木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 1日目 ②~ | 旅は未知連れ酔わな酒

木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら 1日目 ②~

10月上旬秋晴れの中央西線木曽福島駅 旅の宿

八王子から中央本線を辿ること3時間13分、木曽福島駅に到着。ここに降り立つのは1年半ぶり。前回の旅で初めて訪れ、その魅力にすっかり染まってしまった木曽路。今回はどんな出逢いが待っているのかと、浮足立った心持ちで改札を出ます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉
駅前のお土産やさんで夜のお供や明日のお昼を買いつつ待つことしばし、宿の送迎車が到着。事前にお願いしておけば、15:30位に木曽福島の駅まで迎えに来てくれます。

国道19号から御嶽方面へと続く県道に入り、王滝川のダム湖や遺された林鉄の橋脚を愛でつつ山を分け入ること約10分。これから2泊お世話になる『釜沼温泉大喜泉』に到着。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉和室6畳客室
帳場でチェックインの手続きを終え、いざ自室へ。今回予約したのは、ひとりでも泊まれる6畳の和室。まだリニューアルしてそれほど経っていないようで、きれいなトイレがお部屋についているのも嬉しいところ。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉窓の外に流れる王滝川の支流
外から聞こえてくる音に誘われ窓辺に立てば、目に飛び込むこの眺め。すぐ脇を王滝川の支流が流れ、涼やかな水音とともに爽やかな風を部屋へと届けてくれる。あぁ、ここに連泊できるなんて。この環境だけでも、日々のあれこれが洗われてゆく。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉濃厚な冷泉が満たされる半露天の大浴場
耳へと届く渓流の音にひとりにやけつつ、浴衣に着替えてさっそくお風呂へ。僕がこの宿を選んだ理由、それはこの個性的な冷泉に逢ってみたかったから。

まずは加温された源泉の満たされる、奥の大きい浴槽へ。うっすらと土色をしたにごり湯は、含二酸化炭素-カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩冷鉱泉。鉄や土っぽい香りが漂い、さらりとしながら肌にぴとっと吸い付くような浴感が印象的。

浸かってほんの少しじっとしていると、皮膚を通して体の芯へと伝わる圧。少々高めの湯温も手伝い、これは汗が出るまで浸かっていてはいけないやつだと直感。

長湯厳禁な力を感じる加温浴槽を離れ、温まった体を鎮めるべく手前の小さな源泉槽へ。足から入り、急激なショックを与えぬようゆっくりゆっくり沈んでゆく。源泉の温度は13℃。実際の浴槽内の温度はそれよりも高いとは思いますが、それでもおぉ冷たい!と思わず声が漏れるほど。

残暑も弱まりはじめたこの時期、ちょっと厳しいかな。水風呂が苦手な僕は、最初はそう思いました。そう、最初は。肩まで浸かり、呼吸を整える。すると不思議なことに、30秒ほど経ったある瞬間、体感に驚くほどの変化が。

それまで冷たいと感じていたのが嘘のように、皮膚が分厚い膜で覆われ遮断されているような感覚が。自分の持つ内側の熱が皮下に集結し、それが蓋をしてくれているような独特な感覚。このあと何度入っても、ある瞬間を境に冷たくなくなる。本当にこれは、不思議としか言いようがない。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉湯上りにTHE軽井沢ビールダーク
加温から冷泉へ。最初の片道であっという間にここの湯の持つ力に圧倒され、気づけば何往復も熱い冷たいを行ったり来たり。あ、もうそろそろ上がり時だな。そうふと思えたら湯浴みを終え、部屋へと戻り味わう至福の瞬間。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉飲み物は自己申告制のメモで、1本買うとおつまみ1袋サービス
こちらの宿には自販機はありませんが、ロビーにはビールやソフトドリンクの入った小さな冷蔵庫が。宿泊者は飲んだ分をメモし、チェックアウト時に精算。飲み物1本につきおつまみ1袋がもらえるのもちょっと嬉しい。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉湯上りにロビーに置かれた源泉を飲んでみる
浅間山の水で醸したという、THE軽井沢ビール。その濃くもすっと喉へと流れてゆく湯上りの至福を噛みしめ、畳に転がりちょっとばかりのうたた寝を。ふと目覚めたらまた湯屋へと向かい、癖になる温冷交互浴をただただ無心で味わうのみ。

