぶ。厚岸産活つぶはゴリっとした歯ごたえが嬉しく、ボリボリと噛めば噛むほど磯の香りと旨味が広がってゆく至福の旨さ。きっとこのとき、僕は不審者だったに違いない。旨いなぁ、やっぱり旨いなぁ、なんて独り言が出ていたと思う。
冬の北海道といえば、やっぱり食べたいかき。サロマ産かき軍艦は、小ぶりながら存分に詰まった旨味がインパクト大。口の中で旨味を放出しほどけてゆく様に、思わず目をつぶり余韻に浸ってしまう。
あれもこれも、みんな旨そうなネタばかり。嬉しい悩みに頭を抱えつつ、続いて注文したのは厳選たらこ。しっとりとしたシルキーな食感とともに広がる、濃醇なたらこの風味と旨味。これまで出逢ったことのない濃厚さに、北国の酒が止まらない。
しゃり小さめとはいえ、そろそろ着陸態勢に入らねば。道産のネタがたくさんある中で、迷いつつもこれまた大好物の真たち軍艦を。頬張った瞬間、口中に溢れる白子の洪水。くせのない極上のクリーミーさは、この物体が辛うじて表面張力で成り立っているのではと思えてくるほど。
至極の宴も、ついに〆を迎えることに。ひと口でお気に入りとなったカブトサーモンをおかわりし、この好物2品で締めくくります。道東産の塩水うには、とろりと広がる旨味と甘味が堪らない。
そして大好物の筋子醤油漬けで有終の美を。口へと運んだ瞬間、僕はもう嬉しくて仕方がなかった。
僕は子供のころからいくらよりも断然すじこ派。旨味の凝縮された卵本体もさることながら、旨いすじこは膜まで旨い。つぶつぶと弾ける卵をまとめる、旨味をまとう膜のねっとりとした濃厚さ。この豊潤な旨さの塊、もうすじこの良さが爆発してしまっている。
いやぁ、旨かった。やっぱり北海道は、冬だな。この時期ならではの海の恵みを存分に味わい、いい時期に来ることのできた歓びを心の底から嚙みしめるのでした。
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