内宮から巨大なおみやげセンターを経てのんびり歩き、宇治山田駅に到着。今から93年前に誕生した、当時としては珍しい高架の駅。お伊勢さんの玄関口、そして参宮急行電鉄の終着駅として建築されたターミナルは、見る者を圧倒する威風堂々たる佇まいをしています。
緻密なタイル張りやスペイン瓦といった外観もさることながら、開業以来幾多もの参拝者を迎え送り出してきたコンコースに漂う重厚感もまた圧巻。私鉄国鉄問わず古くから遺されたターミナルには、当時の鉄道に託された希望と重責が必ずと言っていいほど込められている。
この駅と対峙するのは三度目ですが、毎回その風格に圧倒されてしまう。凛とした正しいターミナルの世界観を胸へと刻み、いざホームへ。リベットの多用された鉄骨組にこれまた歴史を感じていると、僕にとっての近鉄特急の顔であるビスタEXが入線。
本当に、近鉄特急は華やかで端整だ。僕の子供のころ、電車の本に近鉄特急のフラッグシップとして載っていたビスタカーⅢ世。その時から2度のリニューアルを経て塗色も変わったけれど、2階建て車両の放つ気高さは決して失われることなく今なお輝きに満ちている。
近鉄特急の放つ気位の余韻に浸っていると、僕らの乗る名古屋行きの急行が到着。この近鉄らしさ溢れる顔も、しばらく見納めか。2日間で3回乗車し、すっかり近鉄好きになってしまった。
帰りもLCカーかなと思いきや、後ろに連結されていたのは近鉄としては珍しい3扉の5200系。急行兼団体用として生まれた車両は、広い窓と掛け心地の良い転換クロスシートが特長。ゆったりと腰掛けコク深い神都麦酒をプシュッとやれば、関西の私鉄のクオリティの高さに惚れ惚れしてしまう。
宇治山田から快適な近鉄旅を味わうこと1時間48分、名古屋に到着。地下鉄東山線に乗り換え、今宵の宿のある栄駅へ。名古屋テレビ塔との6年ぶりの再会に、サラリーマンとしてゴールデンウイークを満喫していたあの日々が甦る。
そんな時代もあったねと懐かしみつつ、駅直結と言っていいほどの近さにある『コンフォートイン名古屋栄駅前』へ。去年の12月にできたばかりというホテルは真新しさと清潔感に満ち、快適な滞在を叶えてくれます。
ホテルでひと息つき、今宵の酒場の目星をつけたところで街ぶらへ。夕刻を迎え輝きを増した栄の街に、改めて名古屋へと来たという実感が強まります。
大通りやデパ地下をぶらぶら歩き、良き時間になったところで『だし料理個室ダイニング せいりき家栄錦店』へとお邪魔します。
志摩で明治時代から続く鰹節問屋の直営というこのお店は、鰹出汁を活かした料理がメイン。ということでまずは、だし家の出汁巻きたまごを頂きます。
もうこれ、辛うじて形状を保っているけれど驚くほどのふるとろ感。もはや茶碗蒸しではと思えるほど柔らかく、口に入れた瞬間だしの豊潤な味わいがぶわっと広がります。ちょっとこれ、旨いわぁ。
続いて運ばれてきた、熱々の2品。揚げたこ焼き明石風は、ふわとろの揚げたこ焼きにじゅんわりと浸みた上品なだしが至福の味わい。本当にここのおだし、旨味と風味が濃い。
黄金手羽先唐揚げはその艶やかな見た目通り、パリッとした食感。しっかりと肉付きの良い身の旨味とちょうど良い塩梅の甘辛味に、三重の地酒作がどんどん進んでしまう。
おいしい日本酒に合わせるため、お造り三種盛りも注文。瑞々しいまぐろに、身が締まり程よく脂ののったかんぱち。ひらめとそのえんがわも旨味が濃く、作との相性もバッチリ。
さらに続けて注文したのが、あおさ海苔天ぷら。全く知りませんでしたが、三重は日本一のあおさの産地なのだそう。
さくっと揚げられた天ぷらを塩節にちょんとつけて頬張れば、ふわっと薫る海の豊かさ。磯の香りや旨味とお茶のような心地よいほろ苦さに、作が吞んでくれと訴えてくる。
他にもいろいろおいしそうなメニューがありましたが、名古屋に泊まるのは今夜だけ。だしの旨味に後ろ髪を引かれつつも、程よきところで切り上げはしご酒することに。
そして向かったのは、『世界の山ちゃん錦三大津店』。東京でもあちこち見かけますが、本場で初を迎えないとなんだか負けた気がするのでこれまで我慢していました。
矢場とんに続き、謎の負け理論でようやく本場で初入店を迎えた世界の山ちゃん。山ちゃんサワーをぐびっとやっていると、みそ串カツが運ばれてきます。本当に、名古屋の味噌はなんなんだよ。甘辛渋味のバランスが、グイっとこころを押してくる。
続いて、山ちゃんといえばの幻の手羽先を。風来坊とともに、太平洋フェリーでの想い出の味。ですが揚げたてを食べるのはこれが初めて。
こんがりと揚げられた手羽先はクリスピーな食感で、コショー辛い独特の味わいが堪らない。これはやっぱり、揚げたてがいい。軽やかな食感と熱々により引き立つ旨辛に、食べ進める手が止まらなくなる。
いやぁ、旨かった。ようやくこれで、気兼ねなく東京でもお店に行ける。近所の吉祥寺にも最近できたそうなので、宴の続きは東京で楽しむことを誓いお店を後にします。
さすがにお腹はいっぱい、腹ごなしに夜の栄の街を散策することに。そういえば、夜のテレビ塔を見るのは一体どれくらいぶりだろう。久しぶりに来てみたら、ずいぶんおしゃれな雰囲気になっていて驚き。
冬の煌めきが散りばめられた公園を進み、栄のランドマークであるオアシス21へ。様々な色に変化するライトアップ、その手前にあるオブジェ。インスタやってない僕だけど、たまには映え写真も撮ってみたくなる。多分、映えてないけど。
特徴的な大屋根へと登れば、足元に広がる幻想的な光景。水の宇宙船と名付けられた屋上はほんのりと下が透け、ゆらゆらと揺れる水面と移ろう光の色彩が独特の浮遊感を誘います。
現実感のない空間から望む、名古屋のシンボルテレビ塔。日本各地に点在する電波塔の長男として誕生して以来、70年もの間この地に根を張り聳え続けています。
久しぶりに泊まったけれど、やっぱり名古屋はいい。食べ物も、街の雰囲気も唯一無二。久々に夜の名古屋を満喫し、大満足で宿へと戻ります。
今日は本当に濃かったな。雨のお伊勢さんでその荘厳さに包まれ、三重や名古屋の味をたっぷり愉しみ。そんな一日を振り返りつつ飲む、三重の酒。半蔵のきりりとした旨さに、名古屋の夜は深まりゆくのでした。
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