二浴目にして、はやくも体も心もすっきりと軽くなったような感覚が。そんな湯力を体内からも味わおうと、ロビーに置かれた飲泉用の温泉水を飲んでみることに。

コップに注ぐと、ほんのり濁りのある微炭酸。入浴中の香りで味の想像はしていたので、恐る恐るちびりとひと口。うへぇ、鉄と土。何とも例えにくい味ですが、強いて表現するなら鉄瓶に半日ほど放置した炭酸水。いかにも効きそうなシュワシュワを、時間をかけて飲み干します。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉部屋から眺める夜闇に浮かぶ王滝川の支流入川の流れ
あれ?でもちょっと待って、すごいかも。温冷交互浴のおかげか、それとも飲泉の効果なのか。いずれにしてもこのお湯は、心地よくお腹を空かせてくれる。こんなに素直な空腹を感じるなんて、久しぶりかも。ぐぅと鳴るお腹を抱え、心身軽やかな状態で夕食の時を待ちわびます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食前菜
そして迎えた18時半、食堂に向かいお待ちかねの宴の始まり。食卓につくと、おいしそうな前菜が並べられています。

つるむらさきの胡麻和えは、心地よいぬめりや風味とごまの香ばしさが好相性。小松菜のわさびナムルは、ちょうど良い塩梅にふわっと香る爽やかさ。セロリの中華風炒めは自家製なのでしょうか、XO醤のしっかりとした旨味とセロリの香りの共演が堪らない。

秋の訪れを感じさせる柿の白和えは穏やかな味付けで、優しさに溢れる滋味深い味わい。茄子田楽には味噌がかけられ、まろやかな中に発酵食品ならではのコクが広がります。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉木曽の特別純米酒飲み比べ三種セット
野菜って、こんなにおいしかったっけ。もともと野菜は好きですが、味付けが絶妙なのでしょう、どれを食べても本当においしい。そんな宴のお供には、やっぱり欠かせない地酒。木曽の特別純米酒飲み比べ三種セットを注文し、あれこれ愉しむ悦びを噛みしめます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食椀物かぶと菊花のお吸い物
続いて運ばれてきたのは、かぶと菊花のお吸い物。まずはほんのり白く色づいたおだしから。うわぁ、だしが豊か。風味が強いというより、旨味に厚みがある。翌日の説明を聞いたところ、なんとこれ、先ほど飲んだ温泉水で作っているそう。お~い鉄と土~、どこ行った?

このときは温泉水とはつゆ知らず、沁みるわぁ~と呟きながらおだしを味わいかぶをひと口。中には鶏の真丈が射込まれており、かぶの瑞々しさとともに鶏の旨味が口いっぱいに溢れ出します。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食アマゴのお造り
五臓六腑に沁みわたるお吸い物に深いため息を漏らしていると、アマゴのお造りが運ばれてきます。そういえば、アマゴって食べた記憶がないかも。

この近くで養殖されたという、新鮮なアマゴ。艶やかな身にしょう油とわさびを付け、待望のひと口。ちょっとこれ、抜群に旨いやつ。もっちりとした身にはじんわりとした旨味が宿り、滋味深さとともに広がる上品な甘味は絶品のひと言。

そしてさらに木曽の酒を呑めと煽ってくるのが、一緒に添えられたなめろう。叩かれたことにより、さらにもっちりねっとりとした食感に。穏やかだった旨味が花開き、味噌がそれらをまとあげ最高のアテへと昇華させている。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食天ぷら
飲み比べセットはあっという間にどこかへと蒸発してしまい、木曽福島は七笑の特別純米酒を追加で注文。アマゴとのマリアージュに心酔していると、揚げたて熱々の天ぷらが。

