あぁ、旨かった!活一鮮でお寿司1時間一本勝負を満喫し、大満足でお店を後にします。目と鼻の先に位置する狸小路商店街で早くも旅のお土産を仕入れ、宅急便で東京へ。手荷物を預けるのが面倒な僕にとって、飛行機での旅はやっぱりお土産直送が身軽でいい。
あとはもう、自分のためだけに本能の赴くまま楽しむのみ。さすがは土曜日の19時前、すすきのの交差点は地元の方や観光客で大賑わい。氷点下の北の都を見守るヒゲのおじさんも、この活気にどことなく嬉しそう。
久々の再会となるヒゲのおじさんにご挨拶を終え、札幌の名所のひとつである元祖さっぽろラーメン横丁へ。この前を通ったことは何度もありますが、訪れるのは実は初めて。
様々なタイプのラーメン屋さんが軒を連ねる、狭い横丁。凛と冷たい空気が街を支配する中、ここだけぽつんと異様な熱気に包まれる。横丁ならではの、この雰囲気だけでも楽しくなる。
おじいちゃん、お夕飯はもう食べたでしょ。そう言われそうですが、活一鮮でしゃり小さめを選べると知った瞬間、僕の悪巧みはすでに始動していたのです。
札幌にいられるのは、明日の10時過ぎまで。朝から味噌ラーメンを食べられるお店はなさそうだったので、今日のうちに食べておきたいと『天鳳』にお邪魔してみることに。
席に着いたときには先客が1組だったのに、あれよあれよ言う間に外にも列が。いいタイミングで入れたな、なんてホッとしていると注文したみそラーメンが到着。
まずは見るからに穏やかな色味をしたスープから。うわぁ、優しく染みるタイプのやつだ。特大サイズの鍋で仕込むというスープは、豚骨ながら全くクセがない。そんな優しいスープにまろやかな味噌が溶け合い、するすると飲めてしまうような柔らかい表情をしています。
続いては、札幌といえばの西山製麺の麺を。黄色く縮れた麺は、ぷりっともちっと、そしてコシもある魅惑の食感。絶妙な太さと縮れが、スープを絶妙な塩梅で口へと連れてきます。
ひと口目はだいぶ優しい印象ながら、食べ進めるごとにだんだんとじわじわ旨さが胸に沁みてくる。途中で載せられたしょうがを溶かしたり、一味をぴりりときかせたり。無駄に濃すぎないからこその表情の変化も愉しみつつ、気づけばあっという間に平らげてしまいました。
さすがにお腹はもうパンパン。でも、お寿司とラーメンはしごしてよかった。じんわりと滋味深い味噌の温もりの余韻に抱かれ、腹ごなしにと夜の札幌を散策することに。
大きなカニの看板やネオンの煌めく月寒通を東へと進み、雪に埋もれた川沿いへ。この創成川は、幕末に開削された水路が基となる人工河川。灌漑や防火帯、船運と様々な形で札幌の発展を支えてきました。
碁盤の目に整備された札幌の街。ここ創成川を境に街の東西が分けられ、この先にのびる大通公園が南北の境に。最初はなじめない信号に掲げられた交差点名も、座標だと思えば意外と分かりやすい。
創成川から始まり西へとのびる狸小路の反対には、ひっそりと佇む夜の二条市場。いくつか営業している居酒屋さん以外は、明朝の活気に備え寝静まっています。
先へと進むと、雪に埋もれつつ金色の擬宝珠を輝かせる古豪の姿。この創成橋は、1910年に架けられて以来110年以上もの間札幌の交通を支え続けている現役の石橋。
今歩いている創成川公園一帯は、周辺道路の再構築に伴い整備されたもの。創成橋もその際に解体、復元されたそうで、その袂にはかつてこの地が北海道の道路の起点であったことを示す北海道里程元標が建てられています。
札幌、そして北海道の開拓の起点となった地に別れを告げ、雪の積もる遊歩道をさらに北へ。すると先ほどまで上半身だけ見えていたさっぽろテレビ塔が、足元からその優美な姿を惜しげもなく魅せてくれるように。
雪の積もる常緑樹の醸し出す天然のクリスマスツリー感に見とれつつ、テレビ塔の下をくぐり大通り公園へ。頬を刺す凛と冷たい清浄な夜風が、イルミネーションの輝きを一層際立たせる。
東京タワーの完成する1年前、同じ設計者の手により生を享けたさっぽろテレビ塔。大通公園の始端に建つこと67年、札幌の街の変遷と発展を見守り続けています。
西13丁目から始まり、すすきのや創成川を経てテレビ塔の建つ西1丁目まで。雪に覆われた冬の大通り公園をぐるりと一周し、そろそろホテルへと戻ることに。
東西南北、碁盤の目状に整備された札幌の街は迷わずに歩きやすい。来た道を引き返すのではおもしろくないと適当に歩いてゆくと、交差点でひときわ目を引く重厚な建物が。この旧北海道庁立図書館は、現在は北菓楼の店舗として使われているそう。もうすぐ築100年、今度は営業時間中に来てみたい。
その突き当りには、札幌、いや、北海道の象徴ともいえる北海道庁の赤れんが庁舎。建てられてから140年近く、現在は3年間にわたる修復工事の真っ最中。
前回訪れたときよりも真新しいビルが増えつつも、代謝する街の中で古いものがきちんと残され活き続けている。やっぱり札幌は、いつ来ても札幌だな。僕の好きな街の変わらぬ味に、雪を踏みしめつつの帰路すら嬉しくなる。
車道との間に壁のように雪の積もる歩道を歩いてゆくと、街中で一画だけしんと静まり返る北大植物園。敷地内には様々なな古い建物が残されているそうで、今度はグリーンシーズンに訪れてみなければ。
今でこそビルが建ち並ぶ200万都市となった札幌も、たった百数十年前まではこんな建物ばかりだったのだろう。よくぞこの場所にこんな大都市が生み出されたものだ。雪の積もる木造の小屋の姿に、毎度のことながらそんな感嘆の声をもらしてしまう。
久しぶりの冬の札幌を満喫し、転ぶことなく無事帰還。体の芯まで冷えてはないが、やはり氷点下の夜風は冷たい。早速地下の大浴場に向かい、温かい人工温泉で全身を解凍。赤くなった頬や慣れぬ雪道で強張った筋肉もほぐされたところで、部屋で宴の続きを始めることに。
今日は早めに行動を開始したからか、これだけ歩いてお風呂に浸かってもまだ21時過ぎ。札幌の夜は今宵限り。そんな貴重な一夜の幕開けにと選んだのは、旭川の高砂酒造が醸す法螺吹純米酒。日本酒らしさがきりっと薫りつつも、飲み進めてゆくとふくよかな甘味があり角を感じなくなってゆく旨い酒。
続いて開けるのは同じく旭川の合同酒精、大雪乃蔵純米生貯蔵酒。すっきりきりっとした辛口ながら、さっとひいてゆくような軽やかな飲み心地が北国らしい。
冬の札幌は15年ぶりなのに、全くそんな気がしない。到着してから6時間足らず、あっという間に感覚を取り戻してしまった。
やっぱり北海道は、冬がいい。北の大地の水の鮮烈さを感じさせる、辛口の旨い酒。それをちびりとやりつつ、窓辺から眺める銀世界。どれだけビルが増えようとも、この清らかな白さと冷たさはずっと在り続けてほしい。久々に身を置く、北の都の凛とした夜。その気高さに、心の底から染められてゆくのでした。
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