甘いかぼちゃにほくほくのさつまいも、風味豊かなピーマンに瑞々しいズッキーニ。どれも薄衣でさっくりと揚げられており、岩塩をちょんとつければ素材の味わいをそのまま楽しめます。そして印象深かったのが、マコモダケ。ほくほくとした食感と甘味に、これまた七笑をぐいっといってしまう。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食信州豚のすき焼き
ここまででも十分満足ですが、さらにぐつぐつと煮えた信州豚のすき焼きが。甘すぎずのちょうど良い塩梅のつゆで煮られた豚を、生卵につけて。しっかりとした身質は赤身の旨味を感じ、白身の甘さとの好相性にどんどん箸が進みます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食生落花生ご飯
すき焼きの〆にとうどんが投入され、煮込まれる間に生落花生ご飯をスタンバイ。うどんが飴色になったところで、炭水化物の至福の共演。大ぶりの落花生はしゃっきり感がほどよく残り、噛めば楽しい食感とともに豊かな香りや甘味がぶわっと広がります。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉1泊目夕食信州産フルーツの梨と柿
HPを見て期待はしていましたが、献立の愉しさや素材を活かす味付けにもうすっかり惚れてしまった。そんな大満足な夕餉を締めくくる、信州産のフルーツ。梨と柿でさっぱりと秋を感じ、お腹も心もこれ以上ないほどに満たされ宴を終えます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夕食後に仰ぎ見る漆黒の夜空に瞬く星
夕食時にご主人が、今日は見えないかもしれませんがと言っていた星空。腹ごなしにと玄関から一歩踏み出せば、宿前の駐車場だというのに足元もおぼつかないほどの漆黒の闇。慌てて帳場に置いてある懐中電灯を携え、仰ぎ見る夜の空。

近くには東大の観測所もあるという、星空がきれいなこの地。こればかりは、手持ちでの撮影では決して写せない。訪れた者のみに許される瞬く星たちを、眼にこころに深く刻みます。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夜のお供に中乗りさん特別純米
あとはもう、お酒とお湯に揺蕩うだけ。そんな静かな夜のお供にと選んだのは、地元木曽福島の中善酒造店が醸す中乗りさん特別純米。去年木曽谷を訪れて初めて出逢い、すっかり好きになってしまった旨い酒。

10月上旬木曽三岳の一軒宿釜沼温泉大喜泉夜の静まり返った大浴場で至福の温冷交互浴
1年半ぶりに身を置く、木曽路での夜。久々の中乗りさんの味に酔い、ふと気が向いたら静かな湯屋へ。

大きな浴槽でさっと体を温め、小さな源泉槽で冷泉に身を沈める。3回目ともなればそのギャップにも慣れ、蛇口をひねり何とも贅沢な自分のためだけの源泉かけ流し。肌を覆う細かな泡が、溶け込む炭酸の多さをもの語る。

近くの棧温泉や房総の亀山温泉と、冷泉に縁のあった去年。それとも違う、なんとも不思議な浴感を持つ釜沼温泉。冷たいのは最初の30秒だけ。それを過ぎると、ある瞬間から皮膚に何かしらの壁ができる。すると自分の持つ内側の熱が循環し、表皮にのみ感じる冷たさが心地よくすら感じてくる。

心ゆくまで温冷の往復を噛みしめ、あ、これで充分と思えたときに切り上げる。すると驚くほどに、心身が軽さを帯びている。またひとつ、凄い湯に出逢ってしまったかもしれない。はやくも現れはじめた体調の変化に、自分の体内で生まれつつある予感を確かに感じるのでした。

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木曽路に出づる力水 ~日頃の澱みどこへやら~
10月上旬あり得ないほどの反応を示す長野信州木曽路釜沼温泉大喜泉効果覿面な冷鉱泉
2024.10 長野
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